「『朗報』はないだろう!?」
「健康上の問題で保険の加入は無理なのでは、とあきらめていた方に朗報です!」と案内されている「医療保険」をチェックしていた時の私の感想です。
保険という商品は、お客様が商品を選ぶだけでなく、保険会社がお客様を選びます。たとえば、私は喘息持ちで、一般的な保険には加入できません。が、そんな中で近年は、これまで加入できなかった人でも入れる、とうたう商品が出てきました。
ある外資系保険会社のホームページで見つけたその商品は、高血圧で「医療保険への加入を断られたことがある方」、糖尿病等「既往症をお持ちの方」、「病気で通院中・服薬中の方」方でも加入出来るとされています。私でも入れそうです。さっそく「保障プランとシミュレーション」のページへ進むことにしました。
商品をチェックするといっても、私がやったことはただの「算数」です。「保険料の支払額」と、「入院給付金の支払額」がトントンになるには、「いつまでに何日入院したらいいのか?」と計算してみただけです。入院日額5,000円コースの保険料は、49歳の男性である私の場合、月額約11000円です。年間保険料は13万2000円になります。手術や退院後の通院は考えないで単純計算してみると、加入後1年以内に27日間入院すると、13万5000円の給付金が支払われ「元が取れる」と思われます。
ただし、案内をよく見ると、「1年目の支給額」として別の金額が書いてあります。1年目は入院日額2500円と半分です。この類の商品にはよくあることですが、契約後1年以内の保険金支払いは50%カットされる特別条項が入っています。
したがって、加入後2年間だけで考えると、最初の1年間は元気で、次の1年間で54日以上入院しなければ、それまでに払った保険料は回収できません。それ以降はさらに、元が取るために必要な日数が増えます。3年だと日数81日、5年だと135日です。つまり、それほど月々の保険料は高額だということです。
49歳から55歳までの男性の入院日数を調べると、一般病床では6割以上が2週間以内、8割強が30日以内に退院していることがわかります。当然、数日程度の入院も含まれているはずです。「朗報」どころか、「かなり不利な賭けに誘われている」と感じます。
もともとこうした保険には、(1)保険料が割高である(2)契約後一定期間は支払いがカットされるなどの「免責事項」がある等、「属性」と呼びたいいくつかの特徴があります。保険料の支払いリスクが高い方を対象としているため、これは当たり前です。
営業の現場で、「加入をあきらめていた方に……」と案内される商品を検討するお客様に往々にして見られるのは、それが「最後のチャンス」でもあるかのような思い込みです。その保険に入れなかったら「無保険状態」で過ごすしかない、と認識されているわけです。しかし、現実は違うのです。そもそも、私達は、既往症の有無など問われない「健康保険」に加入しています。職業によっては、入院しても個人負担限度額は2万円程度、という健康保険組合に守られている人もいます。
民間の保険はあくまで「商品」です。取り寄せてみたパンフレットの最初のページには「健康への不安を安心に」とありましたが、「不安」を持つべきなのは保険料の「費用対効果」だと考えるものです。
*参考図書: 「販売員も知らない医療保険の確率」永田宏(光文社)
後田亨(うしろだ・とおる)
1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。
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