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【外信コラム】マーライオンの目 大東亜共栄圏の遺産
毎年、8月が近づくと1995年の夏を思いだす。あのころ、戦後50年企画記事の取材で戦没者遺族の家々を訪ね歩いていた。
行く先々で、特攻隊員や戦死した若者たちの手紙、遺書を読ませてもらった。両親への思い、妻子への思い、祖国への思い、いろんな思いに交じって、「大東亜建設のため」との言葉が目についた。先の戦争で日本は「大東亜共栄圏」の建設を大義名分に掲げて戦った。検閲があった当時、その言葉のすべてがすべて本心とはいえまい。それでも「共栄圏建設」をスローガンに、数え切れない日本人−朝鮮半島や台湾などの出身者も含め−がアジア太平洋地域で倒れたのは紛れもない事実である。
そして敗戦から60年。今度は「東アジア共同体」を建設すべく、2005年にマレーシアで第1回東アジアサミットが開かれた。
取材をして違和感を覚えたのは、大東亜共栄圏の経験が全く触れられなかったことだ。まるで存在しなかったように無視された。負の歴史を蒸し返されずにすんだ−と安堵(あんど)する日本の官僚たち。だが、東アジアの繁栄を目指すという一点においては、東アジア共同体と同じではないのか。東アジア繁栄の理想を掲げて亡くなった先人の存在は、日本のみならず域内の財産である。日本政府は静かに、しかし毅然(きぜん)と主張すべきだ。耳を傾ける国は決して少なくないだろう。
4年間の東南アジア駐在を振り返り、強く思う。(藤本欣也)