【萬物相】金剛山観光中の災難
高校教師のAさんは昨夏、金剛山観光に出発した。日程を終え韓国に戻る日、最後の経由地である北朝鮮側の出入境事務所で事件が起きた。バスが出発しようというとき、突然北朝鮮兵士が上がり込んできて、窓際に座っていた短髪の男性に「下りろ」と言ったのだ。その男性が自分に向かって拳をグッと握って見せた、というのが理由だった。何気なく窓の外に向かって手を振っていた男性は、ひどく慌てた。彼は兵士待機所に連行された後、30分以上も厳しく油を絞られた。Aさんをはじめ、バスの中にいた一行にとって、その30分間は何年もの間に感じられた。
2006年に金剛山を訪れたハンナラ党の車明進(チャ・ミョンジン)議員は、北朝鮮の見張り兵にアイスクリームを勧めたために、ひどい目にあった。北朝鮮兵士十数人に取り囲まれたかと思うと、「ちゃんと立っていろ」「過ちを犯しながらそんな態度でいいのか」「謝罪の姿勢がなっていない。謝罪文を書け」と責めた。車議員は仕方なく「申し訳ないと思っています」と書き、やっと釈放された。
1999年には7歳の息子と一緒に金剛山に行った30代の主婦が6日間も抑留された。この主婦は九竜滝の前で北朝鮮の案内員に向かって「南に来た北朝鮮の亡命者たちは元気に暮らしていますよ」と話しかけた。北朝鮮は主婦を無理やり連行し、「亡命工作をしたことを認めよ」と強要した。主婦は平壌から来た調査官たちに痛めつけられ気絶したり、何度も謝罪文を書き直したりした末、やっとのことで帰宅が許された。
先週末、金剛山観光に出発した50代の主婦、パク・ワンジャさんが未明の海辺を散歩していたところ、北朝鮮兵士に銃撃され、死亡した。昨年6月、南北金剛山共同祈とう会に参加したキム・ホンスル牧師も夜中に海辺を歩いていて、今回パク・ワンジャさんが亡くなった場所で北朝鮮兵士に抑留されたという。海水浴場の散策路だと思い、何も疑わすにそれに沿って歩いていると、突然「止まれ!」と命令された。驚いて振り返ると北朝鮮兵士二人が銃を構えていたというのだ。
金剛山を訪れた人々は、「ホテル・レストラン・休憩所で働いている人々は比較的親切だが、兵士や案内員は態度が硬く、威圧的」と話す。観光地周辺に複数ある北朝鮮の軍事施設と観光コースの間は、隔離・緩衝設備が不備で、観光客への指導も不十分といわれるだけに、今回の悲劇は予想されたことかも知れない。一般家庭の主婦を銃で撃ち殺しておきながら、逆に責任を負わせる北朝鮮の地に、10年間も多数の国民を送り込み続けた韓国人は、身を守るということを非常におろそかにしてしまっていたようだ。
李先敏(イ・ソンミン)論説委員
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