音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

社説1 米政府は公的資金注入を打ち出したが(7/15)

 ポールソン米財務長官は13日、経営難に直面する政府系住宅金融会社に対し、必要なら公的資金を注入するとの緊急声明を発表した。住宅価格下落で傷ついた自己資本を強化するのが狙いだ。新たな金融危機に政府としての関与を強めるが、議会と足並みをそろえられるかどうか。事態はまさに山場を迎えている。

 今回の緊急策に合わせ、米連邦準備理事会(FRB)が住宅金融会社向けに公定歩合の貸出枠を設定したと発表した。ホワイトハウスも足並みをそろえているとの声明を出した。日曜日の夕刻という異例のタイミングでの発表である。3月に米大手証券ベアー・スターンズに対し官民挙げた救済策を打ち出したのが、同じく日曜日だったことが想起される。週明けに開くアジアなど海外株式市場に動揺が広がり、米国に跳ね返ることを懸念したのだろう。

 政府系住宅金融会社である連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は、住宅ローンを買い取り証券化商品を組成している。両社は米住宅市場の要に位置している存在だ。また両社の発行する債券は最上級の信用格付けを持っているため、海外投資家も大量に保有している。

 両社に万一のことがあれば、米金融市場に動揺が広がるばかりでなく、ドルの信認が大きく傷つきかねない。ポールソン長官が緊急対策を打ち出したのは、政府系住宅金融会社に端を発したこうした危機の連鎖を断ち切る必要があったからだ。FRBによるつなぎ融資ばかりでなく、公的資金で傷ついた資本を修復する方針を示したのは一歩前進だ。

 もっとも米当局は両社の国有化を強く否定している。ホワイトハウスの声明が「株主所有の会社という現行の業態」の維持を強調し、ポールソン長官も公的資金注入に際し「納税者を守るために期間や条件を定める」と明言する。納税者の資金を安易に使うと、議会の同意が得られないという事情があるからだろう。広義の債務残高が計5兆ドルに達する両社を丸抱えしたら、米政府の負債が膨らみ米国債の信用にも傷がつくとの考えも働いているに違いない。

 となると両社の自己資本が傷ついている度合いに比べ、公的資金の注入が不十分なものにとどまる可能性が否定できない。金融市場の不透明感がぬぐえないようだと、米政府に追加的な対策を迫る形で、株価やドル相場が不安定な動きを続けるかもしれない。米議会が夏休み前に政府と協調行動をとるかも含め、抜本的な問題処理に向け決意が試される。

社説・春秋記事一覧