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社説

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竹島問題―日韓は負の連鎖を防げ

 竹島が日本の領土であることについて理解を深めさせる。中学校の新しい学習指導要領の解説書にそうした趣旨が初めて書きこまれたことで、韓国側が激しく反発している。

 日本海にあるこの孤島をめぐっては、日韓双方が領有権を主張し、たびたび外交摩擦の火種となってきた。

 韓国政府はさっそく日本大使を呼び出して抗議した。国会議員の代表団がヘリコプターでわざわざ島に乗り込んで示威行動にも及んだ。

 韓国にとって、竹島は単なる小さな島の問題ではない。日本が竹島を島根県に編入した1905年は、日本が韓国から外交権を奪い、併合への道筋を開いた年だ。竹島は、日本による植民地支配の象徴とされている。

 韓国の人たちは「独島」と呼び、「独島、われらが土地」という唱歌で子どもの頃から愛国心を培ってきた。島の領有は韓国ナショナリズムのゆるがせにできない柱なのだ。

 3年前、島根県が編入100周年で「竹島の日」条例を制定し、韓国側が猛反発したことも記憶に新しい。

 日本政府はそうした韓国側の事情もくんで、竹島問題には抑制的だった。だが今回、様々な事情が重なって問題が先鋭化している。

 学習指導要領はほぼ10年ごとに改訂され、それに伴って解説書も見直される。それが今年に当たった。

 そこに向けて、自民党の一部などに、北方領土とともに竹島の領有権問題をもっと学校で教えるべきだ、とする声が強まっていた。

 一方で韓国では李明博政権が出発したばかりだ。北朝鮮の核や拉致問題で韓国との協力も欠かせないなか、福田首相としては、そうした外交への配慮から韓国を刺激するのは避けたい。

 それもあって3月告示の指導要領の改訂で竹島への言及を見送ったが、代わりに解説書では何らかの形で触れざるを得なかった。政権基盤の弱い首相の苦しい党内配慮も見える。

 韓国の事情も苦しい。米牛肉の輸入再開を機に、国民の不満が爆発している。李政権としても、ここで国民に弱腰を見せるわけにはいかないのだ。

 だが、ここは冷静になりたい。

 今回の解説書はあくまで日本政府の従来の見解に沿ったものに過ぎない。4社の教科書はすでに竹島を取り上げている。大多数の日本国民は良好な日韓関係を維持したいと望んでいる。日本政府はあらゆる機会にそのことを韓国に丁寧に説明すべきだ。

 韓国側の怒りも分からぬではないが、解説書では竹島の領有権をめぐって日韓の間の主張に相違があることを客観的に明記している。

 互いに主張し、違いがあればあることを認め合ったうえで、冷静に打開を図る。それ以外にない。

米金融危機―拡大止める大胆な策を

 低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)の崩壊で始まった米国の金融不安が、第2段階に突入した。

 政府系住宅金融機関の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディーマック)の経営不安が急浮上したのだ。

 どちらも米国の住宅金融と証券化金融の中核だ。ファニーメイは20世紀前半の大恐慌時代に発足した。第2次大戦後は優良な住宅ローンを銀行などから買い取り、これを担保に証券を発行する「証券化」という金融手法を生みだした。フレディーマックは70年にこれを補完する形で設立された。

 サブプライムとは一線を画していた2社の経営不安は、住宅相場が下げ止まらず、貸し倒れ不安が優良ローンへも広がったことを示している。

 2社は国有でも国営でもないが、政府の肝いりで誕生し、さまざまな政府支援を受けている。このため、発行する証券には政府の暗黙の保証があると市場で見なされ、2社で米国の住宅金融の半分にも関与している。その規模は約530兆円にものぼる。

 市場経済の国にありながら、官・民二つの顔をもつあいまいさが2社の節度をこえた肥大化を許している、との批判が数年前から米国にあった。その問題点が、住宅ブームのなかで拡大していた嫌いがある。

 加えて、第1段階での不安を鎮めるため、2社が買い取るローンの対象を信用度が低いものへも拡大した。こうした一時しのぎの策が経営をさらに圧迫している。こうしたことから、2社の株価が先週急落した。

 市場の混乱に直面したポールソン財務長官は日曜日に緊急声明を発表し、2社への機動的な資金供給とともに、財政資金の投入にも初めて言及した。市場に追い込まれてのことだ。

 2社の発行する証券は世界中の金融機関が買っている。万が一にも破綻(はたん)すれば世界の金融システムが大混乱に陥り、ドル不安につながる恐れがある。それを防ぐため、米当局は2社の国有化も検討に加えつつ、断固たる措置をとらなければならない。

 納税者の資金を金融機関へ投入することに米国ではアレルギーが強いが、それは日本もバブル後の金融危機で経験したことだ。そのため日本の対策が後手にまわり、「小出しで遅すぎる」と海外からも批判された。それなのに米国は同じ道をたどっている。

 今回たとえ2社の危機をしのいでも、一般の金融機関へ経営不安が広がる第3段階の危機が避けられないかもしれない。住宅相場が下落を続けており、景気の悪化で一般企業も苦境に立ち始めているからだ。

 米国の危機は世界へ波及する。米当局は日本の経験に学び、先手をとって根本的な対策を立てる責任がある。

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