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次期芸術監督の人事迷走 新国立劇場

2008年7月9日

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写真尾高忠明氏写真遠山敦子理事長

 新国立劇場が次期芸術監督の選任をめぐって迷走している。運営財団(遠山敦子理事長)がオペラ・舞踊・演劇3部門の監督を10年秋に一斉に代えると発表、「一大イベント」とうたって清新さを強調したが、関係者から異論が続出。名前の挙がった予定者からは「辞退もありうる」との声まで出た。芸術監督のありかたが改めて問われている。

 「え、僕に決まったの?」 オペラ部門の芸術監督予定者として発表された指揮者尾高忠明さんは、新聞記事を読んで驚いたという。

 芸術監督は、舞台にかかわるすべての状況を把握しながら舵(かじ)を取る大役だ。尾高さんは、多忙を理由に一度断ったと話す。「1年の半分は海外にいるし、札幌交響楽団の音楽監督や芸大での教職の仕事もやめるつもりはない」

 これに対し財団は「現状の仕事は続けていい」と説得、尾高さんも了承した。しかしその後、具体的な仕事の内容についての話し合いはもたれず、事実上の見切り発表に。霜鳥秋則常務理事は「これから細かいところを話していけばいいと思っていた」。しかし尾高さんは「それは発表の前に文書化しておくべきこと。劇場が僕に何を求めているのか、僕の人脈やキャリアで何ができるのか、会見の場でも説明するべきだったのでは」と不信感を募らせる。

 尾高さんは80年代、ロンドンや日本で「サロメ」などのオペラ公演を成功に導いた。しかし40代で左肩を痛めて以来、長時間の指揮に耐えられなくなっていた。「僕の演奏実績も含め、きちんと理事会で議論されたのか」と尾高さんは問うが、複数の理事によると、今回の理事会でそうした議論はなかったという。

 「今後、納得のいく書面を出してもらえなければ、辞退の可能性もある」

 演劇部門では、07年9月に就任したばかりの演出家の鵜山仁監督の退任について、疑問が相次いだ。財団側が3月に退任の方針を固め、選考委員兼理事で演劇評論家の小田島雄志さんらが提起した「鵜山再任案」が十分論議されないまま、演出家の宮田慶子さんの選任を決めたためだ。

 次期芸術監督は作品準備のため、就任の約2年前に決まる。1期で退任する場合、1年もたたないうちに評価されることになる。鵜山さんは今年、日韓合作の「焼肉ドラゴン」や「シリーズ・同時代」で高い評価を得たが、時すでに遅かった。理事で舞台照明家の沢田祐二さんは「芸術家の使い捨ては困る」と憤る。

 遠山理事長は鵜山さんの退任理由について「新国立劇場以外の仕事が多忙で、現場のコミュニケーションが難しかった」と話す。しかし、尾高さんに対しては外部の仕事の継続を認めている。

 また、舞踊部門の次期監督予定者デビッド・ビントレーさんも英バーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督との兼務になるが、日本に滞在する日数などの具体的な取り決めはまだされていない。

   ◇

 遠山敦子理事長は朝日新聞社の取材に対し、今回の人事について「これまでの基盤に立ち、劇場の活性化と国際化を、現場とコミュニケーションをとりながら進められる人を選んだ」と語った。

 尾高さんを「人心掌握ができ、経験と若さ両方を備えている」と評価する一方、鵜山さんに関しては「多才で有能だが、あまりに忙しかった。作品の評価は関係ない」。

 3年という芸術監督の任期については「短すぎるし、監督に対しても失礼。延ばす方向で検討したい」と話した。(藤谷浩二、吉田純子)

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