【ニューヨーク=丸石伸一】11日の米国の株式市場は、経営が不安視された米政府系住宅金融機関2社の株が激しく売り込まれ、大荒れの展開になった。低迷する米株式市場では、投資家が悪材料に敏感になっている。
11日の市場で「売り」の標的になったのは、米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディーマック)。取引開始直後に前日終値の50%前後まで急落。終値ではフレディーマックが前日比3%安まで戻したものの、ファニーメイは22%安になった。
民間金融機関の住宅ローンを買い取ったり、保証したりした両社のローン債権は、米住宅ローン残高全体の半分程度にあたる5兆ドル(約530兆円)規模にのぼる。3月にローン債権の買い取り枠を事実上広げる措置が決まり、両社にはサブプライム問題による打撃を緩和する役割を担わされていた。
しかし、住宅市場の減速が止まらず、ローン債権の劣化が進む中で、両社の経営悪化を懸念する声が強まってきた。今月7日には米大手証券リーマン・ブラザーズのアナリストが、会計基準の改正によって連結対象が拡大された場合には、ファニーメイが460億ドル、フレディーマックは290億ドルの資本増強が必要になると指摘した。
さらに米紙ニューヨーク・タイムズは11日、米政府が両社を管理下に置くことを検討していると報じた。「政府がただちに動く事態ではない」というものの、仮に政府の管理下に入れば、両社の株が無価値になる可能性があるとされ、狼狽(ろうばい)売りを誘った。
米政府はこれまで「両社の資本は十分ある」と繰り返し、11日にはポールソン財務長官が「現状の形態で両社を支援するのが最優先」と強調。同日夕には両社自らも声明を出し、「資金繰りも問題ない」とした。「資本は十分」という両社と市場の不安との間のギャップは大きい。
両社が発行する債券は優良資産として各国の投資家に出回っており、不安の解消は急務とみられる。12日の一部の米メディアによると、政府は両社の破綻(はたん)を想定しておらず、全株を取得する「国有化」は協議されていない、という。万が一の「救済」の内容は不透明だが、政府による優先株での一部出資や、米連邦準備制度理事会(FRB)による資金繰り支援などは検討対象と報じられている。
米政府が最も警戒するのは、不安がほかの金融機関に連鎖することだ。だが、直近の最高値から20%超下がる「弱気相場」に入った市場では、悪材料に反応した売り注文が出やすい。11日夜には、米住宅ローン大手のインディマック・バンコープの経営破綻という悪材料が明らかになったばかりだ。11日はリーマン・ブラザーズ株が16%強の急落となるなど信用不安が再燃しており、株価下落が経営に深刻な影響を与える懸念も強まっている。
今週半ばからは、米銀行大手などの4〜6月期決算発表が始まる。サブプライムローン関連の損失拡大が予想されるだけに、週明けも不安定な相場が続きそうだ。