成果主義の導入に伴って、社員の会社に対する忠誠心や愛着が徐々に失われている。例えば、新卒で採用した若手社員が3年以内に辞めていくケースが後を絶たない。
米国の人事マネジメント研究の第1人者であるオライリー教授は、社員の育成を放棄してしまった米国企業の多くに見習うことはないと主張。社員の忠誠心や愛着を再び高めるため、人事制度を作り直して社員の育成を再強化せよと訴える。
さらに日常業務のアウトソーシングによって規模が縮小し続ける中、人事部門を戦略部門に生まれ変わらせ、そのトップの経験者が社長候補になるようにすべきだと説く。
チャールズ・オライリー(Charles A. O’Reilly III)氏
米スタンフォード大学経営大学院教授。専門はリーダーシップ、組織文化、人事マネジメント、イノベーションなど。1971年米カリフォルニア大学バークレー校大学院で経営学修士(MBA)、75年同大学院で組織行動学の博士号を取得。76年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校アシスタント・プロフェッサー。80年カリフォルニア大学バークレー校教授。93年から現職。著書に『競争優位のイノベーション』(共著、ダイヤモンド社)、『隠れた人材価値』(共著、翔泳社)など。
日本企業の多くは今、従業員の会社に対する忠誠心や愛着が薄れるという問題に直面しているそうですね。こうした状態を改善するにはどうしたらいいのでしょうか。1つのカギは、将来の経営幹部を育てるのか、それとも社外から探すのか、どちらを選択するかです。
米国企業の多くが選んでいるのは、後者の社外から探す方です。それは可能なことですが、社外から雇い入れた人が忠誠心を持ってくれるとは限りません。一方、成長するための機会や課題を自社の社員に与えて、将来の経営幹部へと育成することには、大きな利点があります。まず、社員は会社のことをよく知っている。さらに会社に忠誠心を抱いていることも多い。
社員を育成する方を選んだ場合、しっかりと人事制度を作る必要があります。もし育成した社員を会社に引き留めることができなかったり、育成に努めても社員の能力が向上しなかったりしたら、元も子もありません。相互に補完し合う一連の人事制度が必要なのです。
しっかりとした人事制度の構築を企業の経営幹部は真剣に検討すべきですが、実態はそうなっていません。米国企業の経営幹部の多くは「まずは経営戦略だ。人事のことは後でいい」と考えがちなのです。しかし、もし企業に成功をもたらしている要因の1つが、社員の会社への忠誠心や愛着にあるのなら、そうした社員を育てて引き留めることを保証してくれる人事制度がどのようなものかを熟考する必要があります。
米国の優良企業の方が日本らしい
日本企業で社員の会社に対する忠誠心や愛着が薄れている背景には、恐らく米国流になりすぎてしまったことがあるのではないでしょうか。
社員に忠誠心や愛着を持ってもらうという点で、かつての日本企業は優れていた。米国企業の方がそれを見習うべきでした。もっとも、すべての米国企業が、経営幹部を自社で育成せずに社外から探そうとしているわけではありません。私が同僚と一緒に書いた『隠れた人材価値』(原題:Hidden Value、翔泳社)で取り上げた米国企業は、社員の育成に力を入れています。社員の側も会社に忠誠心や愛着を持って働いている。日本の方々が読めば、「まるで日本の会社のようだ」と感じるはずです。
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