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ここから始めるグリーンIT
本気で取り組む企業のための,グリーンIT実践論

2008年,京都議定書の実施フェーズがスタートし,日本は削減基準年(1990年)より6%の温室効果ガス削減を目標としている。
温室効果ガス削減に向けた具体的な施策の1つとして,多くの企業で注目されているのが「グリーンIT」だ。
しかし,実際は「何から手をつければ……」というのが企業の本音ではないだろうか。
シリーズ第1回ではグリーンIT への取り組み方を,日立コンサルティング マネージングディレクターの西村大輔氏に,シリーズ第2回では,グリーンIT化の具体的なステップを日立製作所 省エネセンタ推進部 郷博氏にフリーアナウンサー住友真世氏が聞いた。

vol.1 グリーンITの第一歩は, PDCAの「Plan」のために“今”を知ること

株式会社日立コンサルティング
マネージングディレクター 西村 大輔 氏インタビュアー 住友 真世氏 フリーアナウンサー

グリーンIT導入のキーは電力消費の“可視化”

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住友 ここにきて「グリーンIT」という言葉はかなり企業に認知されたように思います。実際のところユーザー企業ではグリーンITへの取り組みをどのように捉えているのでしょうか。

西村 日本企業の環境に対する問題意識は,確実に変わってきています。企業における「環境対策」の必然性も理解されてきました。また,昨年からの政府やベンダーの取り組みによりITという切り口も認識されるようになっています。京都議定書でも,今年から温室効果ガス(CO2など)削減の目標達成期間がスタートしたことで,CO2の排出を抑える意識が高まっています。実現に向けて,トータルな視点による電力消費の削減が必要という,具体的な対応が見えてきたといえます。

住友 企業における環境対策が一段階具体的になった,と。

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西村 そうです。CSR(企業の社会的責任)としても環境対策は必須ですし,ITという切り口が見え,現場に電力消費削減という命題が下りるようになってきた。しかしここで問題となっているのが,その“電力消費を測る術がない”ということなのです。

住友 グリーンITの重要性は分かっていても,なかなか具体的な対応までに至らない要因の1つが,電力消費を把握することの難しさにあるというわけですね。

西村 企業全体,あるいはデータセンターの建物全体でどの程度の電力を使っているかは,電力会社からの請求を見れば分かりますが,個々の領域単位では把握できていません。IT機器や空調機器ごとに測定するのが現状では難しく,それが具体的な対策を遅らせている面があります。

住友 現状がどのレベルにあって,それがどの程度まで改善できるかが分からないと,グリーンITと一言で言ってもなかなか推進しにくいですよね。

西村 「CO2排出量をこれだけ削減できます」あるいは「電力料金がこれだけ下がります」というのが見えてこなければ,経営者は本気でグリーンITを推進することはできないでしょう。その意味でも,まずは,現状の電力消費の可視化が極めて重要なのです。

IT機器における日本国内の総電力消費量予測(2006年〜2050年) の図 経済産業省の予測によると,IT機器の日本国内の総電力消費量は,2006年比で2025年には5倍,2050年には12倍になる。

PDCAサイクルを確立して長期的・継続的な取り組みを

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住友 では,例えば自社でデータセンターを持っているような企業がその電力消費量を可視化するには,どのようにしたらよいのでしょうか。

西村 正直,ユーザー企業が自社で行うのはなかなか難しいと思います。以前は環境対策を考えているベンダーも,空調なら空調,建物なら建物,IT機器ならIT機器とそれぞれの立場で閉じた対策というものを行っていただけでした。しかし,最近は全体を考えるプレーヤーも出てきています。そういった事業者による診断やアセスメントなどのサービスが登場してきているので,そのサービスを利用するのが1つです。そうしたサービスのなかには,省電力などのコスト・メリットがベンチマークとして提供されている場合もありますので,それを自社のケースに置き換えて,どの程度の効果が期待できるのか検討するのが現実的なアプローチといえるでしょう。

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住友 ほかにはどんなアプローチを行えばよいのでしょうか。

西村 もう1つは,長期的な視点を持つことです。グリーンITを推進するといっても,空調やファシリティやIT機器を一度にすべて入れ替えるなんてことは現実的ではありません。長期的な視野に立たざるを得ないのですから,PDCAサイクルを確立し,長期的・継続的な活動が必須となるのです。まずは,そのファースト・ステップとして,PDCAサイクルの「Plan」を策定するために,電力消費の“今”を知ることが必要です。
 また,総合的に考えることも重要です。データセンターなどは,IT機器だけでなく,空調機器や電源などの多様な設備が集積しています。そして,それらを収容する建物があります。こうした様々な要素を組み合わせたときに,トータルで最大の効果を引き出すことができるかどうかを考えなければなりません。いくら省エネのIT機器を導入しても,空調システムがうまく設計されていなければ,データセンター全体としてはあまり成果を得られないかもしれません。
 全体を視野に入れたうえで,様々な機器や設備を最適な形で組み合わせる必要があります。

グリーンITの評価はCSRと経済的なメリットの両面で

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住友 ポイントは,まずは電力量の可視化を行うことであり,その結果に沿ってPDCAのサイクルを回していくということになるのでしょうか。そして,そこには長期的な視点が必要ですし,また空調や建物,IT機器など総合的に相談できるパートナーも必要になってくる,ということですね。

西村 そうです。あとは経営者がいかにグリーンIT導入に向けて決断するか,ということです。正直に言って,今は景気の悪化が見え隠れしている時期だと思います。グリーンIT導入に二の足を踏むのは分からなくもありません。しかし,2009年には,オフィスビルなどに省エネを義務化する改正省エネ法が施行されると見込まれています。今後も環境規制の強化が予想されるなかで,それをクリアできない場合のリスクは高まっています。
 それに,先にも言いましたがCSRという観点からもグリーンITは重要になります。CSRと経済的なメリットは対立する概念ではありません。CSRを長期的な利益につなげることは十分に可能です。ハイブリッド・カーでブランド価値を高めたトヨタ自動車は典型的な例でしょう。グリーンITは,企業の存続と成長のための戦略でもあるのです。


西村大輔氏株式会社日立コンサルティング
マネージングディレクター
西村 大輔(にしむら だいすけ)氏

1965年大阪市生まれ。89年早稲田大学 政治経済学部卒業。米系コンサルティング会社アーサーアンダーセン(現アクセンチュア)に入社し,製造業や教育産業のコンサルティングを手掛ける。2000年に独立して教育コンサルティング会社エヌリンクスを設立し,社長に就任。06年から現職となる。


住友真世氏インタビュアー フリーアナウンサー
住友 真世(すみとも まよ)氏

1988年に福島テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後はフジテレビ「FNNスーパータイム」のリポーター,NHK-BSのニュースキャスター,テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」(土曜日)のキャスターなどを務め,現在も幅広く活躍を続ける。



■お問い合わせ
株式会社 日立製作所 Harmonious Computing 統括部
TEL:03-5471-2285
URL:www.hitachi.co.jp/greenit

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