Premium Members Club
Phile-web コミュニティ
AV&ホームシアターニュース
オーディオニュース
注目トピック
過去のニュース

はてなブックマークに登録
AV&ホームシアターニュース
2008年06月30日
アマゾン5位、まさか(?)のベストセラー「新・萌えるヘッドホン読本」 − 著者の岩井喬氏に緊急取材

6月25日に発売された「新・萌えるヘッドホン読本」(関連ニュース)が、Amazon.co.jpの和書売り上げランキングで5位を記録した(6月27日時点。6月30日現在では14位)。並み居るベストセラーを押しのけてのこの順位は、まさに“快挙”と言うにふさわしいだろう。当サイトでも執筆している、著者の岩井喬氏に緊急インタビューを行った。

6月27日のAmazon.co.jp 和書ランキングで5位を記録

ーー売れ行きが絶好調ですね。まずは率直にご感想をお聞かせください。

岩井氏:
大変ありがたいことです。この半年間、ずっと単行本のために寝る間を惜しんで作業に当たってきたので、皆さんに評価いただけてとても安心しました。『受け入れてもらえなかったらどうしよう…』と不安になった日々も長く続いたんですが、本当にホッと一息つけた感じです。

ーー印税がすごいことになりそうですが、使い道はやっぱりオーディオ機器ですか?

岩井氏:今から印税のことを言ってしまうと鬼が笑いそうですが、確実にまた新しいヘッドホンを買うでしょうね(笑)。あとはもっと広い部屋の環境に引越ししたいと考えてます。今後のオーディオ評論にも役立てられるよう、その環境に見合ったシステム構築もしたいですね。

同人誌版「萌えるヘッドホン読本」(C)岩井 喬/moe_hp_2007製作委員会
ーーこの本はもともと同人誌(関連ニュース)が出発点だったわけですが、そもそも「萌え×ヘッドホン」という組み合わせの着想はどこから出たものだったのでしょうか?

岩井氏:数年前から『ヘッドホン娘』という、ヘッドホンを着けた女の子のイラストの人気が高まってきていました。そうしたイラストを手がける作家の皆さんとも交流がありまして、『Phile-web』や『オーディオアクセサリー』誌などをはじめ、他誌でも普段からヘッドホンレビューのお仕事もさせていただいてたので、オーディオ評論とヘッドホン娘を組み合わせた本を作ってみたら面白いのではないかと思ったんです。

スタジオ勤務時代からアニメ/ゲームに用いる音楽原盤制作の現場に何度も立ち会ってきているんですが、オリコン上位に入る作品と同等以上に予算をかけて音質にこだわっている現場にも遭遇してきていたので、これらのソフトをもっと紹介したいと思っていた側面もありました。それを思い立ったのがちょうど一年前なんですが、知人の作家さんを中心に声をかけてみたら『それは面白い、ぜひ一緒にやりましょう!』という感じで、作家の皆さんとも意気投合することができました。趣味でイラストを描いたり同人活動をしていたおかげでそういった動きに気が付けたともいえますが、幸運にもそれを実現できる人材が身の周りに揃っていたことが実現への布石になったといえますね。

ーーページの隅々から、岩井さんのヘッドホンに対する情熱が伝わってきましたが、岩井さんがヘッドホンを愛するようになったきっかけは何だったのでしょう。

岩井氏:今から15年ほど前、中学生の頃の話です。ポータブルカセットプレーヤーでいかに高音質な再生を目指せるか、ドルビーC付きの高級モデルを買ってみたり、3ヘッドデッキでメタルテープを使って高音質なダビングを試みてみたりと、新聞配達で得たお金を元手に色々挑戦していました。その中でヘッドホンも大事な要素だから、良いインナーイヤー・ヘッドホンも買ってみようと思ったんです。それで購入したのがテクニクスのRP-HV100という、当時1万円もした2ウェイ・インナーイヤー型の高級モデルでした。これが一番大きな音質改善効果があり、この時からヘッドホンは重要だと感じたんです。しかし、あまりに音質が良かったもので酷使していたら断線してしまってですね…(苦笑)。すでに生産終了して修理も不可能な状況でした。

それ以降、ヘッドホン探しの旅が始まって、各社の高級モデルを買ってみたり、オーバーヘッド型を買ってみたりとしてるうちにソニーのMDR-Z900に辿り着いたんです。それからスタジオに就職し、仕事道具となってより身近な存在になったというところですが、自分のオーディオ歴とほとんど同じ年数ヘッドホンが側にあったので、あって当たり前というか、相棒のような存在でしたので、ヘッドホンには人一倍愛情を持っているといった感じです。

ーー同人誌に対する反響や感想はどのようなものでしたか?

岩井氏:エポックメイキングな存在ということで、様々なブログやニュースサイト、商業情報誌などで取り上げていただくありがたい機会を頂いたこともあり、頒布を開始した昨年11月中には用意していたほぼ全数を売り切ってしまいました。販売委託をお願いしていた書店さんでは1週間以内で完売していたようで、すぐに追加オーダーもいただきました。しかし、こだわった仕様の本だったので、ある程度の量を作っておかないと原資回収もままならないものだったのですが、オーダー量との兼ね合いが難しく、個人で在庫を持つリスクも大きかったので再版は諦めたんです。ありがたいことに、同人版を手に取っていただいた方からは『イラストレーターさんのファンで購入したが、しっかりとしたレビューも載っていて、とても参考になった』、『ヘッドホンを買い換える時の参考にしたい』、『ちょっと高いヘッドホンにも興味が沸いてきた』という肯定的なご意見を多くいただきました。

●売り切れ続出の同人誌の内容をさらにパワーアップ

「新・萌えるヘッドホン読本」白夜書房刊 ¥1,890(税込) (c)岩井喬
ーーその声が、今回の単行本発売につながったわけですね。

岩井氏:同人誌にも拘らず作りこみの深さを評価していただく中で口コミで評判が広がり、『どこに売っているんだ』『手に入らない』という声も良くいただいていたんですが、再版をしないと決めた段階で、商業誌として出し直してみたらどうだろうかと考えるようになりました。単行本化は同人版を手にできなかった皆さんへの救済措置という点が一番大きいですが、同人版の内容を全て収録しつつ、同人版では漏れてしまったアイデアも収めたものにしたいと思っていました。ちょうど昨年末からいくつかの出版社さんから打診があり、作りたい本の内容、条件について相談した結果、白夜書房さんに出版をお願いすることになりました。

ーー今回の単行本の制作で目指したものは?

岩井氏:まず追加収録するモデルは、インナーイヤー型や2〜3万円以内の比較的手ごろな価格帯の紹介を多くしようと考えました。特にインナーイヤー型は小さい筐体の書き分けが難しく、イラストレーターさんへの負担が大きいんです。同人版では作業時間も少なく、そのリスクを回避できなかったこともあり掲載数は絞っていたんですが、今回はインナー型に理解のある作家さんを中心に依頼をかけていきました。さらにヘッドホンを取り巻く環境、アニメやゲームコンテンツという2つの点に着目して、高音質な音楽ソフトを作り出している方々や、ヘッドホンで仕事をしている方々。そしてヘッドホンを作り出す方々へのインタビューを収録しようと思いました。これにより、ヘッドホンを中心とした音の入口から出口までを包括することができるので、よりヘッドホンの魅力を分かっていただけるのではないかと考えました。そして収録数は絞り込みましたが、ヘッドホンアンプの紹介も加えることで、より深くヘッドホンを楽しんでもらえるという提示と、ヘッドホンを入口として、さらにオーディオの世界への興味を持って欲しいという想いを込めてみました。

ーー単行本制作にはご苦労もあったことと思います。何かエピソードがあればお教えください。

岩井氏:まず担当してくださった編集さんを含め、オーディオについてジャッジできる人間が自分一人しかいなかったので、同人版同様にメーカーさんへの企画説明、貸出機対応、取材依頼といったところから全部対応する形になってしまいました。もちろん作業が進むにつれて徐々に編集さんへ業務を引き継いでもらいましたが、執筆や取材以外の点でもそうとうエネルギーを使いましたね。新規追加分のイラストを担当していただくことになった作家さんへのやりとりの大半も、当初は私が担当していたので、プロジェクトが動き出してからの数ヶ月は気が休まる隙がなくてですね…。追加分のインタビューも含めた執筆も、締め切りの2週間前からやっと取り掛かれるくらいの立て込み具合で、全く余裕はありませんでした。当初の発売予定日通りに書店へ本が並んだこと自体、奇跡に近いです(笑)。

●イラストレーターの選定基準はヘッドホンへの“愛”

岩井喬氏
ーーそうそうたるイラストレーターが参加していますが、どういった基準で選ばれたのですか?

岩井氏:基準自体、同人版のときから変わっていないのですが、“女の子”という有機物と“ヘッドホン”という無機物の描きわけができる作家さんが必要であるという点が第一条件ですね。そしてヘッドホンに愛がある作家さんであることも大事な要素です(笑)。同人版の時はほぼ完全に知人か、知人の紹介による作家さんの中で、それらの条件に当てはまる方にお願いしていったという流れです。単行本においても大半は知人から『ヘッドホン娘』を描きたい作家さんを紹介してもらったという形です。『初音ミク』のキャラクターデザインをされているKEIさんも知人からの紹介で、イラストをお願いできることになりました。編集さん経由で紹介してもらった作家さんもいらっしゃいまして、その時もイラストの独特な魅力と無機物の描写について検討し、『この作家さんならばいけるんじゃないか』という直感で依頼させていただきました。

ーーいろいろなヘッドホンが紹介されていますが、ずばり、岩井さんが一番気に入っているモデルは?

岩井氏:これもまた難しいのですが…(笑)。ヘッドホンのチョイスも基本的に自分の好みが反映されているので、取り上げているモデルという点だけでも気に入っているということになるんですが、一番となると…。スタジオ出身の人間ということもあって、モニターとして使えるモデルであり、鳴りが穏やかで聴き疲れしないものが一番の好みです。それは単行本をご覧になっていただいて、傾向表を見ていただくとハッキリしてしまう部分でもあるので、明言は避けておきます(笑)。ただ、オープン型や密閉型、コンデンサー型など、形式によってのサウンドの方向性。インナー型など、どんな場所で使うかによっての利便性など、使用する条件や体調によってもそのあたりは変わってくるでしょうね。

●秋に同人誌の“ライト版”を刊行予定

ーーこれだけ売れたら続編を求める声も大きくなると思うのですが、次の展開の構想をお聞かせください。

岩井氏:まずはこの単行本が皆さんに受け入れていただけたことに対してとても感謝しています。続編を望む声をいただけるのであれば、前向きに次を検討したいと思っています。ひとまずは今回掲載できなかったモデルや、『ヘッドホン娘』を描きたいと望んでいらっしゃる作家さんを中心に、同人誌として、掲載機種やブランド数を絞った“ライト版”を秋口に刊行したいと考えています。これから詳細を詰めていきますが、同人版〜単行本と続いた流れとはまた違ったアプローチができたら面白いのではないかと思っているんです。それ以降は『ヘッドホン娘』に限らず、良い意味で萌え文化と融合できるような、総合的なオーディオ紹介誌の提案をしていきたいなと考えています。

岩井喬氏 プロフィール
1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

(聞き手:Phile-web編集部)

関連リンク



ファイルウェブのニュースが毎日配信-無料登録はこちら