ホーム > きょうの社説


2008年7月13日

◎消費者指数悪化 国民の景況感も低下の一途

 日銀短観の企業心理に続いて、消費者心理も「どん底」に落ちてしまった。内閣府が発 表した六月の消費者動向をみると、そう思わざるを得ない。消費者心理を表す消費者態度指数は三カ月連続で低下し、ついに過去最低になった。「雇用環境」「暮らし向き」「収入の増え方」などすべての意識指標が前月より低下して悲観論がまん延し始めた印象であり、本格的な景気低迷が懸念される。

 原油・原材料価格の急騰による物価上昇はなお続くとみられ、当面、消費者心理の悪化 傾向に歯止めはかかりそうにないが、国民の消費マインドを冷え込ませているのは景気の減速や物価の値上がりだけではあるまい。財政当局から聞こえてくるのはもっぱら増税不可避論であり、社会の将来像を明るく描けないこともあろう。

 現在の景気の落ち込みは原油高騰や米国の景気減速など外部要因が大きく影響し、日本 だけでは対処できない面があるとはいえ、景気の後退を食い止める処方せんを示し、国民に将来生活への自信を抱かせるという政治の役割が十分果たされていないことも指摘せざるを得ないのである。

 額賀福志郎財務相は二〇一〇年代半ばまでに消費税率を10%以上に引き上げる必要性 を説いたが、消費者が悲観的になっているこの時期になぜ増税論をしつこく主張しなければならないのか合点がいかない。福田内閣にいま求められるのは、むしろ減税による景気浮揚策の検討や、「増税なき財政再建」に取り組む強い意思を表明することではないのか。

 明日の経済社会づくりにかける福田康夫首相の決意や熱意が、国民にあまり伝わってこ ないのも残念である。たとえば、二十一世紀版の「前川リポート」と位置づけられる内閣府専門調査会の報告書が先に公表された。「日本経済の若返り」を副題にした報告書は、「国境を越えて新しい発想や技術、高度な人材が集まる知的創造拠点を目指せ」と提言している。それを実現するには、さらに規制改革や構造改革を進めなければならない。福田首相はもっとやる気を見せてもらいたい。

◎「採用選考」早すぎる もっともな大学側の要請

 国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会の三団体が、企業による学生の 採用選考活動時期が早すぎるとして、日本経団連など百三十七の業界団体や就職情報関連企業に是正を求める要請書を出した。

 四年制大学なら三年生の夏ごろから就職活動が始まっていることを挙げ、「学生の能力 ・資質を高める貴重な学びの時間を奪っている」と指摘し、採用選考を四年生の六月まで控え、その後、休日や夏休みに実施を、と求めている。もっともな要請だ。企業も学業に励んだ学生を採用するのが望ましいのだから、見直しに応じてよいのではないか。

 就職活動は、一九四〇年代までは四年生の秋ごろから始まっていたのだが、よい学生を 採りたいとの企業側の事情からその時期が早まり、乱戦模様になった。一九五二年に文部省通達の形で就職期日の指針が示され、翌年には大学、業界団体、関係官庁による就職問題懇談会で学生の推薦開始を四年生の十月一日以降とする「就職協定」が合意された。

 その後、日経連が就職協定廃止を宣言する等々で、協定が廃止されたり、復活したりし たほか、学生に人気のある企業を持ち上げるような企画も盛んになり、抜け駆けで優秀な学生を採用する「青田買い」がやまないため、一九九六年に再び協定が廃止されたとの経緯がある。

 採用や就職の活動にしても過熱すると、ろくなことがない。よく引用される話だが、ノ ーベル化学賞を受賞した富山市出身の田中耕一さんは就職先人気上位の定番企業を不合格になり、教授の進言で知名度は低いが、研究開発に意欲的な島津製作所に入社し、世界的な研究を成し遂げた。田中さん自身も知らなかった企業だったというから愉快だ。

 この話には、例外だと片付けられないものがある。素質のある学生を採るために企業は 腰を据えて取り組み、学生も何をやりたいかを考え、自ら企業を選ぶのがよい。早まりすぎて勉学の障害になってきた採用選考時期を見直すべきときだろう。


ホームへ