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【暮らし】

自治体の災害非常食備蓄 救援側 『完備』ごくわずか

2008年7月13日

 大地震などの災害時、救援物資が到着するまでの食糧の備えは必要不可欠。一般市民用に備蓄している自治体は多いが、“救援する側”になる消防スタッフ用にはほとんどの自治体で備蓄していないことが、甲南女子大の奥田和子名誉教授(栄養学)の調査で分かった。奥田さんは備蓄体制に警鐘を鳴らす。 (渡部穣)

 「消防スタッフもしっかり食べなければ仕事ができない。被災地で、一般市民との食糧争奪戦をさせるつもりですか」

 「働く人の災害食」(編集工房ノア)を先月出版した奥田さんは、食糧備蓄体制の不備に憤る。兵庫県芦屋市在住で阪神大震災で被災経験のある奥田さんは昨年春、神戸市など近畿地方の十四市、地震の警戒地域とされる東京都や名古屋市、静岡市など計二十一自治体の消防スタッフ用の備蓄状況を調べた。その結果、食糧・水とも完備していたのは、兵庫県西宮市と大阪市、横浜市の三市だけだった。奥田さんは自身の被災経験から「異常なストレスを強いられる災害現場で活動するスタッフには、きちんとした食べ物や飲み物のサポートが不可欠」と警告する。

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 「いざというときのための最小限の備えはしてあります」。横浜市安全管理局(消防本部)の職員は胸を張る。

 同市は、阪神大震災の教訓を生かし、消防職員計約三千四百五十人分の食糧備蓄を二〇〇五年度から始めた。職員一人当たり九食分(三日分)、計約三万一千食の備蓄を来年度までに完成させる五カ年計画だ。市内十八の消防署や防災センターなど計二十五カ所に分散して保管。水も職員一人当たり一日に四・五リットルと多めに蓄える。

 五カ年計画にしたのは大量の食糧を一度に買いそろえる予算的な余裕がないという事情だけではない。保存期限を順次迎える備蓄食の入れ替えを五分の一ずつに済ませられるという効率も考慮したためだ。

 模範的といえる横浜市だが、一人一食当たり八百キロカロリーで計算。奥田さんは「激務を余儀なくされる現場の消防スタッフには千五百キロカロリーぐらいが必要」と注文をつける。

 奥田さんは、震災後、不眠不休の復旧作業に追われる電力、ガスなどの各社や、負傷者を手当てする病院、多数の帰宅困難者が出ることが予想される企業にも、スタッフ用の備蓄を呼び掛ける。

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 一般家庭での備蓄も必要だ。奥田さんは「いざというとき行政は頼りになるかどうか。自分たちの食べ物ぐらいは自分たちで何とかするという覚悟を持って」と訴える。自宅周辺が被災地になった場合、道路の寸断などで救援食糧が到着するまでに相当の時間がかかることもある。最低三日分を備え、男性なら一日二千四百キロカロリー、女性二千キロカロリーぐらいが目安。水不足が深刻になる場合が多いので、一人一日三リットルで三日分が必要という。

 奥田さんは「一度に備えようとすると負担が重い。貯金する感覚で少しずつ楽しみながらそろえて」と助言。被災経験者から「野菜が不足した」「甘いものが欲しかった」という声が多いことから、「賞味期限が六カ月から三年ぐらいの野菜や果物の缶詰類、菓子などをそろえておくといい」。

 普段食べ慣れたものを備蓄するのが現実的だ。「賞味期限切れになる少し前になったら、被災しなかったお祝いに家族で食べて、代わりを買えばいい。被災直後でも、食糧に余裕があれば隣近所も助けようという心の余裕も生まれる」

 

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