August 2007

August 14, 2007

「ただいま天候調査中…」の意味は!? -その3-

前回はILSが使える?使えない?という話題でした。
そこでまず、ILSとはそもそも何か、について簡単に解説いたしましょう。


ILSというのは、Instrumental Landing Systemといい、
日本語で言うと「計器着陸装置」となります。
もともと、夜間や悪天などでも安全に着陸するように考案された仕組みのことです。
人間の目の代わりに、滑走路に対してヨコ、タテ、キョリの情報が得られる計器があります。

まず、ヨコ。
滑走路の中心線にちゃんと降りられるように、ヨコ方向を誘導する電波があります。
ローカライザー(Localizer,LLZ)といいます。
滑走路の終端部分にたくさんのテレビアンテナのようなのが並んでいて、
中心線からみて左右で違う周波数の電波が出ており、
コンピュータがこの周波数の混ざり具合をみて
「もっと右」とか「このコースでよい」などの情報がわかります。

そして、タテ。
タテというのは、降下する角度を誘導することをいいます。
ふつうは、理想的な降下角である、3度を誘導しています。
グライドパス(Glide Pass)、あるいはグライドスロープ(Glide Slope)といいます。
これも原理はローカライザーと同じで、
理想的な着地点となる場所のそばの芝生にアンテナがあり、
降下角が大きすぎる(滑走路の手前に降りてしまう)領域と、
降下角が小さすぎる(滑走路を飛び越えてしまう)領域で
違う周波数の電波がでていて、
混ざり具合をみて、「もっと降下角を大きく」などの情報がわかります。

これらはコクピットの計器では、
ちょうど十字の線となって表示されています。
この十字の線が適切なコースを示しているので、
たとえば計器の右上に十字があったら、
もう少しコースを右にとって、降下角を小さく(機首を上げる)しないといけません。

また、キョリを知るために、
滑走路まで一定の距離のところに地上から電波を出しています。
外側から、アウターマーカー(Outer Marker,OM)、ミドルマーカー(Middle Marker,MM)、一番滑走路の近くがインナーマーカ(Inner Marker,IM)といいます。
ILSのある空港はOMとMMを持つのがふつうです。たまにIMをもつ空港もあります。
降下していくときに、こういったマーカーの上空をとおると、
計器のランプがそれぞれ色つきで点灯し(たとえばOMなら青)、
音がブーッ、と決まった回数鳴ります(OMなら長い音が2回)。
これでキョリを知ることができるわけです。
ただ、最近はDMEという別の距離計がILSにおいても使える場合がほとんどで、
それを使うことのほうが圧倒的に多くなっています。

以上の話をまとめると、この図になります。
ILS
(出典:釧路空港ホームページ、ILSイメージ図)

要は、ヨコ、タテ、キョリの情報を得られるのがILSだと理解してください。
あとは忘れてもらって構いません。
着陸に必要なこれらの情報が全部計器から手に入るので(人間の目を必要としない)、
電波の精度さえ保てれば自動着陸も可能なわけです。


・・・と一見万能なILSですが、地上や機上の設備が壊れた時はもちろん使えませんし、
なにより横風や追い風に対して制限があります。
横風が強いとそれにあわせて風見鶏のように機体を斜めにして着陸したり、
追い風でもそれにあわせた操作が必要で、
この技術はまだ自動で出来るレベルになっていません。

ですから前回お話した伊丹の場合、
南東風が吹いている時のRWY14だとILSがありませんから、
追い風の制限許容範囲内なら逆向きにRWY32を使うのがふつうです。

制限許容範囲内でILSが使えれば、多少悪い天気でも問題ありません。
ただ、風が許容範囲内でない場合、
ちょっと悪い天気だと結構すぐに最低気象条件をわってしまいます。
そして欠航につながるのです。


ですから、「今日のフライトは飛ぶのか」と考える時に
もっとも大事なのは風と言えるでしょう。
実際、ILSが使える風ならば、
なんだかんだで着陸できる場合がほとんどですから。

次回は「各空港、この風向きがやばいよ」編をお送りします。

August 02, 2007

「ただいま天候調査中…」の意味は!? -その2-

さて、飛行機の運航を決める次の要素は、雲低高度です。
ギョーカイではCeiling(シーリング、「天井」と言う意味)というのがふつうです。

なぜこんなものを使うかと言うと、
要は「地面を見ることが出来る高さ」を知りたいわけです。

雲低高度が低ければ、当然低い高度まで降りないと、
地面は見えないことになります。
地面が見えないと、パイロットが目視飛行をして着陸することは不可能です。
パイロットがしっかり滑走路を目で見てから着陸するのが基本です。

天気としては単に「曇り」であっても、
雲が極端に低いところまで有れば(ビルのてっぺんが隠れてしまうくらいなど)、
航空にとっては「悪天」なのです。

ですから航空気象台の人は、雲底の高さを測ってくれていて、
これも決まった時間には通報して必ず教えてくれます。

そして、この雲低高度も航空局(つまり国)から最低気象条件として定められています。
空港の周りの山や建物の状況にもよりますが、目視飛行をして着陸するばあい、
例えば500フィート、つまり高度150メートルくらいで雲の下に出られれば良い、
(正確には滑走路が見えればよい)などと定められています。
ですから、視程と同様に、ここも航空会社による差はほとんどありません。


いままでご説明した風、視程、雲低高度の3つの条件だけで
飛行機の運航ができるかできないかの判断はついてしまう場合がほとんどです。

ただ、気をつける必要があるのが、
「滑走路を使う向きによって、最低気象条件が大きく違う場合がある」ことです。
かみくだくと、
同じ天気でも、風向きによっては欠航してしまう場合がある」でしょうか。

なぜかというと、着陸する方式の違いが原因です。
飛行機は、標準として定められている着陸方式はILSという計器着陸方式です。
ひとくちでいえば、着陸を誘導する電波にのってゆったりと降りる方法です。
この電波に乗って降りてしまえば、技術上は全自動着陸も可能で、
霧で視程数百メートルしかない状態でも降りられる設備も一部の空港にあります。
(国内なら霧の多い釧路、青森、成田、熊本があげられます)
(海外には視程ゼロでもいい空港もあります)

しかし、このILSは滑走路の片方の向きにしか使えません。
滑走路の両方にILSを設置する場合には2セット設置しないといけないのです。

しかも、ILSでの着陸というのは、
目視の場合と比べかなり緩やかな角度で降りてきます。
また、当然ですが誘導電波に乗る20-30kmは、直線飛行です。曲がれたりしません。
つまり、着陸する経路上に山があったりする場合には、
ILSは設置したくてもできないのです。
例えば大阪の伊丹空港は、空港の北西方向に山があるため、
南東方向(RWY14)へ向かって降りる時は山が邪魔してILSが使えません。
・・・という事は、南東方向へ向かって降りる、つまり風が南東寄りのとき、
ILSを使わないとしたら、最低気象条件はかなり高い数字になってしまいます。
つまり、ILSが使えればなんでもない天気でも、
使えないとしたらヤバい天気、ってことはままあります。

具体的に言うと、例えばどんより曇ってシトシト雨、なんていう日は
たいてい目視での着陸は出来ず、ILSを使って降りるのが普通です。
つまりそんな日にILSが使えなかったら、、、ということなのです。

さて、けっこう難しい内容が続きましたのでここで一区切りしましょう。
次は「ILSが使える?使えない?」のあたりを中心にお話します。


##仕事に必要な資格試験があって、更新が遅くなりました。
次回からはまた週1をめざしてがんばります!よろしくおねがいします!



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