June 2007

June 25, 2007

「ただいま天候調査中…」の意味は!? -その1-

天気が悪いために、飛行機が欠航になったり、
目的地に着陸できず、他の空港に着陸したりすることがたくさんあります。
「天気が悪い」と一口に言っても、
大雨でも平気で着陸できる時もありますし、
ちょっと曇ってるかなーと思ったら着陸できない時もあります。
そういった事例についてお話していこうと思います。
長くなるので、数回に分けるつもりです。


まず、飛行機にとっての天気で、一番重要なのはです。
飛行機が離陸や着陸をするときは向かい風で行うのが基本だからです。
向かい風がうまく吹いていない(横風や追い風)時は、
その横風などが、航空機メーカー(ボーイングやエアバス)が
定める運用限界内でなければなりません。
当然、この限界を超えるような風であった場合、
「風の影響で運航できない」となるわけです。

正確には、メーカーと航空会社で話し合い、それぞれの航空会社が
メーカーにお金を払って、風に関する運用限界の証明書をもらっています。
(もちろん風以外についてもそうなのですが)
ですから、実は航空会社によってこの限界がちがいます。

よくある事例としては、羽田空港や中部空港など
横風が強くなることが多い空港で、
A社は飛んでいるのに、J社が運用限界を超えてしまったために飛べないというもの。
A社もJ社も使っている飛行機に全く差はありません。
メーカーから発行してもらった証明書に書いてある数字が違うだけ。
いずれはJ社もA社並(というよりも純粋に機体設計上の限界まで)の
限界値になっていくのでしょう。

さて、横風の話で脱線してしまいましたが、
ちなみに追い風での離発着はあまり多くありません。
追い風を使う場合は、後にお話しする視程などに深く関わる合わせ技ですので、
いったん保留させてください。


さて、次に大切なのが視程です。
英語では「Visibility」、略して「VIS」と書いたり、「ビジ」と発音したりします。

当たり前ですが、滑走路は地面にありますから、
まず地上での見通しが利かないと、離陸や着陸に関して安全が保てません。
ですから、霧が広がっていたりする日は、地上交通機関はともかく、
航空にとっては非常に悪い天気の日ということになります。

視程は、日本の場合は空港気象台が卓越視程を報じるのが普通です。
つまり空港の周囲360度見渡してみて、180度以上の範囲は
視程は少なくとも卓越視程以上である、ということです。
たとえば、空港の北側から濃い霧が近づいていたりすると、
北方向だけ極端に視程が低い場合があります。
そういうときでも、東、南、西方向の視程がよければ卓越視程の数字はよくなります。
まあ、こんな場合は気象情報に注釈をつけてくれる場合がほとんどです。

ちなみに、ヨーロッパなどでは最短視程というのを用いていたりします。
こうなると、先ほどの例のような場合は数字が悪くなるのでしょう。

また、最近は純粋に「滑走路にいる飛行機にとっての視程」を測るために、
滑走路視距離(RVR)も報じる空港がほとんどです。
計測器がその場の空気のチリの多さなどを読み取り、
それを視程に置き換える優れものです。

と、いろいろな「視程」の概念がありますが、
結局は安全のために、国(国土交通省航空局)最低気象条件を決めています。
英語では「Weather Minimum」といいますが、
国が公示したという意味を明確にするために「State Minimum」という言葉を使うのがふつうです。
つまり、どんな航空会社でも、まずは従わないといけない数字が決まっているのです。
ですから、どの航空会社でも視程に関する「限界」はだいたい同じです。
風のときのようにA社が、J社が、ということはないでしょう。
もちろん、「State Minimum」に適合するように
会社ごとに「Company Minimum」が別に定めてありますので、若干のずれはあるかもしれません。
会社の経験に基づいて、「国はこう言ってるけど…実際はこんな数字じゃ運航できないよ」という場合もあります。


長くなってきたので、いったんこの辺で終わりましょう。
続きはまた次回に。まだ話は序の口です。


更新が週に一回と言っておきながら、
抜ける週もありズボラな結果になってしまい
申し訳ありません。
これからも“週一”を目指していきますので、
遅筆ぶりを呪いつつ、がんばります。



June 15, 2007

雷接近!〜そのとき飛行機は〜

さて、今回は雷の第2弾、飛んでいる飛行機への影響についてでした。
ずばり、飛行機に雷が落ちたらどうなるのかというと、
ほとんど影響ない場合が大半です。
結構大きな音と、それなりに振動もありますので、
乗り心地が悪いのには違いありませんが、飛行の安全には問題ありません。
ギョーカイでは、「被雷」、「Lightning Hit(ライトニングヒット)」といいます。

まず、飛行機には飛んでいる間にたまった静電気を逃がす為の針のようなものが
翼や機体のあちこちに無数についています。
飛行機に落雷しても、雷の電流はこれらのパーツを通って外へ逃げてしまいます。
ですから、飛行機の中の人間や貨物、燃料には一切影響ありません。
感電することもなければ、燃料に引火して爆発なんていうこともありません。
また、コンピューターなどに電流が入りこんで、
操縦系統を破壊するということもありません。
万が一大電流が入り込んでも回路にはヒューズがついていますし、
別の代替用の回路もありますので、操縦系統に大きな問題が出ることもないでしょう。

問題があるとしたら、機体外部についているスピードや気圧などの計測器を壊したり、
(これも別系統がありますので普通は大丈夫ですが)
被雷した機体の表面にごく小さな焦げ跡を残してしまうことです。
エンジンのブレードなどの薄い構造の部分に被雷すると、
小さな穴(直径数mm程度です)があくこともあります。
そのフライトだけならば問題ありませんが、
さすがに次のフライトではその状態で飛ばせない、といった修理規定があったりします。

ですから、飛行中に被雷していると、地上では整備士が必死に被雷箇所を特定、
場合によっては修理に入ります。
雷の多い日には、こういった修理が多発し、機材変更も多発することになります。
事前座席指定などでせっかく好きな座席を押さえていたのに、
当日機材変更といわれて座席を変えられてしまう場合がありますが、
雷もその原因のひとつなわけです。


とまあ、雷だけなら飛行機にはさほど問題はありません。
むしろ、雷を生み出している親玉、入道雲(積乱雲)のほうが
はるかに飛行機にとっては脅威なのです。

まず積乱雲の中は名前にもあるように「乱」、つまり乱気流が多く発生しています。
ちょっとカタカタ揺れるなあ・・・程度のものではありません。
積乱雲の中の気流は、まるで飛行機が木の葉のように舞ってしまい、
中では手荷物が宙に舞ったり、酸素マスクが落ちてきてしまうほどの揺れがあります。
ひどい乱気流であれば、それだけで機体の構造を破壊してしまうほどです。

さらに、積乱雲の中で木の葉のように舞うのは飛行機だけではありません。
雨の粒もひらひらと舞って、氷点下を行ったりきたりするうちに、
雨が凍った氷の粒のまわりにさらに雨が付着→その周りの雨も凍る
という動作を繰り返します。
いつしか大きな氷の塊が出来上がって、それが「ひょう(雹)」と呼ばれるのです。
雹は機体に当たっただけで機体はボコボコに変形してしまいます。
いつか飛行機の翼というのは大変繊細で整備士も足を乗せてはいけない場所がある、
というようなお話をしましたが、それどころの騒ぎではないですよね。

また、雨が凍るのは機体の表面でも起こりえます。
つまり、飛んでいる飛行機にどんどん氷がついてきてしまうのです。
着氷といい、ギョーカイでは恐れられている現象の一つです。
これも飛行機の翼の形を変えてしまうので、
推進力や揚力を大きく削がれることになり、危険な事態になりえます。


最近何かと話題になる、「ダウンバースト」も積乱雲がもたらす現象です。
積乱雲の中で、急速に雪が雨になり、雨が蒸発し・・・ということが起こっていると、
それにより周囲の空気から熱を奪い、
大きな冷たい空気の塊が地面に向かって落ちてくることがあります。
これがダウンバーストと呼ばれる現象です。
小さなものはマイクロバーストとも呼ばれますが、原理は同じです。

飛行機にとっては、下降気流により頭を押さえられて高度をなくしてしまうことと、
その下降気流が地面にぶつかって、四方に風が広がることで、
ダウンバーストの外と中で全く違う向きの風が吹くこと、この2点が問題になります。

ギョーカイでは、風の吹く向きや強さが大きく変わることを
「Wind shear(ウインド・シアー)」といいます。
たとえば、今まで向かい風であったのが急に追い風に変わると、
飛行機が生み出せる揚力が急に減少し、
高度が急に下がり、危険な状態になる可能性があります。

積乱雲


ご紹介したように、雷は飛行機にとってさほど怖くありませんが
積乱雲というのはそれだけで「空の立ち入り禁止区域」とも言うべき
危険な現象が山ほど詰まっているわけです。

もちろん、実際の飛行機においては積乱雲に入ることはほとんど無いはずです。
パイロットは、その危険を入社当初から徹底的に教えられているからです。

夏の青空と、真っ白な積乱雲のコントラストは、とても美しい光景ですが、
その美しさとは裏腹に、空には危険も潜んでいるのです。

June 06, 2007

雷接近!〜そのとき空港は〜

これからの時期、雷がよく発生します。
そのとき、飛行機にどんな事態が起こるのか、
運航にはどのような影響が起こるのか、をお話ししましょう。

第一弾は「そのとき空港は」と銘打ってみました。
私の職場である、地上で起こる出来事についてクローズアップします。
実際に飛んでいる飛行機については、次回いたします。


空港で雷が鳴ると、どういう問題が起こるのでしょうか。
基本的に職員や乗客は建物の中にいるわけですので、そこはほとんど問題になりません。
問題になるのは、飛行機のそばで作業をする、
いわゆるグランドハンドリングの人たちです。

雷が鳴っているとき、高いもののそばというのは危ないものです。
雷が高いものに向かって落ちてきて、
それが近くにいた人間にも流れてくる場合があるからです。
広い野原にいるとき、高い木のそばは危ないというのはよく聞く話です。

さて、それと同じことが飛行機にも言えます。
特に、空に突き出した垂直尾翼といい、ジュラルミンでできた機体といい、
雷に落ちてくださいといわんばかりです。
当然、そのそばは危険だということになります。

こうした理由で、航空各社では、雷が近づいたときには
地上作業員に対して注意報や警報を発することを定めています。
細かい内容については各社でばらつきもあるのかも知れませんが、
雷が真上に来たときの対応は各社一致するはずです。
地上作業中止、屋内避難」です。


激しい雷雨をからがらで抜けてきたのに、いざ空港についてみたら
「現在、地上作業を中止していて、スポットに入ることができません」
となんとも落胆するようなアナウンスがたまにありますが、このためなのです。
地上作業員がいないと、翼が何か別のものにあたらないか見てくれる人や
一番大事なマーシャラーという誘導員(しゃもじみたいなものを振っているあの人です)も
いないことになりますし、手荷物や貨物を下ろしてくれる搭載係もいません。
スポットに入ることもできませんし、ましてや出ることも不可能になってしまいます。

こうして、地上作業が止まってしまうと、徐々に空港内に飛行機があふれ返ってきます。
スポットを調整する担当の人は大わらわです。
再開と同時に飛行機をスポットに入れなければならないので、
今開いてるスポットはどこなのか、再開したらすぐに出発する飛行機がいるスポットはどこか、、、

また、気象台の人にもお伺いを立てます。
「いつごろ雷雨は抜けていくでしょうか・・・」
大体、そんなものはレーダーで見た雨雲の動きから判断するしかないので、
気象台の言うことと、レーダーからの見た目で判断できることは同じなのですけれどもね・・・

こうして、雷が過ぎさるのを待ち、通過し次第
みんな大急ぎでダイヤ復旧のため作業に入ります。
それはもう各セクションが血まなこでがんばるのです。
それが航空会社の宿命ですね。


というわけで今回は空港にスポットを当ててみました。
今度は飛んでいる飛行機への影響をお話しします。

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