December 30, 2007
台風が羽田直撃!!の顛末
また投稿まで日が延びてしまいました。もう年末とは・・・
こんどは台風が来た時の羽田空港のお話でした。今年の9/6から7日にかけての台風の事例です。
このとき、台風は東海沖から伊豆半島へ上陸、そのあと関東地方の西側を通過していきました。台風の周りでは風は反時計回りですから、羽田では東よりの風がかなり強くなっていました。
ここで思い出していただきたいのが、羽田空港の滑走路とILSの有無です。
羽田には北風着陸(RWY34L,R)にはILSがあって、雨が降り天気が悪くても問題なく降りられますが、南風になると横風滑走路でしかILSが使えませんでしたね。すると、南東風が吹いて、かつ天気が悪い時はヤバイ、というお話でした。
さて、このときは東風で、70〜90度方向から風が吹いてきました。東京湾で全く障害物もないので、風がそのまま吹き付け、6日午後には10mを常に上回るような風でした。
90度方向(真東)の風だと、34で着陸する飛行機にとっては追い風になってしまいますし、かつ横風成分も大きいという厳しい状況ですが、雨も降り出しており16Lは最低気象条件の関係ですでに使えませんでした。
しかたなく34Lで運用を続けていましたが、パイロットからある報告が入り始めます。
「34L着陸直前で気流が悪くて注意が必要だ」

そう、34Lは東風になると、ちょうど(赤線で囲った)整備ハンガーの風下になります。東風が強いと、このハンガーによる気流の乱れが大きくなってくるのです。
ちなみに、このハンガーをもっと規模の大きい、たとえば山脈と置き換えることができます。山脈に置き換えると、乱れた気流は山岳波と呼ばれる、乱気流の一種になります。

山岳波による揺れは、山の高さと大体同じくらいの高度で、山からおよそ200-300kmほど先まで影響します。たとえば、冬の富士山やその他山脈による山岳波では、高度にして3000m前後、関東地方一円の気流が悪くなっています。現代の飛行機にとっては低い高度なので、上昇降下中に多少揺れる程度で大きく影響はありませんが、その昔には富士山のそばに低高度で近づいたBOAC(今の英国航空)機が乱気流の衝撃で機体がばらばらになって墜落しています。
・・・と怖い乱気流の親戚でもあり、そもそも接地寸前はパイロットでも一番気合が入る部分の一つですので、34Lの気流の乱れは「恐ろしい」とまではいかなくても、「いやな」ものといえます。
実は近年、この「気流の乱れ」を探れる装置が羽田には設置されています。ドップラーライダーというもので、レーザー光を空中に発射し、それが空気中のチリによって散乱する具合を計測して、風を測定しようというものです。
似たような装置にドップラー「レーダー」がありますが、これはいわゆる電波を発射し、それが雨粒にあたることによる反射の程度を測定しています。つまり、雨が降っていないと測定できません。

こちらがライダーによって測定された気流の乱れ具合を表示した画面です。たしかに、ハンガーの位置から東側で、一部黄色く表示されていますね。色が暖色系にいくと、乱れが大きいということをあらわしていますので、そこまで大きくはないにしても、着陸寸前に、やはりちょっとした気流の乱れがあるようですね。
まあ難しい話はさておき、ライダーから出力された画面を見れば、気流がどの程度荒れているのかは一目瞭然というわけです。今後は、パイロットに対して事前に気流の乱れを警告できるような仕組みを考えていくそうです。
ちょっと脱線しましたが、とにかく34Lはハンガー越えの風でひどく荒れていました。17時前後辺りから、「最後安定して着陸できない」としてゴーアラウンド、すなわち着陸のやり直しをする便が出始めます。そしてまもなく風の乱れの少ない34Rへ切り替えて着陸を始めました。
しかしそれでも台風による強い風なのでいわゆる「風の息」により34Rもかなり厳しい状況、そのうちに航空各社ほとんど同じタイミングで横風制限値付近の風となってしまいました。そのため羽田到着便は各社とも欠航の方針が決まり、各地で続々と欠航し、羽田へやってくる機材はなくなりました。
ここでJALとANAでは対応が分かれました。羽田にはまだ機材はあり、かつ離陸なら多少気流が悪くても、横風制限を越えなければできます。羽田にお客さんを残したくないと考えたのがJALで、ぎりぎりの風の中、タイミングを狙って飛んでいきました。
一方のANAは羽田到着便欠航の方針とほぼ同じく、羽田出発も欠航としました。もしここで出発させてしまったら、朝一番で羽田を出発できる機材がなくなってしまいます。結局、お客さんは羽田で泊まらなければなりませんでしたが、台風通過後の朝の便はもうほぼ定刻で出発できる状態でした。
このためJALは台風一過の朝の出発の機材がないため欠航便が出ましたが、結果的にはANAとお互い補い合ったので、「どうしても」というお客さんを運ぶことができたかな、というところですね。
飛行機の欠航の裏に、必ず機材繰りが考えられている。ちょっとしたトリビア(死語?)でしょうか。
次回以降は、「飛行計画」について、お話していこうかと思います。
こんどは台風が来た時の羽田空港のお話でした。今年の9/6から7日にかけての台風の事例です。
このとき、台風は東海沖から伊豆半島へ上陸、そのあと関東地方の西側を通過していきました。台風の周りでは風は反時計回りですから、羽田では東よりの風がかなり強くなっていました。
ここで思い出していただきたいのが、羽田空港の滑走路とILSの有無です。
羽田には北風着陸(RWY34L,R)にはILSがあって、雨が降り天気が悪くても問題なく降りられますが、南風になると横風滑走路でしかILSが使えませんでしたね。すると、南東風が吹いて、かつ天気が悪い時はヤバイ、というお話でした。
さて、このときは東風で、70〜90度方向から風が吹いてきました。東京湾で全く障害物もないので、風がそのまま吹き付け、6日午後には10mを常に上回るような風でした。
90度方向(真東)の風だと、34で着陸する飛行機にとっては追い風になってしまいますし、かつ横風成分も大きいという厳しい状況ですが、雨も降り出しており16Lは最低気象条件の関係ですでに使えませんでした。
しかたなく34Lで運用を続けていましたが、パイロットからある報告が入り始めます。
「34L着陸直前で気流が悪くて注意が必要だ」
そう、34Lは東風になると、ちょうど(赤線で囲った)整備ハンガーの風下になります。東風が強いと、このハンガーによる気流の乱れが大きくなってくるのです。
ちなみに、このハンガーをもっと規模の大きい、たとえば山脈と置き換えることができます。山脈に置き換えると、乱れた気流は山岳波と呼ばれる、乱気流の一種になります。
山岳波による揺れは、山の高さと大体同じくらいの高度で、山からおよそ200-300kmほど先まで影響します。たとえば、冬の富士山やその他山脈による山岳波では、高度にして3000m前後、関東地方一円の気流が悪くなっています。現代の飛行機にとっては低い高度なので、上昇降下中に多少揺れる程度で大きく影響はありませんが、その昔には富士山のそばに低高度で近づいたBOAC(今の英国航空)機が乱気流の衝撃で機体がばらばらになって墜落しています。
・・・と怖い乱気流の親戚でもあり、そもそも接地寸前はパイロットでも一番気合が入る部分の一つですので、34Lの気流の乱れは「恐ろしい」とまではいかなくても、「いやな」ものといえます。
実は近年、この「気流の乱れ」を探れる装置が羽田には設置されています。ドップラーライダーというもので、レーザー光を空中に発射し、それが空気中のチリによって散乱する具合を計測して、風を測定しようというものです。
似たような装置にドップラー「レーダー」がありますが、これはいわゆる電波を発射し、それが雨粒にあたることによる反射の程度を測定しています。つまり、雨が降っていないと測定できません。
こちらがライダーによって測定された気流の乱れ具合を表示した画面です。たしかに、ハンガーの位置から東側で、一部黄色く表示されていますね。色が暖色系にいくと、乱れが大きいということをあらわしていますので、そこまで大きくはないにしても、着陸寸前に、やはりちょっとした気流の乱れがあるようですね。
まあ難しい話はさておき、ライダーから出力された画面を見れば、気流がどの程度荒れているのかは一目瞭然というわけです。今後は、パイロットに対して事前に気流の乱れを警告できるような仕組みを考えていくそうです。
ちょっと脱線しましたが、とにかく34Lはハンガー越えの風でひどく荒れていました。17時前後辺りから、「最後安定して着陸できない」としてゴーアラウンド、すなわち着陸のやり直しをする便が出始めます。そしてまもなく風の乱れの少ない34Rへ切り替えて着陸を始めました。
しかしそれでも台風による強い風なのでいわゆる「風の息」により34Rもかなり厳しい状況、そのうちに航空各社ほとんど同じタイミングで横風制限値付近の風となってしまいました。そのため羽田到着便は各社とも欠航の方針が決まり、各地で続々と欠航し、羽田へやってくる機材はなくなりました。
ここでJALとANAでは対応が分かれました。羽田にはまだ機材はあり、かつ離陸なら多少気流が悪くても、横風制限を越えなければできます。羽田にお客さんを残したくないと考えたのがJALで、ぎりぎりの風の中、タイミングを狙って飛んでいきました。
一方のANAは羽田到着便欠航の方針とほぼ同じく、羽田出発も欠航としました。もしここで出発させてしまったら、朝一番で羽田を出発できる機材がなくなってしまいます。結局、お客さんは羽田で泊まらなければなりませんでしたが、台風通過後の朝の便はもうほぼ定刻で出発できる状態でした。
このためJALは台風一過の朝の出発の機材がないため欠航便が出ましたが、結果的にはANAとお互い補い合ったので、「どうしても」というお客さんを運ぶことができたかな、というところですね。
飛行機の欠航の裏に、必ず機材繰りが考えられている。ちょっとしたトリビア(死語?)でしょうか。
次回以降は、「飛行計画」について、お話していこうかと思います。