July 11, 2006
飛行機にも門限はある
先日、ついに北朝鮮のミサイル実験が行われてしまいましたが、
これに伴い、航空会社としても対応を迫られました。
北朝鮮のミサイルが報道されはじめた6月の中旬から、
すでに航空局からの通達で、
「万一発射があったらそのつど管制圏内の航空機に告知する」
「発射の際にも管制業務は続くので、管制の指示に従うように」
などという指示がされていました。
そんなこと言われても、自分のほうにミサイルが飛んできたら
とても民間の旅客機では避けようにも避けられないし、
どうしろっていうんだろうねえ。。。
というのが大方のパイロットの意見でしたが。
そしてついに発射。
幸い飛行中の旅客機に命中するといったことはなかったものの、
ちょうど日本からヨーロッパに飛行する際の航空路が、
新潟から日本海中部を通ってロシアの空域に入っていました。
着弾した海域とは少し離れているのですが、
それでも安全のために、航空局から日本海中部の航路でなく、
北海道の稚内からサハリン(樺太)を抜けて
ロシアの空域に入る航路を使うように指示が出ました。
これに伴い、JALとANAはそろって航路を変更しています。
おそらく外国社も同じことと思います。
民間航空は平和があってこその産業だと
教えられたことがありますが、
まったくそのとおりだと実感したものです。
閑話休題。今日は空港の運用時間についてのお話です。
ここで問題。夜遅く、成田空港は開いているでしょうか?
実は、開いているとも言えるし、閉まっているとも言えます。
まず、飛行機にとって大切なのは滑走路が開いていること。
滑走路が使えなければ離陸も着陸も出来ません。
成田の場合、騒音問題のため、住民との協定で
夜23時〜翌朝6時まで、通常の離発着は禁止となっています。
これをcurfew(カーフュー)といいます。
都市部の空港には、設定されていて珍しくないものです。
ですから、出発の定刻が22時くらいの便だと、
最初の牽引に5分ちょっと、
誘導路を走る時間が20分くらいかかることも考慮に入れると、
初めからあまり余裕がないのです。
もしこの便で、お客様が乗り遅れたり、
ちょっとした故障があったり、
この機体を使っていた前の便が遅れていたりすると、
それだけで出発が翌日に延びてしまうかもしれません。
ですから夜遅くなると航空会社はみな必死です。
特にパイロットは必死。
私の経験で、とある便の話。
その便に乗り込まれたあるお客様、
とても大柄な方なので通常の座席を2つ分ご予約されていました。
しかし実際に乗ってみると、それでもキツくて座れない!
お連れの方たちと一緒に飛行機を降りるとおっしゃいました。
お客様が何名か降りるだけなら大して遅れはしません。
しかし、このお客様には預けた荷物がありました。
これが大変です。
機体の貨物室を開けて、作業員が「え〜っと、どこだぁ〜」
とそのお客様の手荷物の番号が書いてあるコンテナを探します。
そしてコンテナが見つかったら、
今度はその中からお客様の荷物を取り降ろします。
これが結構時間がかかるものなのです。
ゴタゴタがやっと終わると、時計はすでに22時20分。
これから管制承認をもらって、牽引車で押し出して・・・
と考えると、本当にギリギリの時間です。
そこでパイロットからこんなリクエストが。
「(誘導路を走る距離が少なくてすむように)
滑走路の途中から離陸します(インターセクションテイクオフ)」
つまり、滑走路の端っこまでだらだら行くのは
時間がもったいないので、
もう途中から滑走路に入って、そこから飛んでしまえ!と。
最終的にこの便はなんとか時間に間に合って、無事に飛びました。
お客様は、どうなさったのか私は存じておりませんが、
おそらく座席を三つで予約しなおして、
翌日の便でいらっしゃったのだと思います。
このような罠が待ち受けるcurfewですが、
これは「通常の」離着陸が禁止されているだけです。
つまり、非常事態における離着陸(エンジントラブルなど)は、
いつでも出来ることになっています。
だって、成田の管制塔は24時間開いているんですから。
管制官の夜勤の人が、非常事態を宣言して降りてくる飛行機が
いないかどうか、常に監視しているのです。
このように、滑走路が「普通に」使える時間と、
管制塔が開いている時間というのは往々にして異なるものです。
たとえば羽田は空港は24時間開いていますが、
夜遅くなると海側の滑走路のみ使えることになります。
内陸側の滑走路は、例によって非常時以外は開いていません。
空港によっては、
使わない滑走路のライトの電源を切ったり、
ここぞとばかりに舗装の修理などをしているので、
非常時といっても、着陸する1時間くらい前には
予め通報する必要があります。
「24時間空港」と名高い関西空港や中部空港は、
こうしたcurfewがない空港です。
滑走路と管制塔は常に使える状態です。
curfewが面白い方向に動いたのは、大阪の伊丹空港でしょうか。
昔は、管制塔は開いていて、
滑走路のみ夜9時に閉まってしまうという運用でしたが、
最近は管制塔も夜9時で閉まることになっています。
つまり、9時になったら滑走路のみならず
誘導路のライトの電源まで切られてしまうのです。
9時までに飛行機は完全に駐機場に入らないといけません。
この厳しい「門限」に間に合わせるため、
伊丹に下りるパイロットも必死です。
このように、滑走路が開いているかどうかを基準にすれば、
成田空港は夜は閉まっています。
しかし、管制塔を基準に取れば、
成田空港は24時間開いているのです。
空港の中にも24時間開いてるコンビニがあればなあ〜