August 02, 2006

Runway34R?

今日は滑走路についている数字についてお話しましょう。


空港にある滑走路には、必ず2ケタの数字がついています。
成田ならば、16と34です。
読み方は英語で一文字ずつ、「ワンシックス」のように読みます。
この数字はいったい何なのでしょうか。

この数字は航空情報として発行される空港図等にも書かれるほか、
実際に滑走路に大きな文字で表示されます。
ご覧のとおり。(Google Earthより)

成田34R

この数字、実はもともと3ケタなのです。
最後の1ケタを省略して、2ケタにしているのです。
「16」は元は、大体155〜164の間の数字だということです。

この数字、実は滑走路の向いている方位なんです。
その前にまずは方位を3ケタの数字で表す方法についてお話を。


私たちが日常生活で使う方位はせいぜい東西南北の4方位、
使う人でも8方位あれば十分です。
日常生活で16方位まで使う人は皆無でしょう。

しかし、航空の世界では、
航空機の飛ぶ方向を細かく指示しなければなりません。
16方位でもアバウトすぎるほどです。
しかも、16方位(東南東など)を英語で喋ってみてください。
「East-South-East」、とても長くなってしまいますね。
しかも聞き漏らしがあったら大変です。

そこで、航空の世界では
「方位角」という概念を使うことにしました。
真北をゼロ度とし、東に向かって角度を増やして、
真東で90度、南で180度、西で270度、
そして360度にあたる真北でまたゼロ度になります。


勘の良い方ならお気づきでしょうか。
そう、滑走路の数字とは実は方位角なのです!
ある滑走路に飛行機が入った時、その飛行機はどの方位を向くか。
そのときの方位角の数字を2ケタで示したのが先ほどの数字です。
だいたい、飛行機は滑走路のどちらかの端から離陸しますので、
その端の部分に数字を書いてあるのです。


そして、大事な復習。
飛行機が離着陸するとき、風は追い風ではなく、
向かい風が好ましいことは先日お話したとおりです。

そう考えると、滑走路は作るときの都合で
でたらめな方向に作ってはいけないことになりますね。

ちゃんと「この土地ではどの方向から風が吹くことが多いのか」を
分析してからでないと、いざ空港を作っても、
滑走路に対し横風ばかりが来るようでは、パイロットは大変です。
(事実、最近オープンした中部国際空港ですが、
周辺住民に配慮し、市街地上空を飛行しないように
滑走路を設定したため、鈴鹿山脈からの吹き降ろしの風が
モロに横風となり、このため欠航便がでるほどです。)


こういうわけで、空港を作る前には必ずその土地における
風の分布図を作っておきます。
成田の場合は以下のようになりました。

成田風配図

(縦軸は総観測個数262,968個の分布する個数)
(出典:成田航空地方気象台

20度方向からの風が多いようですが、
この風はとても弱い風が多く、
それよりも冬の北西からの季節風にあたる320〜330度方向の風、
あと夏の季節風に当たる150〜160度方向からの風のほうが強く、
季節風の方向にあわせて滑走路を作るほうが
適当であると判断されました。

そして、この20度方向からの風にも対応できるよう、
横風滑走路も計画されたのです。
(この横風滑走路は用地取得が進まず未完成となっています)


さあ、この分析にしたがって滑走路を作りました!
両手を挙げて飛行機を迎えたい!

しかし、まだ大事な問題が残っています!
そう、飛行機は方位角をどうやって測るのか、です。

もちろん、飛行機は方位磁石を持っています。
一見何の問題もありません。

しかしこの方位磁石、なんとウソの方位を指し示しているのです!
実は、方位磁石はいつでも地図上の北を指してくれる…
というわけではないのです。

方位磁石が北の方角を指してくれるわけは皆さんご存知の通り、
地球それ自体が巨大な磁性を持っており、
一本の磁石のようにみなせるからです。
(地球内部の核における対流により電流が発生し、
それにより磁界が発生しているという学説が有力です)

そして、地球を一本の磁石としてみなすと、
当たり前ですが方位磁石はその磁石の極に向くわけです。

ここでこの図をご覧ください。

偏差

(出典:AOKIDS 偏差・自差

地球の磁石は、すこし傾いているため、方位磁石の指す向きも、
ズレが生じます。このズレのことを偏差と言います。
とりあえず、方位磁石があれば偏差はともかくとして、
方位磁石の指す北の向き、「磁北(じほく)」がわかります。
この磁北に、地質学者さんが求めてくれた偏差を足し合わせれば、
真の北、「真北(しんぽく)」がわかるのです。

日本の東京近辺の場合、偏差は西へ7度ほどです。
普通に生活する分には方位磁石のさす北を真北と思って十分です。
さすがに北極圏に近いアラスカなどは、
偏差が20度以上にもなるそうです。日常生活にも支障が出ますね。

しかしパイロットが飛行中にいちいちこの計算をしていたのでは、
運航に支障が出かねません。
そこで、滑走路の向きを表す数字や、
パイロット向けの航空気象情報に示される方位には、
真の方位ではなく、方位磁石の指す向きを基準にした磁方位が
用いられるのです。


つまり、風の吹く向きを分析し、
風が多く吹く方向に滑走路を作ります。
あとは滑走路に、磁方位にもとづいた数字を振って、完成です。

ちなみに、「R」や「L」というのが
数字の後に入ることがありますが、
これは同じ向きの滑走路が複数あるときに、
その方向に向かって、右側の滑走路をR(=Right)、
左をL(=Left)としているのです。
たまにC(=Center)を使う空港もあります。

4本同じ向きにある場合には、
CL(=CenterLeft)やCR(=CenterRight)を使うのも
アリだそうですが、発音が面倒で、誤解を招きかねないので、
ほとんどの場合、2本2組として、数字をひとつずらすようです。
たとえば05L,05R,06L,06Rといった具合にです。



こんど空港で飛行機にお乗りの際に、
滑走路についている数字を見かけたら、
「この飛行機はいま磁方位で***度の方向に向いているんだなあ」
と思っていただければ幸いです。

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コメント一覧

1. Posted by flight2005    August 03, 2006 16:31
こんにちは!
詳しい情報に感謝します。「うん、うん」と納得しながら読ませて頂きました。NRTのB滑走路も早く問題が解決され本来の長さになれば良いのですが・・・
2. Posted by 地上職員    August 04, 2006 18:38
コメントどうもありがとうございます。
成田空港の歴史は、いずれまた機会をみて
お話しようと思います。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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