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社説:6カ国協議 厳密な検証へ細部詰めよ

 北京でほぼ9カ月ぶりに開かれた6カ国協議首席代表会合が終わった。関係国は北朝鮮の核申告を検証する3原則に合意し、議長役の中国は「北東アジア安定に寄与する前進」と評価する声明を発表した。

 確かに合意は一つの成果だろう。協議が「第3段階」の北朝鮮非核化へ着実に前進していると信じたいのも山々だ。だが、核関連施設立ち入りについて、いつどの施設で行うのか、国際原子力機関(IAEA)はどの程度関与できるか、といった基本的な問題さえ詰め切れていない。いわば同床異夢の合意に、大きな不安を覚えるのだ。

 核計画は全容を把握しなければ意味がない。たとえ知名度の高い寧辺の施設に入念な立ち入りをしたところで、別の施設で核開発が続き、しかも製造済みの核爆弾が温存されるようなら、まるでお話にならない。

 合意された原則は、核関連施設立ち入りのほか核技術者からの聞き取り、文書の検討の3点で、具体的な方法や手順は作業部会などで検討する。あと半年しか任期がない米ブッシュ政権は、拙速は禁物とはいえ北朝鮮非核化のプロセスを意欲的に進めてほしい。改めて要望したいのは、抜け道のない厳密な検証体制をつくることである。

 米国には苦い経験があるはずだ。90年代末、北朝鮮の核疑惑施設について米国は長い米朝協議を行い、大規模な食糧支援と引き換えに調査にこぎつけた。だが、北朝鮮の意向により「検証」「査察」という言葉は使えず、本格的な計測機器類も搬入できず、「訪問(visit)」というソフトな表現に落ち着いた。しかも、地下施設は空っぽのトンネルだった。

 北朝鮮の外交はしたたかだ。今後の検証作業の内容が北朝鮮との実務協議で骨抜きにされないよう、米国はもちろん、日本も細心の注意を払う必要がある。

 米首席代表のヒル国務次官補によれば、検証手順での合意は8月上旬をめどにしている。北朝鮮に対する米国の「テロ支援国家」指定解除が発効する8月11日までに検証作業が完了するのは、もはや絶望的だ。

 また、北朝鮮の核施設無能力化と、関係各国の北朝鮮へのエネルギー支援は10月末までに完了することになった。昨年末までに終わらせるはずだった無能力化の期限は結局、1年近く延長されたことになる。

 この点でも交渉は北朝鮮ペースと言えよう。日本は拉致問題に進展がないとしてエネルギー支援への参加を拒んでいる。拉致問題再調査に北朝鮮が前向きな動きを見せない以上、支援を見合わせるのも理解できる。

 しかし、日本側から北朝鮮に積極的に働きかけ、返答を促す努力も必要だ。関係各国の思惑が錯綜(さくそう)する中、日本の外交力が問われていることを改めて指摘しておきたい。

毎日新聞 2008年7月13日 東京朝刊

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