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北朝鮮が提出した核開発計画に関する申告書をどのように検証するか。9カ月ぶりに開かれた6者協議で、ひとまず大枠の合意ができた。
北朝鮮は、核施設への立ち入りや技術者への聞き取りなどを受け入れた。核開発の中心だった寧辺の原子炉や使用済み燃料の再処理施設、核廃棄物貯蔵所などが対象になると見られる。
過去に国際原子力機関(IAEA)がほんの一部を査察したことがあるだけで、秘密のベールに覆われてきた。その扉が開くとすれば前進だろう。
ただ、合意できたのはまだ原則にすぎない。だれが、いつ、どのように立ち入り調査をするか。必要な技術者に本当に会えるのか。そうした具体的な点について専門家らによる細部の詰めを急ぎ、早く実際の作業に取りかかってもらいたい。北朝鮮が誠実に協力すべきことはいうまでもない。
きのうの合意に不満が残るのは、IAEAの役割を「助言と協力」にとどめるとしていることだ。
IAEAの係官は02年に北朝鮮によって追放されるまで、寧辺の施設を監視していた。90年代初めにも施設を調べたことがある。その知識と経験を生かすため、IAEAの関与をできるだけ広げる必要がある。
今回の6者協議では、核放棄に向けた第2段階の措置を10月末までに終えることでも合意した。
第2段階で残っているのは、核施設を使えないようにする無能力化の作業と、見返りとして北朝鮮が受け取る経済・エネルギー支援である。
北朝鮮は先月、原子炉の冷却塔を爆破する映像を世界に公開したが、使用済み核燃料の抜き取りはまだ半分しか済んでいない。この燃料にはプルトニウムが含まれている。作業を終えさせ、厳重に管理しなければならない。
北朝鮮は同時行動の原則を強調する。そんな北朝鮮に作業を停滞させる口実を与えないためにも、他の5カ国が「行動対行動」の原則で見返り措置を進めることが大事になる。
日本政府は、拉致問題に進展がない限り、経済・エネルギー支援には加わらないとしている。支援は当面、米中韓ロの4カ国が続けることになった。
拉致問題と核問題の二つを抱える日本の立場は難しい。であればこそ、拉致問題で北朝鮮が約束した再調査を実現させ、進展があれば支援に加わるというプロセスを現実のものにしたい。日朝の交渉を急がねばならない。
6者協議はまだ、実際に核を廃棄するという最終段階に入るには至っていない。北朝鮮が保有する核兵器の数など、現時点で不明な点があまりに多いからだ。
6者の外相による会談を早く開き、より高いレベルで不明な点を解明し、最終段階への突破口を開くべきだ。
日本のサッカーを引っ張ってきた東京五輪世代からその次の世代へ、指導者のバトンタッチが実現した。
3期6年にわたって務めた71歳の川淵三郎氏から、Jリーグ専務理事で66歳の犬飼基昭氏へ、日本サッカー協会の会長が代わった。
名誉会長となる川淵氏は、東京五輪で日本代表の中心選手だった。そのチームで監督、コーチを務めたのが、その後ともに日本サッカー協会会長となる故長沼健氏と岡野俊一郎氏だ。
ドイツから招かれ、戦後の日本サッカーの土台を築いたクラマーさんから直接教えを受けた仲間だった。
当時の名フォワードだった釜本邦茂副会長も名誉副会長へ退く。今回の役員改選は、一つの時代の終わりを象徴しているといえるだろう。
犬飼氏は三菱自動車の欧州現地法人社長を務めたビジネス経験に加え、Jリーグでも浦和レッズ社長として敏腕ぶりを発揮したことで知られる。
振り返れば日本サッカーの変化は劇的だった。93年のJリーグ誕生以来、W杯への連続出場や日韓W杯開催をへて力をつけてきた。
技量が高まり、選手層が厚くなっただけではない。「スポーツで、もっと、幸せな国へ」と訴えるJリーグの百年構想をはじめ、地域密着によるスポーツの新しい姿を提案してきた。
Jリーグはクラブとしての自立を求め、企業名をチーム名から外した。企業丸抱えの従来のやり方とは違って、地域に根付いた新たな道を探るのが狙いだった。
学校のグラウンドを芝生化するための支援事業や、スポーツを通してリーダー養成を図る教育施設「アカデミー」の創設も新鮮だった。他の競技や自治体、教育界とも広く連携していく。そうしたアイデアや手法を高く評価したい。
しかし、こうした新しい構想や計画はスケールが大きいだけに、多くが道半ばである。これからが正念場だ。そこに犬飼新体制の力量が問われる。
どの取り組みも、協会に総資産185億円ともいわれる財政的な裏付けがあるからこそだ。にもかかわらず、その財源はW杯や五輪の日本代表の人気に頼りすぎの印象は否めない。
その一方で、Jリーグの経営は不安定で、06年度は31クラブのうち半数近くが赤字だった。ビジネスモデルの確立を急ぐ必要がある。
アジア全体の底上げを図ることも日本の課題だ。欧州などのサッカー先進国ばかりに目をむけるのではなく、アジアで互いの選手が活躍できる場を広げたい。それには各国リーグの上位チームで争うアジア・チャンピオンズリーグへの参加数を増やしたらいい。
新会長は自らの経験を生かし、若い世代の力を結集していくことだ。