懐かしいふるさとに帰りたい――。ハングルで望郷の詩が書き込まれた江戸期の抹茶茶碗(ちゃわん)が、京都の古美術収集家の遺族から韓国・ソウルの国立中央博物館に寄贈される。朝鮮半島から渡来した陶工の思いを託した作品が400年ぶりに海を渡る。
寄贈されるのは口径約13センチ、高さ約11センチの「萩鉄絵詩文茶碗」。83年に70歳で亡くなった京都の古美術収集家藤井孝昭さんが生前、京都国立博物館に寄託した萩焼の作品で、「犬の遠ぼえが聞こえる。懐かしい古里に帰りたい」という趣旨のハングルが表面に記されている。
萩焼は豊臣秀吉が朝鮮出兵した文禄・慶長の役(1592〜98)の際に、毛利輝元が現地から連れてきた陶工が萩城下(現・山口県萩市)で窯を築いたのが始まり。寄贈される抹茶茶碗も渡来した陶工が17世紀初めごろに製作したとみられ、藤井さんの妻八重さん(86)ら遺族が話し合い「日韓交流のささやかな一助になれば」と韓国への寄贈を決めた。
里帰りの橋渡しをした京都国立博物館学芸課の尾野善裕さんは「ハングル入りの萩焼は国内には他に例がない。意義のある帰郷だ」と話す。抹茶茶碗は17日、八重さんと次男の慶さん(58)に携えられ、韓国へと渡る。(北垣博美)