国土交通省はタクシーの供給過剰対策として新規参入制限や減車など規制の再強化案をまとめた。十一日には駆け込み増車を防ぐ措置も打ち出したが、業界自らの構造改革の方が先ではないか。
タクシー事業は二〇〇二年二月から新規参入と増車が自由化され台数が増加した。しかし景気減速と利用客離れで売り上げは減少。全国平均では一日一台あたりの営業収入は二〇〇六年度で二万九千七百三円とピーク時よりも二割強減った。
国交省では業界の疲弊はバブル経済崩壊の影響に加え、過剰な供給力と過度の運賃競争が原因と分析。新たな供給過剰対策を実施して再建を目指すことになった。
交通政策審議会に示した案は現行の監視地域や緊急調整地域制度などに代えて「特定地域制度」を導入する。同地域では新規参入や増車を制限。同時に公正取引委員会と調整して協調的減車も行う。実施期間は三年程度とする。
今回の提案は議論のたたき台だが、新規参入制限などは業界救済策と批判されても仕方がない。
第一に、参入を規制すれば既存事業者の経営は安泰である。経営改善努力がおろそかになり、お客へのサービスも低下しよう。
また減車しても売上高増加につながらない可能性がある。タクシー離れは自家用車の普及や鉄道・バスなどの都市交通の整備など多くの原因が絡む。増収がなければ運転手の待遇改善も進まない。
その待遇改善では昨年に運賃値上げを行ったばかりだ。台数を制限すれば待ち時間が長くなるなど利用客に新たな負担が生じる。
各社が早急に取り組むべきことは自らの経営合理化だ。人件費が経費の約70%を占めるというが、安易な増車や設備投資を行っていないか厳しい点検が必要だ。
タクシー業界全体では黒字経営が続いている。それならば政府は参入規制などを急ぐ必要はない。事業意欲に燃える企業に門戸を閉ざせば業界は発展しないだろう。
各国のタクシー規制はまちまちだ。米国では自由化後、運転手の質が低下したとの批判からニューヨーク市やアトランタ市は台数を制限した。ドイツ、フランスは参入規制を維持。英国ロンドン市も厳しい地理試験で運転手数を絞っている。判断基準は業界の利益ではなく利用客の利便性だ。
同省は年内に審議会答申を得て来年の通常国会へ道路運送法改正案を提出する予定だ。生活者重視の視点を忘れてはいけない。
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