◎海女(あま)採りサザエ 消費者の心動かす物語性
輪島沖の「海女採りサザエ」を総合スーパー、イトーヨーカドーが首都圏で販売するこ
とになったのは、同社が展開する「顔の見える食品」づくりの趣旨に「海女採り」がぴったり一致したからであろう。海女漁は素潜りで一個ずつ手づかみする原始的な漁法であり、輸入品の増加で素性の分からない食品が増える中、これほど顔が特定しやすい水産物はない。商品に海女の写真を張ることも可能だろう。
食のブランド戦略は味の良さ、新鮮さだけでなく、消費者の心を動かすような物語も成
否のかぎを握る。その点、舳倉島、七ツ島周辺で夏季を中心に行われる海女漁は女性の仕事の中でも指折りの重労働で、夫が楽できることを意味する「能登のとと楽」の象徴とされてきた。今月一日の海女漁解禁でも約二百五十人が出漁し、その数は日本屈指である。
意図的につくられた、にわかブランドと違って古い歴史があり、輪島、能登の風土を象
徴する豊かな物語を紡いできたのが海女漁である。本社の舳倉島・七ツ島自然環境調査団も海の変化について海女の人たちからの聞き取り調査を検討している。そこから得られる新たな物語も含め、「海女採り」という磯の香り漂うキャッチフレーズとともにブランドを全国に発信し、定着させたい。
イトーヨーカドーの計画では、首都圏の約八十店でシーズン終了の九月下旬まで「海女
採りサザエ」を販売する。一個ずつ採る素潜り漁は傷が少ないことも契約の決め手となったようだ。
「海女採りサザエ」は輪島郵便局がゆうパックで販売するほかは、ほとんどが県内で消
費されている。大手総合スーパーの幅広い流通網を通じて消費者の声を集め、それを商品に反映させればブランド力はさらに高まるだろう。
海女漁にはアワビや海藻のモズク、エゴなどもある。アワビは漁獲高が急減し、漁期短
縮、禁漁区拡大による漁獲制限や資源回復策が検討されている。資源を有効に生かし、「海女採り」ブランドの数を着実に増やしたい。伝統的な海女漁を存続させるためにも商品の付加価値を高め、生業として成り立たせることが重要である。
◎6カ国協議と日本 北の逆用を警戒せねば
北朝鮮の核計画申告と寧辺の核施設無能力化を受けて、六カ国協議が約九カ月ぶりに動
き出した。
テロ支援国家指定解除の手続きに踏み込んだ米国は核兵器・核計画を放棄させる第三段
階入りを目指し、申告の中身を正確に検証することに狙いを定めているが、その一方で北朝鮮は第二段階の見返りである経済・エネルギー支援を急がせようとしている。
日本は拉致問題が解決しないことを理由に見返り支援に不参加を続け、国民の多くは六
カ国協議を北朝鮮に圧力をかける仕掛けと考えているが、その逆もあり得るとの警戒が必要である。北朝鮮は日本を援助に引き込もうとする戦術をちらつかせている。六カ国協議を逆用してくる可能性が否定できないのだ。
日米韓は「厳格な検証」で一致しているが、見返り支援で微妙な温度差がある。支援作
業部会の議長国は韓国で、米韓両国は日本の負担分を当面、他の参加国で肩代わりする案を検討しているようだ。
北朝鮮の申告の全体が公表されていないため、各国のメディアは関係筋から取材した断
片をつなぎ合わせて全体像に迫る努力をしているが、これまでの報道では、一九九〇年代初めに米国から指摘された核開発時の核物質や、保有しているとされる核兵器についての申告が抜け落ちているなど、あいまいな部分が少なくない。
加えて、米朝間で北朝鮮のウラン濃縮活動や海外への核拡散については別文書で扱うこ
とが合意されていると報道されている。完全な検証を行うためには、どのようなチームを編成するのがよいのかという重要な役割が今度の六カ国協議に課せられている。
日本は米国がテロ支援国指定解除の手続きに踏み込むのと軌を一にして、約九カ月ぶり
に開かれた日朝公式実務者協議で北朝鮮が拉致問題についてこれまでのように「解決済み」といわなかったことなどを受けて経済制裁の一部緩和の方針を打ち出した。各国と協調しながら北朝鮮の非核化に拉致問題解決をセットするさらなる努力が必要だ。