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【健康】

昼間から強い眠気…ナルコレプシー 保険で検査容易に

2008年7月11日

 昼間に強い眠気に襲われて突然居眠りしてしまう病気のナルコレプシー。「麻雀(マージャン)放浪記」で知られる阿佐田哲也氏(色川武大、一九七八年直木賞受賞)も悩まされ、知られるようになったこの病気を客観的に診断できる睡眠潜時反復検査(MSLT)の保険適用が、四月に始まった。愛知医科大病院(愛知県長久手町)で検査の様子を取材した。 (福沢英里)

 「気付くと居眠りをしていた。周りには白い目で見られてつらかった」−。愛知県内の女性(59)は、会議中などに居眠りして勤務先の上司からたびたび指摘を受けた。車のハンドルを握ると眠くなり、追突や接触事故を三度も起こして怖くなった。聞きに行った市民講座をきっかけに検査を受けてみると、ナルコレプシーだった。

 強い眠気を感じる主症状を応用して、昼間の眠気の強さや眠りやすさを調べるのがMSLTだ。眠りに就くまでの時間(睡眠潜時)を測定。健常な人が夢を見やすい「レム睡眠」が、この病気では寝入りばなや目覚めている時にも現れることから、レム睡眠が何回現れるかも観察する。

 「この検査の保険適用は画期的。より正確で客観的な診断がつけられる」と歓迎するのは、愛知医科大病院に今年新設された睡眠科の塩見利明教授。保険適用に合わせ、病棟五階に検査室を造った。

 検査室には室内の様子を見ることができる赤外線カメラや遮光カーテン、防音扉がついていて、外から光や音が一切入らない環境。カメラの映像は別室にあるパソコンの画面に映し出され、担当医や検査技師が常時確認する。患者は普段着のまま、頭や目の脇などに電極を張り付けてベッドに横になる。「目を閉じて眠ってください」と検査技師が指示して検査スタート。脳波や眼球運動、心電図を記録。眠気でこっくりした時に緩む下あごのオトガイ筋の筋電図もチェックする。眠りに就いた後も十五分間測定を続ける。

 朝九時から始め、二時間おきに五回実施。一回の検査で二十分たっても眠れなければその回は終了。五回分の平均睡眠潜時が八分未満で、二回以上レム睡眠が現れればナルコレプシーと診断する。

 愛知医大病院では、四月から三カ月間に検査を三十例実施。睡眠潜時が八分以内だったのは二十七例。レム睡眠が二回以上現れた例は十五例だった。

 原因は眠りをつかさどる脳内のオレキシン神経がうまく働かないため。目覚めている状態を続けたりレム睡眠を抑えたりする機能が失われ、日中の強い眠気になると考えられている。

 治療は薬物療法と生活指導。日中の眠気は覚醒(かくせい)効果のある精神賦活剤のモダフィニルやリタリンなどが有効だが、リタリンは乱用と依存が問題になっている。

 塩見教授は「薬は専門医の監督のもとで適切に使うことが必要だ。症状を自覚し、睡眠時間を十分とって規則正しい生活を送っていけば克服できる」と話す。

    ◇  ◇    

 「全国で二十万−三十万人の発症者がいるとみられるが、治療を受けている患者は一万人程度」。NPO日本ナルコレプシー協会(なるこ会)の河野通久理事は指摘する。「ふまじめ」「怠け者」などと誤解されやすい病気を正しく知ってもらうため、協会は啓発活動に力を入れる。河野理事は「体質的なものと思い込まず、適切な治療を受けてほしい」と強調する。

 <メモ> ナルコは眠気、レプシーは発作の意。10代の発症例が多く、男女差はあまりない。強い眠気のほか、大笑いしたり怒ったりした時にひざや腰の力が抜ける情動脱力発作も見られる。寝入りばなに金縛りの状態から強い不安と恐怖感を体験する睡眠まひや、生々しい鮮明な夢で幻覚を体験する入眠時幻覚などの症状もある。

 

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