・めまい→体冷やし水分、塩分
・吐き気→すぐに病院へ搬送
蒸し暑い夏に気をつけなければならないのが、熱中症だ。地球温暖化や都市部の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」の影響で発症の危険性は高まる。「重症なら死に至る。甘く見てはいけない」と専門家は警告する。予防法や応急措置を知り、夏を元気に乗り切りたい。【江口一】
体がほてり、汗が止まらない。ペットボトルの水を一気に飲むと、逆に寒気がしてきた。気分は悪く、めまいがし始めた。私が4月、炎天下のベトナムで2時間取材した後に経験した症状だ。当時の気温は30度前後で蒸し暑かった。日陰で休息しながら水分をとり、汗で失われた塩分を含む食事をすると、大事に至らずに2時間ほどで回復した。
帰国後、みやさか内科医院(東京都江東区)の宮坂隆院長にこの話をすると、「軽い熱中症だったのでしょう」と指摘された。
■見分け難しく
熱中症とは、暑さで体温を一定に保てなくなり、体内の水分や塩分のバランスが崩れて異常が表れた状態を指す。「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」とも呼ばれるが、医師でも緊急性が区別しにくい。このため、現在では軽い症状から順に1、2、3度と分類される。
人の体温は通常、36~37度の狭い範囲にある。暑くなれば自律神経の働きで、皮膚に血液を集めたり、汗をかいたりして体温の上昇を防ぐ。しかし蒸し暑い夏には体温調節の機能が追いつかず、体に熱がたまる。熱中症の「準備段階」だ。
この段階を過ぎた1度では、めまいや立ちくらみなどの症状が表れる。すぐに涼しい場所に移動させて体を冷やし、水分と塩分を与えることが必要だ。なかなか改善しなかったり、吐き気やけいれんなど症状が出てくればすぐに病院に搬送しなければならない。
有賀徹・昭和大教授(救急医学)は「搬送の際、付き添いの人が熱中症になった当時の気温や行動、既往症などを医師に伝えると適切な診断と素早い処置ができる」と力説する。
■体力低下時も
また、宮坂さんは「高齢者は冷房が苦手だ。おまけに、体温の上昇に気づかないことも多く、要注意だ」と注意を呼びかける。本人や周囲が風邪と勘違いして処置が遅れる場合があり、「夏季に急に食欲がなくなったら、熱中症を疑ってほしい」と話す。また、5歳以下や肥満の人、睡眠不足の人は周囲の環境への適応力が落ち熱中症になりやすい。
熱中症は太陽が照りつける屋外で起こると考えられがちだ。しかし、宮坂さんによると、室内で全患者の約3割、重症者の約6割が発症している。「暑く蒸した換気のない室内で、アイロンをかけたり、台所で料理をしたりする場合には要注意だ」と警告する。
体が暑さに慣れていない時の発生が多く、特に梅雨明け後の約1週間に目立つという。1日では気温が高くなる午前11時~午後3時が危険時間帯だ。
■温暖化で北上
温暖化による気温の上昇で、熱中症の危険性も高まりそうだ。
環境省が6月に公表した報告書によると、昨夏は東京都と17政令市で熱中症で搬送された患者数が、過去最多の5102人に上った。今後、北海道や東北地方でも熱中症発症のリスクが高まるとして、エアコンのない世帯向けに、一時避難所の設置を提案している。
国立環境研究所の小野雅司・総合影響評価研究室長は「日本全体では、熱中症のために年間300~400人が亡くなっている。最高気温が35度を超えると、熱中症のリスクが高まる。高齢化社会を迎え、お年寄りへの支援体制に力を入れるべきだ」と話す。
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<熱中症の重症度と対処法>
症状 重症度 対処法
めまい、立ちくらみがある 1度 水分、塩分を補給する(塩分も補えるスポーツドリンクが最適)
筋肉のこむら返りがある(痛い)
ふいても汗が出てくる
頭ががんがんする(頭痛) 2度 足を高くして休む
吐き気がする・吐く 水分、塩分をとる(自分でとれなければすぐ病院へ)
体がだるい(けん怠感)
意識がない 3度
体がひきつける(けいれん) 水や氷で冷やす(首、脇の下、足の付け根)
呼びかけに対し返事がおかしい すぐに救急隊を要請
まっすぐに歩けない・走れない
高い体温である
毎日新聞 2008年7月11日 東京朝刊