「アラーキー」こと、写真家の荒木経惟(のぶよし)さん(67)が6月28、29の両日、熊本市上通町の市現代美術館で「母子」のヌード撮影をした。過激なヌード写真で知られる荒木さんだが、母子をテーマにするのは初めて。「愛とか生とかを考えると、最高のポートレート(肖像)はお母さんと子どもなんじゃないか、そういう気分になった」。そう語る荒木さんに共鳴した40組が熊本県内外から参加した。
荒木さんは「還暦を越えて死とか生を考える時期になった」と撮影前の会見で話した。
撮影は非公開。カメラの前に立った母親たちに話を聞くと、出産や生に対する様々な思いを抱いていた。
熊本県内の女性(36)は2月に生まれた長男と参加した。上に娘が1人いるが、3度の流産も経験した。5年前には弟を事故で亡くし「命というのは、いろんな偶然が重なって全うできるもの」と改めて思ったという。
「流産を経験し、無事産めるのは本当に幸運なんだと実感した。母と子はやっぱり特別な関係。荒木さんに撮ってもらい、それを形に残したかった。どんな作品になっているか楽しみ」と笑った。
「おなかにでっかい傷がある」と生後9カ月の長女と撮影に臨んだ福岡市の女性(30)。緊急の帝王切開で娘を出産し、腹部に10センチほどの傷が残った。
最初は、正常分娩(ぶんべん)ができなかった自分に負い目を感じた。傷口が痛むなど、心身ともにつらい時期があったが、子どもの成長を見ているうちに気持ちが変わってきたという。
「逆に娘を産んだ証しになっていいかも、と思えるようになった。この傷も、写るものなら写してほしい」
荒木さんの大ファンという熊本市の女性(34)は4カ月の娘と参加した。「一つの生を産むのは生々しく、命をつないだことを実感した。荒木さんはそれを写真に残してくれると思った」
51歳の夫も応募に大賛成した。わくわくして臨んだ撮影。女性は「妊娠から出産までいろんなことがフラッシュバックした。生んだ意味を形に残せてよかった」と笑った。撮影に立ち会った夫も「家族のきずなを再認識できた」と喜ぶ。写真は必ず家に飾るつもりだ。
「よしきた」「いいね。やっぱ、お母さんはいい」。撮影は軽快に進んだ。荒木さんは、個々のモデルの事情をくんで撮影するのではなく、あくまで自分のテーマで作品を撮るという姿勢だった。
「いろいろ抱えてるらしいのは見ていて、分かるけどね。そういうのじゃなくてね、『ここにある愛』みたいなものを撮ったんだよ」。荒木さんらしい笑顔で締めくくった。
作品は、11月1日から同館で開催する荒木さんの個展で発表する予定だ。【和田大典】
毎日新聞 2008年7月10日 14時23分(最終更新 7月10日 15時01分)