米国の金融当局が投資銀行の破たん処理制度づくりに乗り出した。住宅ローン問題に端を発した銀行の経営危機は根が深そうだ。金融不安の連鎖を防ぐために、万全の体制を整える必要がある。
米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は最近の講演で、投資銀行が破たんの危機に陥った場合、支援先が見つかるまで一時的に業務を引き継ぐ受け皿銀行(ブリッジバンク)制度の創設を検討するよう提案した。ポールソン財務長官も先に、同様の提案をしている。
主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が発表した世界経済に関する首脳宣言は、拍子抜けするほど楽観的な現状認識で貫かれていた。金融市場の緊張を認めながらも、世界経済見通しは「引き続き前向きである」と評価した。
一方、首脳宣言発表と同じ日にバーナンキ議長は破たん処理制度の創設に言及していた。この落差をどう受け止めたらよいのか。
ポールソン長官は投資銀行最大手、ゴールドマン・サックスの前会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、業界事情に精通している。財務長官とFRB議長が相次いで受け皿銀行制度創設に言及したのは、投資銀行の破たんを前提に動き始めており、市場に警告を発したとみるべきではないか。
米国は首脳宣言の楽観論が一人歩きしないように、財務長官とFRB議長の発言で相殺してバランスをとったのかもしれない。
投資銀行は巨額の資金を世界的に運用し、企業の合併・買収や資金調達にかかわっている。取引内容が複雑多岐にわたり、高度な金融技術を駆使しているだけに、どこかが破たんすれば、金融不安は世界的に広がる懸念もある。
金融市場には「サブプライムローン問題は一段落して、ヤマを越えた」との見方も出ているが、楽観視は禁物だ。住宅価格の下落は続いている。金融機関の損失も拡大しており、株価が「危機ライン」とみられる水準に近づいている投資銀行もある。ここは警戒感を高めて、万が一の事態に備えておくべきだ。
日本もよそ事と受け止めてはいられない。金融庁や日銀、財務省など関係当局は情報収集を急ぐ必要がある。日本は受け皿銀行の活用を含めて、かつての金融危機を乗り切った経験もある。米国に助言できることもあるだろう。
グローバル化した金融不安を乗り切るためには、世界的な連携強化が欠かせない。
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