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【社説】

迫る北京五輪 真の『和諧』力発揮を

2008年7月11日

 来月八日の五輪開会式に、日米に続き仏首脳も出席を表明し祭典の形が整った。しかし、チベット問題などで批判は根強く、中国が内外政策で目指す「和諧(わかい)(調和)」実現に向けた努力が問われる。

 北京五輪開会式は、三月のチベット騒乱に対する鎮圧の影響で欧州諸国を中心に一部首脳から参加を見合わせる動きが広がった。

 しかし、主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に参加した日米首脳は「政治に絡めない」(福田康夫首相)、「欠席は中国への侮辱」(ブッシュ米大統領)と参加を表明した。

 パリで行われた聖火リレーに激しい抗議運動が起き、注目されたフランスのサルコジ大統領も中国の胡錦濤国家主席との会談で「五輪の成功を願う」と出席を表明。五輪史上最多の八十カ国以上の首脳が参加する見通しになった。

 サミット首脳宣言もチベットや中国の人権問題に触れなかった。中国軍が天安門広場の学生・市民の民主化運動を鎮圧した天安門事件(一九八九年六月)直後のアルシュ・サミットが対中制裁を決めたのとは隔世の感がある。

 背景には事件が辺境のチベットで起きたことや、当時とは中国の存在感が比べものにならないほど大きくなったことがある。

 チベット騒乱後、国際的批判に応え、中国がダライ・ラマ十四世特使との対話を再開し、四川大地震で海外の国際救助隊を受け入れるなど協調的な姿勢を示したことも功を奏した。まずは、なごやかな雰囲気で開会式を迎えられそうになったことを歓迎したい。

 しかし、不安は残る。胡主席はサルコジ大統領との会談で両国関係の緊張に関し「率直に言って原因は中国側にない」と述べた。

 聖火リレー抗議活動への反発から、中国で仏系スーパーの不買運動を含む極端な反仏騒動が広がったことに何の問題もなかったのか。各国の聖火リレーに中国の留学生らが激しい「防衛運動」を展開したことは「率直に言って」中国への違和感を残した。

 サルコジ大統領は開会式参加とのバランスを取るためか、来月にダライ・ラマ十四世との会見を検討しているという。五輪期間中、北京でもチベット問題で何らかの抗議活動が行われるのは避けられそうにない。

 こうした動きに中国は冷静に対応できるのか。民衆をも巻き込む過剰な反応を示せば、北京五輪の掲げる「一つの世界、一つの夢」という理念も色あせかねない。

 

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