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社説

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6者協議―核申告の厳しい検証を

 北朝鮮の核問題をめぐる6者協議が約9カ月ぶりに北京で始まった。

 どんな核開発をしてきたかについて北朝鮮は先月、申告書を提出した。それを受けての協議再開である。

 この協議でまずすべきことははっきりしている。申告の内容が事実かどうかを厳しく調べる検証の仕組みをつくることだ。

 検証には、黒鉛減速炉や使用済み燃料の再処理施設など、申告施設に対する立ち入り調査が欠かせない。サンプルの採取や、核開発の責任者への聞き取りも徹底する必要がある。

 それらをいかに効果的に進めるかを協議で早急に詰めてもらいたい。米中ロの核保有国をはじめ日本や韓国が検証にどう参加していくか、国際原子力機関の専門家を加えるか、検討すべき課題は多い。北朝鮮はこれに誠実に協力しなければならない。

 申告の内容はプルトニウム型の核開発に限っているという。そのプルトニウムは38キロあり、うち30キロはすでに抽出して、26キロを核兵器の製造にあてたとしているようだ。

 米国はかねて抽出可能量をもっと多めに推計していただけに、この申告が事実かどうか調べなければならない。

 さらに、第1次核危機が起きた90年代初期に、いったいどれだけ抽出したのかなど、不明な点が多い。

 北朝鮮はさきに関連施設の膨大な稼働記録を米国に渡した。米国はそれを綿密に分析し、プルトニウム量の確定に役立ててもらいたい。

 そもそも今回の核申告は、6者で合意した「完全かつ正確」なものにはほど遠い。日本にとって深刻な脅威である核兵器を北朝鮮はいくつ持っているのか、その製造施設や保管場所、核実験場はどうなのか。そういう肝心な点に全く触れていないという。

 また、02年に明るみに出たウラン濃縮疑惑や、シリアへの核技術の拡散問題では、北朝鮮は申告とは別の文書を米国に出し、あいまいな形で済ませている。

 任期末期のブッシュ米政権は成果を焦りがちに見えるが、核放棄という最終目標を忘れてもらっては困る。

 一方、先の日朝協議で拉致問題の再調査や、日航機よど号乗っ取りグループの引き渡し協力について合意した。だが、まだ口約束にとどまっている。

 実際に動き出すよう、6者協議の枠内に設けている日朝作業部会を開くなどして北朝鮮に迫ることだ。約束の実行なしに、日本が約束した独自制裁の部分解除を行うわけにはいかない。

 北海道洞爺湖サミットの議長総括では、核申告の検証と核放棄の重要性を強調し、「拉致問題の早期解決」を含む速やかな行動を北朝鮮に強く求めた。国際社会の声の重さを北朝鮮に突きつけなくてはいけない。

サミット後―10億人の貧困をどうする

 「ボトム・ビリオン」という言葉がある。最底辺の10億人。1日1ドル未満の収入で暮らす途上国の最貧困層のことだ。世界人口の6分の1を占める。

 原油や食糧の高騰の波が、日本をはじめ世界に広がっている。途上国の農村や都市スラムで生きるボトム・ビリオンの人々にとっては、これは自らと家族の生存にかかわる、文字通りの脅威である。

 洞爺湖サミットを締めくくる記者会見で、福田首相は「世界規模の課題が切実な形で人々の生活に影響を与えている」と述べた。原油や食糧の高騰、インフレ、温暖化といった課題の深刻さを語ったものだ。

 しかし、サミットでの3日間の議論や膨大な宣言文書は、ボトム・ビリオンの人々の心にどこまで響くものだったのか。どれだけの救いを発信できたのか。主要8カ国の首脳といえども万能でないのは当然だが、この問いかけの重さをかみしめざるを得ない。

 食糧高騰の対策として、G8は1兆円以上の緊急支援を表明した。だが、それが届く間にも小麦やトウモロコシの価格は上がり、援助の実際の量は減っていく。現地で増産しようにも、肥料や種子の値段も急騰している。

 原油高騰では、もっと救いがない。産油国への生産拡大要請や、消費国と産油国との対話といった項目が並んだが、即効性はいかにも乏しい。

 これでは、内外の援助組織などから厳しく批判する声が上がったのも無理はない。原油や穀物相場が沈静化に向かう兆しは見えない。

 途上国といっても、中国やインド、ブラジルなどの新興国は成長軌道を駆け上がっている。ボトム・ビリオンの多くは、経済グローバル化の波に取り残され、停滞し、状況が悪くさえなっている国々に暮らす。アフリカやアジアの一部、中央アジアなどだ。

 ゼーリック世銀総裁は、世界を覆う複合的な経済危機を「人災」と呼ぶ。バイオ燃料への穀物の転用や農業国の輸出規制が大きいという意味だろう。投機マネーの存在もある。だが、最貧困層にとっては、手の届かない所から降ってきた天災のようなものだ。

 NGOや研究者はこうした経済を「カジノ資本主義」とみなし、投機マネーの規制や、穀物を使ったバイオ燃料の生産禁止を求めた。しかし、サミットからのまともな返答はなかった。

 先進国側が貧困対策に不熱心であったわけではない。累積債務解消や援助増を呼びかけ、ここ数年はとくにアフリカ問題での取り組みを強めてきた。

 食糧や原油高騰は新しい貧困層を生んでいる。社会の底辺からの不満は途上国の安定を揺るがしかねない。グローバル化から落ちこぼれた人々の苦境にどう手を差し伸べるか。先進国は具体策を模索し続けなければならない。

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