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(14)あいまい、長時間労働
「もちろん問題がある可能性はあります。八時間を二十五日働くと二百時間でしょ。一カ月で二カ月分勤務しているようなものですから」 時間外労働は労使の合意、いわゆる三六(さぶろく)協定を結び、割増賃金を支払い、医師による健康指導などを受ければ認められる。月の上限は原則四十五時間だが、場合によっては特別条項で百時間を超えても違法ではない。 ―しかし、いくら特別条項でも二百時間は許されないでしょう。 「場合によっては法令違反ではないこともありますが、過重労働の防止という点からは当然、好ましくない。改善してもらうべきでしょう。ただ、人命を救うという職責から、結果的に長時間残業もやむを得ない場合があるかもしれません」 苦しむ患者を目の前に救命救急センターの医師が「残業が多くなるから緊急手術はできません」とか「次の始業時刻まで待ってください」とは言えない。かといって、医師も過労死するために働いているわけではない。 それに、もし、高知医療センターの脳外科医が不幸にして過労死したら、病院の責任はもちろん問われるが、労働局も「公然と見過ごした」と批判を受けるのではないか。 そう質問すると幹部は、「守秘義務があり、個別事案については調査に入っているか否かも言えないし、指導や勧告をしたとしても原則的には公表しないんです」。ただ、今回の新聞報道については「情報源の一つとして重く受け止めている」と言った。 この残業問題はどこに尋ねてもあいまいで、よく分からない。高知医療センターの医師ですら「労働条件なんて考えたこともないし、一つの病院に長く勤めようなんて、今まで想定してなかったから」。 公立病院の勤務医の多くは大学の医局に属していたため病院への帰属意識が薄い。また、「九時―五時」の仕事では自分の成長につながらないのも事実。「長時間の残業はある意味、当然」の雰囲気が強い。 また、高知大付属病院の倉本秋病院長(57)も「平成十六年に独立法人化する前、私たち国家公務員は労基法の適用外だったんです。人事院の監督下だったから。ところが、法人化した瞬間、適用です。同じことやってるのに、不思議ですね」と話すほど。勤務医の過労死は近年、裁判で認められるケースが出てきたが、絶対的医師不足の中、改善の気配は薄い。 そんな中、医療崩壊の危機を全国で説いて回るビッグネームの現役外科医が六月半ば来高した。 「誰が日本の医療を殺すのか」という過激なタイトルの本を著した埼玉県済生会栗橋病院の本田宏副院長(54)。論旨は山形大の嘉山孝正医学部長とほぼ同じ。医療費亡国論に端を発した政府の情報操作による医師不足のからくりを、非常に分かりやすく語った。講演後、私は質問した。 ―残業二百時間の世界を赤裸々に書いても、世間も医師自身も、人ごとのように思っているような気がします。 すると本田医師も「そこが日本のクレージーなところ。私の悩みです。若手の勤務医は忙し過ぎて、残念ながら関心が低い。私がこうやって話しているのは、『やっぱり僕らはおかしいんじゃないか』という共通認識を一人でも多くの医師に広げたいからなんです」。 そしてこうも言った。 「日本の医師の一番悪いところは、休みを主張せず、疲れ切るまで頑張って、いきなり一斉に辞めちゃうこと。今、あちこちで起きてます。これが本来は、住人にとって一番迷惑なんですね。まじめ過ぎるというか聖職者意識が強い。ある意味、社会性が乏しいと言えるかも」。そう言う彼自身、週末は講演で埋まり休みはない。 【写真】日本の医療崩壊の実情とからくりを訴える本田医師(6月15日、高新文化ホールで開かれた高知保険医協会・市民公開講座からデザイン) (2008年07月09日付・夕刊)
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