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ハケンは産むな、というのか? 出産、非正社員の格差

AERA:2008年7月7日号

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 雇用が切られる――産めない国、ニッポン。妊娠すると切られるかも。産後は働けるのか。正社員と、非正社員の格差はあまりにも大きい。(AERA編集部:小林明子)

 妊娠を告げると、上司はこう言った。「脚立に登らなきゃいけないしねぇ……」

 外資系アパレル会社の契約社員(25)。路面店の販売スタッフとして働いていた。スタッフはギリギリの5人で、39度の熱があっても店に立った。午前9時から開店準備をし、閉店後も片付けやディスプレーのため終電で帰宅する毎日。週1回の休みに呼び出されることもあった。

 そんな職場に勤め始めて半年後に妊娠が発覚。スタッフは20〜40代の女性だから、残業は免除してもらえるかも。だが、副店長格の女性は、

 「出勤するなら、身体を元に戻してからにして」

 それって中絶しろということ? 耳を疑った。つわりも軽いし働けると訴えたが、間もなくシフトから外されて自宅待機に。収入はゼロになった。

 病気の両親に仕送りをしていた。出産や子育てにもお金がかかるから、夫の収入だけでは不安だった。上司と復職の交渉をしつつ、6社の採用面接を受けた。アルバイトも派遣会社の登録も、内職でさえ、妊婦とわかると「あー、ちょっと……」。ある日、身支度をしていて異変に気づいた。髪の毛が円形にごっそり抜けていた。

 「正社員なら当たり前の、妊娠しても働き続けるという選択肢がどこにもない。不安でたまりませんでした」

 ○法律で取れてもダメ

 結局、自己都合退職。女性の壁は女性だと痛感した。

 「みんな同じ境遇になる可能性があるのに、実際は辞めるしかない。同僚次第ですべて決まる職場では、法律で育児休業が何年取れようと関係ないんです」

 残業や激務に耐えられる人しか必要とされず、妊娠すれば辞めるのが不文律。いつまでも子どものいる女性管理職が生まれないから職場も変わらない。これが、契約社員やパート、派遣社員など有期雇用の非正社員が支える職場の現実だ。

 育休を取れずやむなく退職すると、産後も厳しい現実が待っている。就労証明がないから保育園に入園しづらい、保育園に入れないから新しい仕事が見つからない、と八方塞がりになる。

 2005年4月の育児休業法の改正で、契約社員やパート、派遣社員でも一定の条件を満たせば育休が取れるようになった。同じ事業主に1年以上雇われた実績があり、子どもが1歳になってからも引き続き雇用の見込みがあることが条件だ。

 ○契約切るよう仕向ける

 しかし、労働政策研究・研修機構が6月に発表した報告書によると、法改正後の有期契約労働者の育休取得率は7割だが、派遣社員に限ると3割。多くが3カ月など短期の契約更新を繰り返しており、雇用先(派遣会社)と勤務先が異なるため、育休が浸透しにくい。育休を取れることを知らず、いったん辞めるケースも少なくない。

 日本人材派遣協会の河辺彰男次長は、

 「派遣会社にとっては、復帰後に紹介できる仕事があるかがリスク。派遣社員のほうも復帰が前提というより、権利留保の意味合いが強いのが現状です」

 と話す。育休中は自社の契約社員として雇用を継続する派遣会社もあるが、派遣先と契約を更新し続けるのは難しい。

 都内の住宅建材メーカーに2年以上勤めた派遣社員の女性(32)は、正社員を指導する立場になっていた。派遣先から契約更新を求められたときに妊娠がわかったため、育休取得を条件に更新。しかし次の更新では3カ月だった契約期間が2カ月になり、次は1カ月に短縮。ついに契約書が届かなくなった。そのたびに派遣会社の担当者に何度も問い合わせたが、

 「必ず育休は取れるようにする」

 その言葉を信じたのは、派遣社員でも育休が取れるという法改正があったからこそ。しかし契約が終わった途端、

 「雇用関係がなくなったので育休は取れません」

 派遣先は後任に正社員を雇用したらしい。個人加入できる労働組合「東京ユニオン」に相談。切迫早産の不安を抱えながら妊娠8カ月で団体交渉中だ。

 「正社員と変わらない仕事をしていたのに、産後に働く場があるのか心配しながら出産を迎えなければならないなんて」

 07年に施行された改正男女雇用機会均等法は、妊娠・出産を理由とする解雇を無効としている。この派遣会社は取材に「団交中でもあり個人の契約に関しては話せない」と答えた。

 東京ユニオンの石井宏和総務部長によると、法改正直後は育休を希望する派遣社員に誠実に対応する大手派遣会社も目立ったが、最近その動きが後退しているという。

 「法改正で派遣社員に安心感ができたのを逆手に取り、相手の法知識を探りながら契約を打ち切るよう仕向ける。契約さえなければ無権利状態になる登録型派遣の弱みを突くやり方です」

 ○誰にも言わないように

 自らも派遣社員でサイト「がんばれ!ママさん派遣社員(※)」を運営する竹村幸子さんは、

 「妊娠したら職場の誰にも言わないように」

 とアドバイスする。契約更新前に報告すると、契約期間を短縮されたり、契約を切る方向に仕向けられたりする。更新後なら、産前にいつまで働くかを自分で決められ、育休取得にも持ち込みやすい。派遣先や派遣会社とのやり取りを記録しておくことも重要。だが結局は、派遣先の上司との人間関係がすべて。

 「『この人じゃなきゃダメ』というスキルを身につけて、職場に不可欠な人材になるよう努力することも必要です」

 育休を取って職場復帰すると、休業前の賃金の5割を「育児休業給付」として受給できるが、非正社員はこの給付金を受け取れないことがある。

 都市銀行の支店に1年半勤めて育休を取った女性(31)は当然、給付金も受け取れるものと信じていた。最寄りのハローワークに問い合わせても大丈夫だと言われた。ところが、銀行の総務部が申請すると、受給資格がないことがわかった。

 ○給付金も受給できず

 女性が派遣されて1年3カ月のとき、銀行のシステム統合で人材が必要になり、同じ業務で派遣されていた数人が一斉に直接雇用の契約社員になると告げられた。派遣の契約更新はされず、契約社員にならなければ辞めるしかなかった。雇用形態が変わっても雇用条件は変わらない、との説明だったので応じたが、法律の落とし穴にはまった。

 給付金の受給資格に「休業開始時において、同一事業主の下で1年以上雇用が継続」という条件があったからだ。育休の取得にも同様の条件があるが、銀行の配慮で取れた。しかし、雇用保険から支給される給付金は、雇用主が派遣会社から銀行に変わり1年たっていなかったため、「現行の法律では支給対象にならない」(厚生労働省雇用保険課)。雇用主さえ変わらなければ50万円以上を受け取れたはずだった。

 「ずっと同じ支店で同じ仕事を続け、雇用保険料もきちんと払ってきたのに。雇用主の都合で受給できなくなるなら、せめて保険料は後払いにしてほしい」

 女性がハローワークの窓口で詰め寄ると、職員は苦し紛れに、

 「失業給付はもらえますから」

 辞めろということか。

 その銀行は、契約社員も子どもが2歳になるまで育休が取れ、保育料の半額補助があるなど制度は充実。しかし、産後5カ月で復職する前の面談で、人事担当の独身女性に聞かれた。

 「子どもが熱を出したらどうするんですか」

 復帰後の勤務先として、前より遠く通勤に2時間近くかかる支店を打診された。断ると、支店長が路線検索をプリントした紙を手に、

 「この電車に乗れば保育園の迎えに間に合うでしょ」

 退社時刻から8分後の電車。どうやって制服から着替えるのだろうか。

 それでも契約社員として働く。仕事も子育てもしたいから。

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