別に男らしさ、女らしさにこだわっているわけではありません。でも、診療の場で女性患者からの生の声を耳にすることの多い婦人科医として、あえてこう言いたくなる事件に遭遇することが少なくありません。結婚、セックス、避妊、妊娠・出産、性感染症……。
【結婚】地方から上京していたAさん(28歳)。実家の両親からそろそろ戻って来ないかとの連絡が入ったといいます。付き合って、セックスもして、それでも結婚に踏み切れない彼に業を煮やしたAさんは、心を決めてこう話しました。「いつまでも今のままでいるわけにいかない。私は一人っ子だし……」と。返ってきた言葉に呆れたといいます。「一人っ子だったのか。ということは君の両親の老後の面倒をおれがみるの?」。2人の別れはその直後に起こりました。男たちよ、奮起せよ。
【セックス】思春期外来とまではいかなくても、他よりも若い女性たちが多く集まるクリニック。セックスに対する消極性はそんな若い世代でも現実のものとなっています。「付き合って3年も経つのに指一本触れるでもなく」と嘆くのは21歳のBさん。「高校生の時に出会って付き合い始めたのです。確かにいい人です。遅くなるといつも家の近くまで送ってくれて……」と。雑誌などで「男はオオカミ」などと書かれている記事を見るたびに不安がよぎるというのです。「先生、ひょっとして彼はED?」
このような男性は決してまれではなくなってきています。行動を起こした後の責任を負いたくないのか、欲求が本当に乏しいのか、それともED? その一方で電車の中で痴漢されたと不快感をあらわにする女性もいて……。痴漢だのレイプだのという卑怯なやり方ではなく、堂々と口説き落とす勇気がないのか。男たちよ、奮起せよ。
【避妊】避妊は女性の責任とばかりに低用量ピルの話を持ち出すと、「僕がきちんとコンドームを使うから、君に薬など飲んで欲しくない。副作用が心配だから……」とさも理解あるパートナーであるかのような振る舞いをするのです。その割には、コンドームが破けた、外れたといっては緊急避妊外来を訪れるカップルが後を絶ちません。生物学的性差を踏まえた役割分担を決めればいいものを、変なところで「男はリードするもの」という強迫観念に苦しめられているのです。「コンドームが破ける瞬間、コンドームの悲痛な声が聞こえたか」と問いかけるも、返す言葉がない男性。男たちよ! 奮起せよ。
【妊娠・出産】「いつになったら結婚に踏み切るのか」「いくらあったら出産に向かうのか」。長い間、僕のクリニックを訪れては低用量ピルの服用を続けている女性たちの口から漏れ出る言葉です。結婚願望が強くないのは女性も一緒ですが、もう一歩が踏み出せない男性が目立っているのは間違いもない事実。スウェーデンやノルウェーなどの婚外子率が50%を超える一方、1.93%(2003年)と先進国の中でもきわめて低い日本。我が国の歴史や文化になじまないというのはおじさん、おばさんたちの発想ではありませんか。産むか産まないかは個人の選択に任されているとはいえ、妊娠が発覚した途端、まだ結婚していないからと責任を放棄してしまうのはいかがなものか? 男たちよ、奮起せよ。
【性感染症】たとえばクラミジアや淋病の検査ですが、僕のクリニックでは、女性の子宮頸管に綿棒を挿入・擦過して検査する方法が採られています。病原体を直接採取することによって診断の確実性が図られるからです。同様な検査となりますと、男性の場合には尿道に綿棒を入れることになりますから一時的にせよ強い痛みを訴えることになります。それもかわいそうだといっておしっこや血液で検査をして女性がプラス、男性がマイナスという結果が出ることもまれではありません。特に、異なる医療機関での検査となるとなおさらです。検査結果の限界を知ろうとしない男性から向けられた言葉に女性が傷つけられるのは当然です。僕などは「犯人探しをするよりも、ピンポン感染(一方が治療を完了しても、相手が治療に無関心ではピンポンのように感染が繰り返されてしまうこと)を避けるために治療を」と勧めるのですが、「彼はマイナスだと言い張って聞かない」と。「コンドームも適正に使えない、使おうとしないくせに生意気言うんじゃあないよ」といらだつつ僕。男たちよ、奮起せよ。
2008年7月10日