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地球温暖化を引き起こす二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出をどう減らすか。その流れをつくることが求められていた洞爺湖サミットが、幕を閉じた。
残念ながら、主要排出国が一緒になって数値目標の入った旗を立てることはできなかった。主要8カ国(G8)に中国やインドなどが加わった16カ国の首脳会合で、先進国と新興国の歩調が合わなかった。
前日に発表されたG8首脳の文書では、世界全体の排出量を「50年までに半減」させるという長期目標を国連の気候変動枠組み条約のもとで採択するよう求めていた。
先進国だけでなく、より広い枠組みで国際目標にしようと呼びかけたのである。腰がひけ気味だった米国を引き込み、先進国が声をそろえたのは一歩前進だった。
ところが一夜明けて、枠を新興国に広げてみると「50年までに半減」という数字は消えてしまった。新興国側は、経済成長が制約されかねないという懸念をぬぐえなかったのだろう。先進国側が率先して大幅削減を引き受ける姿勢を示せなかったのが大きい。
ただ、16カ国首脳会合の宣言は、気候変動枠組み条約のもとでの交渉で「世界全体の長期目標を採択することが望ましい」とまでは歩み寄っている。これを足掛かりに議論を先に進めるしかあるまい。
現役世代が責任をもってかかわれるここ10〜20年でどれだけ排出量を減らすか。排出量の増大傾向をいつ減少に転じさせるか。これらについてもG8や16カ国首脳の会合は目標を詰められなかった。
脱温暖化の決意を数字で表すという点では、めざましい成果があったとは言い難い。だが、そんななかで期待がもてる変化は見えてきた。
一つは、先進国が「野心的な中期の国別総量目標」を掲げると明言したことだ。もう一つは、新興国の側も野放図に排出量をふやさないようにブレーキを踏む責任を、条件付きながら引き受けたことだ。
16カ国首脳の宣言はもって回った表現になっているが、技術や融資などの支援を前提に新興国側も国ごとに適切な行動をとるとしている。
先進国も新興国も、負担を一方的にかぶらないよう警戒しつつ、同じ方向をむいて動き出したように見える。この流れを強めていくことが大切だ。
京都議定書が12年に終わった後の排出削減の国際枠組みは、気候変動枠組み条約の締約国会議が09年までにつくる予定だ。その枠組みでは中国などの新興国も何らかの形で責任を負ってもらわなければならない。
今回芽生えた流れをどう肉付けするか。次の難題が待ち構えている。
教員に採用されるのも管理職になるのも、金次第ということなのか。大分県で次々に出てくる教育界の腐敗ぶりには、あいた口がふさがらない。
小学校長らが自分の子を採用するよう県教育委員会の幹部らに頼み、現金や金券を贈る。幹部は採用試験で得点を水増しする。
さらに驚いたことに、県教委ナンバー2の元教育審議監が10人前後の受験生の名前を部下に示し、「合格ラインに入れろ」と指示していたというのだ。県教委ぐるみで不正工作をしていたと言われても仕方があるまい。
採用だけではない。管理職への昇任試験で便宜を図ってもらうため、県教委幹部に金券を渡したと言って、教頭らが警察に出頭した。腐敗の広がりは目を覆いたくなる。
100万円の金券を受け取ったという元教育審議監をはじめ、逮捕者は「先生」と呼ばれる人ばかりである。教え子たちにどう顔向けするのか。
大分県警は徹底した捜査で不正にかかわった人たちを明らかにし、ウミを出しきってほしい。そうしなければ、子どもたちの信頼を取り戻せない。本来なら合格できた人は納得できないだろうし、逆に実力で合格した人がいつまでも疑惑の目で見られることにもなりかねない。
教育界にとって深刻なのは、今回の底なしの不正が大分だけの特殊な事情によるとは思えないことだ。
教員の採用にからみ、1990年に山口県で、2年前には大阪府で汚職事件が摘発されている。金のやりとりまでは確認できないにしても、採用にあたって古手の教員に口利きをしてもらうという話は各地でしばしば聞く。
その背景には、県教委という教員中心の閉鎖的な組織で、採用から人事まで一切を取り仕切っている現実がある。この仕組みは「教育の独立」に配慮したものだが、やりたい放題の不正を許してきた温床ともいえる。
今回の事件を受けて、大分県教委は採用試験を県人事委員会との共同実施に改めることを決めた。この際、一般の県職員や県警職員と同じように教員の採用も人事委に任せたらどうか。
さらに採用や人事を透明にするためには、教員の不正採用疑惑を警告してきたNPO法人「おおいた市民オンブズマン」などの外部の第三者の目を活用することを考えてもいい。
大分県教委では採用試験の答案は年度末までしか保管されない。08年度採用の分も残っておらず、いまとなっては不正工作を検証するのは難しい。少なくとも数年間は保管すべきだ。
採用や人事を公正にするのは、優秀な教員を集め、教育の質を高めるために欠かせない。全国の教育委員会は大分の事件をひとごとと思わず、足元を見つめ、改善策を進めてもらいたい。