田植えをしませんか、との声掛けをいただいて六月下旬、倉敷市内の田んぼに出向いた。小学生のころ父の実家でイグサの植え付けを手伝った経験しかなかったが、久しぶりに泥の感触を味わった。
誘ってくれたのは、同市内で天然酵母のパン屋を営む戸板保江さん。店で扱う米粉パン用の米を自家栽培するほど食にこだわる方なので、ただの田植えではないな、と思っていたら案の定、倉敷芸術科学大生命科学部の研究室や倉敷の自然をまもる会メンバーらと、米作りの将来性を探る実験をするのだという。
高齢化の進行と後継者不足から増える耕作放棄地。低迷する日本の食料自給率。「いまある田んぼを守りつつ、安全な米を作るには」。戸板さんらはその答えとして、農業経験のない人の米作り参加を選んだ。
稲作には当然、相応の労力が必要となる。だが省力化のため農薬や化学肥料を多用すれば、環境や作物へ影響を与えかねない。実験では「環境保全と、素人にできる農業」の両立を掲げ、収穫までの延べ労働人数や時間を計測し、農家との役割分担のあり方を検証。さらに区画ごとに施肥の条件を変え、最も効果的な有機栽培法を追究する。
飛騨牛だ、ウナギだと食の信頼を揺るがす問題は後を絶たないし、環境破壊は世界レベルで進む。「安全な米を食べたい、環境にも貢献したいという人は相当数いるはず。こうした層を農業に呼び込めれば」と同大の内藤整准教授(作物学)。わずか一反(十アール)ほどの田んぼでの試みだが、大きな研究成果を、秋の収穫とともに楽しみにしている。
(社会部・前川真一郎)