主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)は食料価格の高騰に伴う新たな食料危機を受け、世界の食料の安全保障に関する首脳声明を発表した。サミットが食料問題で独立文書を採択したのは初めてのことだ。
声明は「食料高騰で多くの途上国で食料が入手困難になり、食料安全保障が脅かされていることを深く懸念する」と指摘、「あらゆる可能な対策をとる」と決意を強調した。危機感が共有できたことは成果だろう。
具体策として「一部の食料生産国が設けている輸出規制を撤廃する」「十分な食料備蓄がある国に大幅な価格上昇の際、余剰の一部を食料難の国に提供するよう呼び掛ける」「国際的な備蓄システム構築を検討する」などを打ち出した。アフリカの農業を支援し、食料生産を倍増する目標も掲げた。また、食料確保に影響せぬよう食料以外の原料を使う第二世代のバイオ燃料の開発加速も明記した。
新興国の消費拡大などで需要と供給のバランスが崩れたことを基本要因とする食料価格の高騰は、特にアフリカ諸国に打撃を与えている。サミット初日の七日、主要国(G8)首脳と南アフリカ、ナイジェリアなどアフリカ七カ国首脳の拡大会合が開かれ、アフリカ側からは切実な声が相次いだ。
多くの国で暴動やデモが起きるなど、アフリカでは食料価格の高騰が社会不安につながっている。拡大会合では「アフリカでは農業生産が需要を満たしていない」「生産性の向上に支援を」などの意見が出た。
首脳声明は、食料の輸出規制やバイオ燃料については六月の食料サミットより踏み込んだ内容となった。輸出規制ではロシアが撤廃方針を表明しているものの、自国民への供給や物価安定を優先するインド、アルゼンチンなどが規制撤廃の要請を受け入れる見込みは薄い。
食料の備蓄体制を整えれば需給調整の役割を果たし価格安定が図れるが、備蓄量割り当てや放出の仕組みづくりなど実現に向けた課題は多い。高騰については米サブプライム住宅ローン問題をきっかけに投機資金が農産物市場に流入し、拍車を掛けているという要因も大きい。
それでも、G8各国は主要新興国や食料生産国と協力、各国の利害を調整して絡み合う要因を解きほぐし、是が非でも食料価格を下落・安定させる必要がある。声明が空回りせず、実効ある対策が打てるよう、G8各国の指導力が問われる。アフリカ支援などで議長国日本の責任は重くなったとしっかり認識しなければならない。
日本政府が世界遺産候補として推薦した岩手県の「平泉の文化遺産」について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は登録の延期を決めた。日本の推薦候補の落選は初めてだけに、衝撃は大きい。
登録延期の理由は、世界遺産(文化遺産)としての価値の証明が不十分とされた。何が足りなかったのか、きちんとした検証が欠かせない。
平泉は、十一世紀末から十二世紀にかけて奥州藤原氏が築いた統治拠点で、政府は、浄土信仰を反映した中尊寺などの仏教建築と周囲の自然を一体の「文化的景観」と位置付けて推薦した。「平泉文化の根底にある平和への願いはユネスコ憲章の精神に通じる」などとも主張していたが、理解を得るまでには至らなかった。
ユネスコは、世界遺産を十分に管理できるように新規登録を抑制する方針を打ち出している。登録の基準が厳格になっているともいわれる。
次の文化遺産候補としてユネスコの暫定リストには「富士山」(山梨、静岡県)などが掲載されている。さらに、文化庁は二〇〇六年と〇七年に岡山県の「近世岡山の文化・土木遺産群―岡山藩郡代津田永忠の事績」など自治体から世界遺産候補の提案を受けている。
政府は、「平泉」の登録を最優先で目指すとする。その場合、登録に向けた手続きを最初からやり直す必要があり、登録を確実にするため、再審査は一一年を目標にする考えだ。
他の候補地の世界遺産登録に向けたハードルは高くなった。岡山などは、世界遺産にふさわしいと納得してもらえる説得力を磨く必要があろう。前途は厳しいだけに、地域の熱意をもっと高めるとともに、息の長い取り組みが大切になる。
(2008年7月9日掲載)