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2008年7月10日

◎G8の蚊帳援助 ささやかでも意義がある

 北海道洞爺湖サミットで、G8各国がマラリア予防に約一億張りの蚊帳(かや)をアフ リカ諸国などに提供することを決めた。金額的にはささやかな援助だが、日本の化学メーカーが糸に殺虫成分を練り込んでつくった蚊帳は、これまでに二千万張り以上が出荷され、年間の死者が百万人にも及ぶマラリア対策に絶大な効果を上げている。援助というと、病院建設や医療機材の提供などを想像しがちだが、高価な品物を贈ったからといって、感謝されるとは限らない。

 特筆されるのは、この日本のメーカーがWHO(世界保健機関)の要請に応じ、製造技 術を無償供与していることだ。蚊帳はタンザニアで製造されており、そこで三千人以上が雇用され、同国の一大産業になっている。蚊帳のコストは一張り五ドル程度だから援助額はわずかだが、現物支給ゆえに、横流しされて途上国の権力者の懐を潤す心配もない。日本の技術で開発された蚊帳がマラリア被害に苦しむすべての国の人々に行き渡るよう私たちも応援したい。

 蚊帳の提供は、アフリカ向け政府開発援助を増額する合意事項の一つとして提起され、 G8各国が一〇年末までに一億張り程度を分担し、民間にも協力を呼び掛ける。殺虫効果のある蚊帳は以前にもあったが、一回洗うと効果が消え、実用性に乏しかった。日本のメーカーが開発した蚊帳は、洗っても五年間防虫効果が持続する。

 蚊が蚊帳の糸に触れただけで死滅するため、網の目を四ミリ幅まで広げてあり、寝苦し い夜でも風通しが良い。ケニアの現地医師の報告では、蚊帳を配布した村を追跡調査したところ、マラリアを引き起こす原虫の保有者が55%から13%に減ったという。WHOや国連が掲げるマラリアでの死者半減の目標は、十分実現可能なことが分かるだろう。

 日本の対アフリカ支援は、強力な資源外交を展開する中国や、旧宗主国の欧州諸国に比 べて影が薄い。豊富な地下資源をめぐる争奪戦がますます激しさを増すなか、日本が中心になった国際支援の輪が大きく広がっていくことにも意義がある。

◎ルビーロマン イノベーションの傑作だ

 これまでのやり方の刷新(イノベーション)が経済活性化に不可欠なように、農業の分 野でもイノベーションが大きな役割を果たす。石川県が品種登録を済ませ、戦略的な作物としてブランド化を進めているブドウの新品種「ルビーロマン」は来月十日前後に市場にデビューするが、これも技術者に引き継がれて花開いたイノベーションが産んだ傑作であることを知っておきたい。

 ルビーロマンは粒の重さが巨峰の倍近くの約三十グラムもあって国内最大級といわれ、 鮮やかな赤色と果汁の豊富さが特徴である。

 一九九四年、かほく市にある県農業総合研究センター砂丘地農業試験場で開発が始まっ た。大きな黒色の粒をつける神奈川県産の「藤稔(ふじみのり)」を母親として、赤い実をならせる各種の父親と交配させ、赤い大きな実を結ぶブドウの新品種をつくりだすことが目的だった。大きな実の黒色の中には、赤色の遺伝子が隠れているはずだと考えて、それを引き出そうとした野心的な試みだったのだ。

 その当時はブドウの価格が低迷をきわめ、栽培面積も最盛期の半分以下の約百四十ヘク タールに減少した。ブドウ栽培農家のこのピンチを救いたいとの一念から開発が始まったのだった。

 今日までの十四年間に人事異動で十数人の技術者が入れ替わったが、開発のテーマは異 動のたびにきちんと受け継がれ、ついに新品種の開発、すなわちイノベーションに成功したのだった。人工交配は失敗を繰り返し、サジを投げ出したいときもあった。そのような中で、偶然にも自然交配で期待の新品種ができた。思いもよらなかった自然の偉大な営みに仰天させられたといわれる。

 来年度になるが、コメなどの研究に実用化している遺伝子解析の技術で新品種のブドウ を調べ、父親さがしに乗り出す。父親が分かれば、人工交配の道が開ける。ルビーロマンはハウス栽培で、現在の栽培面積は八・九ヘクタール、約百人の農家が取り組んでいる。市場の反響を見ながら面積を増やしていくそうだが、石川のブドウ栽培が活気づくのが楽しみだ。


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