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更新日時:2008/07/10  02:31
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中銀の「公式」、日銀の利上げ不要を示唆-インフレでも約30兆円流出

  7月9日(ブルームバーグ):世界の中央銀行が適切な金利水準を計るのに 用いる「公式」によると、日本の政策金利(現在0.5%)は足元では3%強が妥 当のようだ。しかし、原油高によるインフレと企業・家計所得の海外流出を考慮 すれば、日本銀行が内外経済の減速などを理由に利上げを「休止」する必要はな くなる。適正水準が0.5%に下がるからだ。

  原油など商品相場は先週、過去最高値を更新した。米サブプライム(信用力 の低い個人向け)住宅ローン問題に端を発した米国経済の低迷を受け、国内景気 は後退局面入りの可能性も浮上。原材料を輸入し加工製品を輸出する日本企業は、 資源高と需要鈍化・円高による輸出価格の伸び悩みで、収益力が低下している。

  約16年ぶりの高インフレに悩む欧州中央銀行(ECB)は3日、4.25%に 利上げした。米金融市場は、雇用情勢の悪化にもかかわらず、年内の米利上げ確 率を75%、今後1年間の利上げ幅を0.7ポイント前後と予想。一方、日銀の年 内利上げ観測は22%。価格変動が激しい生鮮食品を除くインフレ率が実質的に 約15年ぶりの高水準となったにもかかわらず、低調だ。

  モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコノミストは、「国内景気の 過熱を伴わない原材料高は持続的なインフレ圧力とはならず、企業・家計所得の 海外流出は需要を減退させている」と話す。中銀が参考にする「公式」に日本経 済が置かれた不利な状況を加味すれば、足元で妥当な金利水準は0.5%程度にな ると推計。日銀の利上げは「全く想定外であり、むしろ利下げの可能性すらあ る」と予想した。

             テイラー・ルール

  佐藤氏が言及した公式は「テイラー・ルール」と呼ばれるものだ。インフレ 率や景気の強さが望ましい水準からどの程度離れているかによって、政策金利を 中立な(経済を過熱も減速もさせない)水準から上下させる金融政策の運営手法。 スタンフォード大のジョン・テイラー教授が1993年に提唱した。今日では、持 続的な経済成長の基盤となる中長期的な物価安定を目標とする世界の中銀にとっ て、「明快な基本原則」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)と されている。

  実際、内閣府の推計によると、過去の米政策金利は、①均衡実質金利(潜在 成長率など)、②望ましいインフレ率、③望ましいインフレ率からのかい離幅、 ④景気の強さ(需給ギャップや失業率)――からなるテイラー・ルールの公式で、 「大体は説明できる」(籠宮信雄参事官)。

  ただ、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融危機への対応に追われた昨秋 以降は、公式による理論値を大幅に下回っている。BNPパリバ証券の河野氏の 推計では、米政策金利(2%)の理論値は足元で3.4%。景気低迷下での根強い 利上げ観測は「危機が収まれば、FRBは必ず超緩和の是正に乗り出すと市場が 読んでいる」(河野氏)ためだ。

  中銀の金融政策は特定の枠組みを機械的に用いて行うものではないが、この 公式は日銀の実績にも当てはまるようだ。

  みずほ総合研究所の草場洋方シニアエコノミストの推計によると、1980年 代半ば前後と理論値がマイナスになる90年代後半から2005年頃までの深刻なデ フレ局面を除けば、日銀の政策金利はおおむね理論値で説明できる。さらに、大 幅で頻繁な金利操作を避ける行動様式を公式に埋め込むと、81年以降の「ほぼ 全期間を通じ、実績と理論値のかい離は非常に小さくなる」という。草場氏は 「日銀は激変回避への配慮を重視しているようだ」と話す。

              3.75%か0.5%か

  テイラー・ルールの公式で政策金利の理論値を導き出す場合、金利や物価、 景気に関する指標の種類などによって、結果にはある程度の違いが生じる。足元 の理論値を機械的に算出した場合、BNPパリバ証券の河野氏は3%強、モルガ ン・スタンレー証券の佐藤氏は3.75%と見積もる。では、日本経済が直面する 原材料高の悪影響を加味すると、政策金利の適正水準はどうなるか。

  佐藤氏は「輸入コスト増はインフレ率の基調を押し上げない」ため、生鮮食 品を除外するだけ(直近で1.5%)でなく、酒類以外の食料とエネルギーも除い たインフレ率(同マイナス0.1%)を用いて試算した。

  販売価格への転嫁しにくさ(交易条件の悪化)により、企業・家計の所得が 事実上、1-3月期に年率で約26兆円も資源輸出国に流出した点も重視した。 景気の水準を示す「需給ギャップ」を、国内総生産(GDP)に基づく0.9ポイ ントではなく、GDPから所得流出額(交易損失)を差し引いた国内総所得(G DI)によるマイナス1%と設定。政策金利の理論値は0.5%との結果を得た。

             海外への所得流出

  内閣府によると、海外への所得流出は07年、主要国で最悪の1965億ドル。 GDPの4.5%に達した。米国は0.8%、ユーロ圏は0.4%だ。JPモルガン証 券の足達正道シニアエコノミストの分析では、日本は石油輸出国機構(OPE C)諸国への流出額に対し、輸出や対日投資として直接取り戻せるのは3割。米 国も34%だが、ユーロ圏は88%。世界平均は73%だ。BNPパリバ証券は、所 得流出が4-6月期に年率28.5兆円、7-9月期は31.4兆円に増えると予想す る。

  リーマン・ブラザーズ証券の川崎研一チーフエコノミストは、「日本人は働 けど働けど、所得が増えない。国内経済はインフレどころか、むしろデフレだ」 と指摘。「利上げなど、とても展望できる状況ではない」と語る。

  日銀の白川方明総裁は先月、金融政策決定会合後の記者会見で再三、「交易 条件の悪化に伴う所得形成の弱まりが国内民需の下振れをもたらすリスク」に言 及。企業や消費者の予想インフレ率を注視しつつも、景気減速懸念を強調した。

  亀崎英敏審議委員は5月末の記者会見で、生鮮食品を除くインフレ率(当時 1.2%)のうち、約1.1ポイントは食料とエネルギー関連だと指摘。原油価格が 上昇し続けない限り、「いずれは前年同月比で押し上げ効果がはく落していく」 と予想。生鮮食品を除くインフレ率は、日銀の正副総裁と審議委員が中長期的に みて望ましいと考える「0-2%の中に落ち着いていく」との見方を示した。

  三井住友銀行市場営業推進部の宇野大介チーフストラテジストは、内外景気 は一段と悪化し、米国は利下げ再開に追い込まれると予想。日銀は「年末にかけ て、利下げの環境整備に動くだろう」と話した。

記事に関する記者への問い合わせ先: 東京 野澤茂樹 Shigeki Nozawa SNOZAWA1@BLOOMBERG.NET

更新日時 : 2008/07/09 13:01 JST



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