「医療崩壊」テーマに議論(後編)−心血管インターベンション学会
日本心血管インターベンション学会が7月4日に開いたパネルディスカッション「変革期を迎える医療安全への対応―崩壊が進む医療の中で今何が出来るかを考える」の中で、虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹氏は、ことし12月に迫る公益法人制度改革三法の施行により、日本医師会が従来の組織体制を抜本的に見直す必要があることに言及し、「現行の日本医師会が終焉(しゅうえん)を迎える」との見方を示した。また、慶応義塾大医学部教授の池上直己氏は、DPCの構造上の問題点を指摘した。(熊田梨恵)
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小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長 著作や講演活動を通じて臨床医の立場から医療崩壊の危機を訴えている小松氏は、公益法人制度改革三法が日本医師会に与える影響について言及。ことし12月に同法が施行されると、現行の社団法人は5年以内に公益社団法人か一般社団法人に移行しなければならないことに触れ、「現行の日医は5年以内に終焉(しゅうえん)を迎える」と断言。日医がこれまでの体制を抜本的に見直さなければならないとの見方を示した。
2006年に公布した公益法人制度改革関連三法によれば、法律の施行後、現行の社団法人は5年の移行期間の間に、公益社団法人への移行の認定か、一般社団法人への移行の認可が申請できる。移行しない法人は解散したとみなされる。社団法人である日医も、選択を迫られることになる。
■「公」なら特定団体への利益供与不可能
小松氏は、日本の医療の現状について、「国家的危機で、厚労省のみで対応できるものではとてもない。医療政策の大方針を立案する専門家集団が必要とされている」との見方を示した。その上で、「私が注目していることがある。日本医師会が5年以内に終焉することだ」と強調。公益社団法人か一般社団法人を選ぶことを、「『公』を選択するか、『私』を選択するかを明確にしなければならない」と表現した。
公益社団法人は、▽不特定多数の利益の増進▽会計を含めて社会が活動を監視▽公平な参加の道が開かれている▽社員は平等の権利を有する▽特定の個人やグループの恣意によって支配されない―などの規定がある。このため、日医は現在のような代議員制度を法律上取れなくなり、会長選挙もできなくなると主張した。さらに、役員がほとんど重なる政治団体「日本医師連盟」と日医との併存は不可能になり、特定の政党への献金を継続したり、勤務医を「第二身分」にとどめたりすることもできなくなるとの見方を示した。
小松氏は、日医が法人の種類を選択しなければならないこの機会を、「『公』のための医師の組織をつくるチャンス」とし、期待感を示した。「すべての医師を束ねて自らを律し、ひたすら医療を良くすることに徹する、『私』を主張しない気位の高い組織」にすべきと訴えた。さらに、これができれば、医療をめぐるさまざまな問題が解決しやすくなるとし、「私」を主張する組織は別につくればよいとした。
特に院外での公益活動がどのようなものになるかを広く議論すべきとし、日医がどのような決断を下すかが、今後の医療界の在り方に大きく影響するとの見通しを示した。
DPCのあり地獄
池上直己・慶應義塾大医学部教授 中央社会保険医療協議会(中医協)下部組織のDPC評価分科会の委員なども務める池上氏は、DPCの構造上の問題点を指摘し「DPCのあり地獄」と表現する。
DPCの入院料は、DPC分類点数に入院日数を掛けたもので、分類点数は患者の入院期間により異なる。入院期間が短いほど入院料は高く、最も短い「入院期間T」は、次に短い「入院期間U」より30%高い。入院期間Uの日数を過ぎると入院期間Uの点数から15%低くなる。この「入院期間」は全国のDPC病院の患者の入院日数などのデータを基に決められ、短い方から25パーセンタイルが入院期間T、50パーセンタイルが入院期間Uとなる。
池上氏は、「皆が(入院日数を)短くしようとすると平均も短くなるので、病棟の重症患者は増え、医師はますます疲弊する。入院期間の日数はどんどん短くなる。これは薬価調査に基づいて薬価が下がるのと同じ、『あり地獄』の構造。みんながこの範囲で入院させようとして、だんだん被害が出るのが分かると思う」と述べた。
■報酬改定「『あうん』であってエビデンスなし」
また、「診療報酬本体部分は中医協で交渉するが、交渉する上でどのぐらいエビデンスがあるかというとほとんどなく、大部分は政治折衝。バランス感覚やマスコミの報道で決まる。その結果、今回は産科の手術料などが上がった」と述べた。
診療報酬改定にともなう調査についても説明し、改定前に医療機関の経営状況を調査する「医療経済実態調査」の使い道を、「どういう病院に儲けが多く、また少ないかを見る。儲けが多い病院、例えば精神科や療養病棟の病院の扱う点数を下げる」こととした。また、毎年6月審査分のレセプトを基に、政管健保や組合健保、国保での診療・調剤行為の内容や傷病の状況などを調べる「社会医療診療行為別調査」にも言及。「各行為、例えばPTCAの点数について、年間何回やっているか、PTCAの点数を10%下げると医療費全体にどれぐらい影響するかと、現場でそういうことをしながら、『あうん』の呼吸でやっている」と述べた。
「『あうん』であって、エビデンスはない例」として、2002年度の改定でMRI画像診断撮影料について、全身で1780点から1220点に下がったことなどを挙げた。その上で、「あっさり点数が下がった。その時なぜ下がったかという根拠は特にない」と述べた。
■医療費増は保険料増額で
国による医療費抑制の背景にも言及した。国と地方の借金がGDPの2倍に達する中、「骨太の方針2006」が歳出・歳入の一体改革で、2011年にプライマリーバランスの黒字化を達成するとの方針を打ち出している。そのため、高齢化などに伴って今後も増加が見込まれる社会保障費、特に医療費が抑制対象になっているとの見方を示した。医療費の財源構成は、国による定率負担である国税が26%を占めており、「これを抑制するために、医療費全体を抑制しなければいけない構造になっている」と述べた。
こうした状況の中で医療費を増額するためには、「保険料引き上げの可能性に懸けるしかない」と主張。医療サービスと保険料の関係が国民に見える形になれば、保険料の増額に対する理解が得られる可能性があるとした。医療制度改革によって後期高齢者医療制度や政管健保などの保険者が都道府県単位に集約化される方向にあることを評価した上で、救急体制や治療成績などが隣県と比べて悪い場合、「保険料を上げなければ改善が難しい」と県民が理解すれば、増額できる可能性はあるとした。このため、「治療成績などのエビデンスを住民に提示する必要がある」と述べた。
医療費増額のための増税の可能性については、そもそも赤字財政なので大幅な増加が見込めないとした。加えて、半分が税金で運用されている後期高齢者医療制度による今後の医療費増で、医療費に占める税の割合は確実に増加するため、困難との見通しを示した。
更新:2008/07/09 13:30 キャリアブレイン
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