公務員に袖の下を渡してものを頼む。警察が動く。次々に関係者が逮捕され、並ぶ顔写真を金の流れの線が結ぶ「汚職相関図」がメディアに掲載される。
組織的な贈収賄事件でしばしば見る報道だが、今大分県警が捜査を進めている事件の相関図に驚かされるのは、登場者が教員や県教育委員会幹部ら教育者たちだからだ。
小学校校長らがわが子を採用してもらうために、県教委幹部らと贈収賄サークルを成したのが事件の構図だ。しかし、関係者の証言などでは、これにとどまらない。例えば、逮捕者の一人は少なくとも35人の口利きを受け、成績改ざんをした疑いがある。また別の一人は小規模校から県教委に転勤する際、現職幹部に高額金券を贈っており、関係者は「人事の前後には、モノ、金が動く」と金品授受横行の体質を語る。
公立学校教員採用試験は都道府県、政令指定都市教委が夏場に2段階選考で実施する。県警の調べでは、不正は合格点に足らない者に加点するやり方だ。採用倍率は全国的に団塊世代の大量退職や少人数学級導入の動きもあってひところより下がり、07年度で平均7・3倍だが、大分県は11・9倍と人気は高い。
文部科学省は教育振興基本計画の策定で、向こう5年間で2万5000人の教員定数増加を盛り込もうとし、支出抑制を図る財務省に拒まれた。
確かに授業時間を大幅に増やす新学習指導要領を実施するには教員を増やすことは必要だ。しかし、今回のような実態が露呈しては説得力はそがれる。
それだけではない。教員採用にはコネや情実が利いているのではないかという疑念、不公平感は多くの地域で語られ、採用不祥事が報じられる度に嘆息が漏れてきた。文科省は「そのような採用実態は聞いていない」としてきたが、ならば、疑念を払うために、捜査機関とは別に、今回の事件の土壌を徹底検証してその内実を開示し、速やかに事件も疑いも生じさせない改革をすべきではないか。
それには、採点・判定などが二重、三重に他者によってチェックできる仕組みが必要だ。恣意(しい)的な加点、減点の形跡が明確に残り、第三者が検証できれば抑止効果は上がる。しかし、それは情けない手段だ。こと教育界でこうした対策を考えなければならないこと自体が問題なのだ。
今回の事件はごく一部の不心得者が起こした、では説明できない根の深さと広がりを示唆している。自制の感覚が鈍磨するほど長く続いてきた慣行慣習ではないのか。そんな疑念さえぬぐえない。例外として扱い、これを教訓としないで放置するなら「教育不信」をさらに深めるだけだろう。
真剣に子供と向き合っている多くの先生たちのためにも、徹底解明が必要だ。
毎日新聞 2008年7月8日 東京朝刊