2050年までに温暖化ガスの排出を、世界全体で少なくとも半減させる。昨年の独ハイリゲンダム・サミットでは真剣な検討にとどまったこの長期目標を、今回の洞爺湖サミットで主要8カ国(G8)首脳は、世界共通の展望として、国連気候変動枠組み条約の数値目標として採択するよう求めた。
議論をリードした議長の福田康夫首相は、「低炭素社会をめざす地球規模の国際共同行動の一歩」と、洞爺湖での前進を強調した。ただし、この長期目標はG8の合意ではなく、G8が世界に求める課題という文脈で書かれている。排出が急増している中国やインドなどに削減の枠組みへの参加を求める米国のブッシュ政権に配慮したものといえる。
長期目標の設定に難色を示していた米国を巻き込んで、文書化にこぎ着けただけでも上出来というのが、首相の言い分だろう。しかし、40年も先の、法的拘束力のない長期目標の再確認を、前進と呼べるほど、温暖化を巡る状況は甘くない。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が世界の政策決定者に求めている科学的な要求水準は、2020年までに先進国の25―40%の排出削減や、今後10年から15年以内に、世界の排出量を減少に転じる早期のピークアウトである。
今回のG8会合でも、温暖化対策の基本はIPCCの科学的予測にあると確認している。それなのに、20年をめどにした中期目標については、「野心的な国別総量目標」と、抽象的にしか示されていない。
サミット最終日のきょう、中印など新興国も参加する主要経済国会議が開かれる。先進国に意欲的な中期目標の設定を求める新興国が、具体性のないG8の結論にどう反応するか。温暖化をめぐる国際交渉では、ここが最大の焦点となる。
日本が提案していた目標設定のために分野ごとの削減可能量を積み上げる「積み上げ型セクターアプローチ」という言葉は、今回の宣言にはない。代わって、目標を達成する手段としてのセクターアプローチは有効と表現されている。削減目標はトップダウンで決め、達成はボトムアップでという原則に戻ったわけだ。
20年までに20%ないし30%削減という意欲的な中期目標を掲げるEUが今回、米国に譲歩したのは、来年12月決着に向けて議論が本格化している国連の温暖化交渉の勢いをそがないためといわれる。中継ぎとしてのサミットのあいまいな役割を、議長を務める福田首相は見事に演じ切ったのかもしれない。