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NIKKEI NET

社説2 経済運営では根拠なき楽観(7/9)

 主要8カ国(G8)首脳は8日、不透明感の強まっている経済問題について話し合い、世界経済に関する首脳宣言を採択した。首脳宣言は「世界の経済成長に引き続き肯定的」と総括しているが、根本にある米国経済の構造問題などについて十分な分析も突っ込んだ議論もなされていない。首脳たちはどうして「肯定的」になれるのだろうか。

 米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題について、首脳宣言は「深刻な緊張は依然存在している」としつつ、「過去数カ月、状況はいくぶん改善した」と述べている。

 米国の住宅価格に下げ止まりの兆しがみえず、米金融機関は証券化商品で引き続き巨額の評価損を計上している。株価も世界的に不安定だ。にもかかわらず、「状況が改善」と総括するのは、結論が先にあったとしか思えない。

 日本政府の説明によれば、「米住宅問題やサブプライム問題について直接の議論はなかった」という。これでは、「根拠なき楽観」と言われても、やむをえないだろう。

 為替相場についてサルコジ仏大統領は「ドルと人民元が安すぎ、ユーロが高すぎるとの見方でG8は完全に一致した」と語った。ただ、いかにしてドルへの信認を回復するかの問題は残されたままだ。

 原油や食料の高騰について、首脳宣言は「強い懸念」を表明しているものの、対応策としては「商品先物市場の透明性向上」など当たり障りのない表現の項目が並んでいるだけである。これでは市場へのメッセージとして迫力に欠ける。

 「首脳たちはエコノミストではありませんから」。日本政府は経済討議の中身の薄さについてこう弁明している。だが、第一次石油危機の衝撃を受けて1975年に始まったサミットは、本来、直面する経済の課題について首脳たちが自ら論じ合う「エコノミック・サミット」だったのではないか。

 サミットの枠組み拡大を語るのもいいが、いま問われているのは「サミット経済会合」の中身である。不確実性を増す金融市場からの問いかけに政策の指針を示せない首脳たちには、指導者として疑問符が付く。

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