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社説:平成版前川報告 「夢よもう一度」に決別したか

 経済財政諮問会議に設けられた「構造変化と日本経済」専門調査会が報告書をまとめた。前川春雄元日銀総裁が中心になり、中曽根康弘内閣時代の86年にまとめた「前川リポート」の21世紀版を目指している。

 「前川リポート」は外需依存型の経済構造から内需主導型への転換を提言した。10年程度先を展望した「平成版前川リポート」は、日本経済の停滞からの再起を最大のテーマとしている。

 日本経済が熟年期から老年期に向かっている中で、副題として「日本経済の若返りを」を掲げているのもそのためだ。再び、経済活力を取り戻し、世界の主要プレーヤーとして評価されるようにしたいという願いが込められている。

 そこで、経済構造の転換が不可欠であり、対症療法に逃げ込まず、構造改革を貫徹することを求めている。小泉純一郎政権時代の構造改革路線に似通った論法である。

 総論としてはそうだろう。世界経済における日本経済の地盤沈下は事実だ。世界全体の付加価値額である国内総生産(GDP)に占める日本の比率は94年の17・9%が、07年には8・1%と半分以下になっている。1人当たり名目GDPでも93年の経済協力開発機構(OECD)加盟国中2位から、06年には18位に下落している。

 では、日本は80年代から90年代初めにかけて本当に強かったのだろうか。

 バブル経済期と重なっており、実体以上に膨らんでいたことは間違いない。競争力でもそうしたことが反映している。日本の強さは割り引いて見る必要がある。また、先進国は日本ほどではないにしろ、世界に占める地位を低下させている。途上国が工業化を進めている以上、当然のことだ。

 一方で、日本経済の存在感低下は小泉政権の構造改革期と重なっている。このことをどう考えるのか。改革の検証も必要だ。

 では、どのようにして経済の若返りを図るのか。

 日本が持っている人材に代表される知的資本と自然や気候、水資源など自然資本の強みを発揮する経済にしていくことはいうまでもない。国内のみならず、世界からも人材や技術が集まってくる開かれた経済社会も必要だろう。

 活力を取り戻し、安全・安心の社会に道を開くためにも、若者が希望をもてる社会にすることは必須条件だ。正規労働者と非正規労働者の格差問題への本格的な取り組みも必要である。

 ただ、課題解決の突破口として経済成長に過度の期待を置いている点は気になる。「夢よもう一度」は、ありえないのだ。

 成熟段階の経済ではGDPの伸びは限られる。GDP以外の要素をどう取り入れ、豊かさに結び付けていくのか。新しい時代の発展の姿が問われているのだ。

毎日新聞 2008年7月9日 東京朝刊

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