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脱温暖化へ、洞爺湖サミットで主要8カ国(G8)が一歩踏み出した。
二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの世界全体の排出量について、50年までに半減するという考え方を気候変動枠組み条約の全締約国と共有し、この目標を締約国会議で採択することを求める。そんな内容の文書をまとめたのだ。
この問題では、去年の独ハイリゲンダム・サミットで「50年までに半減」という目標を「真剣に検討する」と申し合わせた。今回のサミットでは、それをどこまで先に進められるかが問われていた。
G8が「50年までに半減」を正式の国際目標にしようと率先して提言できなかったのは残念だ。
だが、この文書がいうように、脱温暖化には世界全体での対応が欠かせない。国連の下にある締約国会議は、先進国に排出削減の義務を課す京都議定書の実施期間が12年に終わった後の枠組みづくりを担っている。その舞台に向けて、この目標を採択するよう求めたことは大きな意味がある。
「50年までに半減」を目標とすることには、米国がなかなか「うん」と言わなかった。そうしたなかで、この旗を降ろすことなく、それを国連の枠組みに託したのである。まもなく政権の座を去るブッシュ大統領の米国を日本や欧州が押し切り、国連主導の流れを確かなものにしたといえる。
この発信に、きょうサミット3日目の主要排出国会議で中国やインドなどの途上国が理解を示せば、G8が投げた球が生きてくる。
「50年までに半減」は、世界の科学者たちでつくる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告をもとにしている。途上国は削減義務を負うことに反発しているが、「50年までに半減」という国際目標そのものには反対しにくいだろう。
今回の文書でもう一つ意義深いのは、G8の国々が「野心的な中期の国別総量目標」を定める、と明言したことだ。
米国は、排出量の削減目標を国ごとに決めることに消極的だった。その米国を引き込んだのである。
京都議定書後の枠組みは、インドネシアのバリで開かれた去年暮れの締約国会議で09年までに仕上げることを決めている。この話し合いでは、米国と並ぶ排出大国となった中国などにどう応分の責任を果たしてもらうかが最大の懸案になっている。
G8は今回、「先進国は20年までにどれだけ減らすか」などの中期目標を示せなかった。代わりに国別目標を担うというカードを切った。
温暖化対策という待ったなしの課題。きょうの最終日、こんどは急成長中の途上国が応える番である。
Fuel(燃料)とFood(食糧)の国際価格が、かつてない勢いで高騰している。それを、米国のサブプライム問題に端を発したFinance(金融)の世界的な混乱が増幅している。
北海道洞爺湖に集まった主要8カ国(G8)の首脳は、世界経済を激しく揺さぶるこの「3F」について「深刻な試練だ」と強い懸念を示した。
とはいえ、「3F危機」をすぐ沈静化させられる即効性のある対策を、合意文書で示せたわけではない。
短期的な対策として、原油では産油国の増産や製油所への投資強化、産油国と消費国との対話、原油市場の需給情報の整備がうたわれた。食糧では、最貧国への支援拡大や緊急時に備えた備蓄制度、輸出規制の撤廃などをあげた。合意文書に盛り込まれた対策に目新しさは乏しい。
また、原油と穀物の高騰をあおっていると批判される投機マネーの抑制策や、あるいは、その大もとにある米国の金融混乱とドル安にも、明確なメッセージは示されなかった。
インパクトには欠ける内容だが、それはG8の利害が衝突したからでは必ずしもない。残念ながらいまのところ即効薬は見いだしがたい、という現実があるからだ。
3F問題の根底には、世界経済の大きな構造変化がある。これに対応するには、世界各国が中長期の対策を地道に積み重ねていくしかない。省エネを進め、代替エネ・新エネを開発し、途上国を含めて食糧を増産していくといった長期的な対策である。
その点では、このサミットが問題解決に向けてスタートする決意を示したと評価できるのではないか。
ブラジル、ロシア、インド、中国が頭文字から「BRICs」と呼ばれ、急速な経済成長が注目され始めたのは5年前だった。その新興国経済がこれほどのスピードで離陸し、世界経済の枠組みを著しく変えると予想した人は少なかっただろう。それが原油と食糧の需給見通しを大きく変えた。
3Fは、今回サミットのテーマである地球温暖化とも深く結びついている。G8各国は利害対立を抱えながらも、共通の問題として対応していかざるをえなくなっている。
たとえば、エネルギーと食糧の大輸出国であるロシアは、初参加のメドベージェフ大統領が、小麦などにかけていた輸出関税をサミット直前に撤廃した。これで食糧特別声明に輸出規制の撤廃を盛ることができた。バイオ燃料を推進する米国も、食糧との競合批判を受けて「食糧安全保障との両立」に合意した。サミットの重しがこれを引き出したともいえるだろう。
3Fの克服は、新興国も含めて長き闘いになる。G8には、その険しい道のりをリードしていく使命がある。