ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン岩手> 記事

平泉 世界遺産見送り

2008年07月08日

写真

「平泉」について審議した世界遺産委員会=現地時間6日午後8時10分、カナダ・ケベック市のコンベンションセンター、参加者提供

 平泉を巡る審議では、日本政府代表部と「登録延期」の勧告を出したユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)との攻防が、ぎりぎりまで続いていた。非公開で行われた世界遺産委員会での審議の内容を、関係者の話から再現した。

 イコモスは5月、平泉について比較研究が足りず、構成資産に見直しの必要がある、といった内容を指摘し、登録の延期を求める勧告を出した。世界遺産委では、この勧告の妥当性を話し合う。

 審議は6日午後7時57分(日本時間7日午前8時57分)に始まった。まず、イコモスのスーザン・ダニエル氏(英国)が「登録延期勧告」の内容を説明した。

 平泉の資産価値の完全性、真実性、登録基準の評価、他の類似物件との比較という4項目すべてが「不十分」という厳しい内容で、説明は持ち時間の5分を超え、8分間に及んだ。

 審議で発言したのは12カ国。冒頭にオーストラリアが、イコモスが指摘する九つの構成資産の見直しと比較研究の不足に関して質問した。

 続いて、いくつかの国が意見を述べた。ケニアは「偉大な価値がある」と発言。エジプトは「世界遺産リストに入れるべきだ」と主張した。日本が期待していた内容だ。登録に向けた流れができかけたように見えたが、後押しする意見は続かなかった。

 議論を見守った世界遺産総合研究所の古田陽久所長はその理由を「冒頭のイコモスの説明があまりにも厳しい内容だったため」とみる。

 クリスティーナ・キャメロン議長(カナダ)が議論を戻し、オーストラリアの質問について日本側の意見を求めた。ユネスコ日本政府代表部の近藤誠一大使は「九つの構成資産は人間でいうと手と足と目のようなもの」と一体性を強調し、比較研究については「すでに追加情報を提出している」と説明した。

 この説明を受けて、議長が委員会国に意見を求めた。論議は平泉のケースを例に、世界遺産における「文化的景観」の定義にまで発展したが、結局、「登録延期」の勧告は覆らなかった。

 だが、登録への再挑戦に有利な状況も生まれた。

 各国との折衝にあたった近藤大使は審議前日、「委員国の半分近くは昨年と同じメンバー。1年近く付き合っており、頼みを聞いてくれる可能性がある」と話していた。

 イコモス勧告では、場所は明示されていないが、二つの庭園を発掘調査した後に推薦書を改定するよう求めていた。だが、39分に及んだ委員会審議で、この部分は削除されることが決まった。庭園の発掘と修復は今後7〜8年かかる予定で、この文言が残った場合、推薦書の再提出は相当先になりかねない情勢だった。

 審議後、近藤大使は疲れた表情を見せながらも、「新しい再出発は、長い道ではないと思う」と胸を張った。

朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり