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覚醒剤を「傷害事件ってことに」前科を隠した社会復帰を考える

佐々島隆人2008/07/06
この数年、法廷傍聴に通っている。今回も執行猶予確実な微罪の覚醒剤事件を傍聴した。判決は懲役1年6ヶ月、執行猶予3年で、言い渡された瞬間に解放される。これで彼は、覚醒剤の前科を隠したまま職場や同居人との生活に戻る。それが彼にとって吉か凶か、確率は半々だ。
東京 裁判 NA_テーマ2

 法廷傍聴に通うようになって数年。多くの傍聴マニアがそうであるように、ぼくも微罪にこそ傍聴の醍醐味がある、と思っている。殺人・強姦・放火などの重大事犯も興味はあるが、数は少ないうえに公判も長引きやすいし、何より被告人の心情が理解できないことが多い。今回も覚醒剤事件。執行猶予確実な微罪だ。

 廊下とは反対側の扉が開き、被告人が入廷する。手錠&腰縄の40歳くらいの男が、前後を刑務官に固められたまま入室。まずビックリなのは、男が肩までの長髪だったこと。長髪の被告人は珍しい。公判までに、反省を示すために髪を切ることが多いからだ。人定質問で、年齢がほぼ見込み通りだとわかった。職業はコンビニ店員。要するに、この歳でフリーターだ。

 起訴状朗読。渋谷のクラブのトイレで覚醒剤を吸引した、として起訴された。他に20代で1度、最近半年間で3回の使用歴があることも自供したらしいが、前科・前歴はない。つまり逮捕されたのは初めて。母は70歳を超え、祖母は90歳を超えている。同居はしていないが、少なくとも2〜3ヶ月に1度は、母と祖母のところに顔を出していたらしい。

 即決裁判なので、いきなり被告人質問。まずは弁護人から。

 弁護人「今回、この事件で同居人の男性の方が上申書を書いてくれましたよ。今後、あなたの生活をきちんと監督し、2度と覚醒剤は使わせない、と。この方はどういう方ですか?」

 被告人「前の仕事のときに、職場で知り合った方です」

 弁護人「次に覚醒剤を使ったら、この方にたいへんな迷惑がかかります。わかりますね?」

 被告人「はい。彼には決して迷惑をかけません」

 これにはさすがにビックリ。40歳、フリーター、ロン毛、そこまでは許そう。男と同居してるって…。「?」が浮遊する。どういう関係なんだ、いったい。やっぱあっち方面だろか。

 弁護人「ご家族も、あなたが覚醒剤を使っていたことを知ったら、相当悲しみますね。」

 被告人「はい…。知人には、傷害事件で拘置されている、ってことにしてもらいました。さすがに覚醒剤っていうのは親には知られたくなくて・・・あ、いや、傷害ならいいってわけでもないですが、やっぱり、その・・・心配かけたくなくて」

 弁護人「職場のコンビニエンスストアはどうですか?」

 被告人「これも知人に、病気療養で1ヶ月くらいシフトに入れない、と伝えてもらっています。やっぱり覚醒剤だと・・・復帰が難しそうで・・・」

 弁護人「ということは、あなたは社会復帰したら、すぐに仕事を再開できる環境にあるわけですね?」

 被告人「は、はい」

 覚醒剤ならダメ、傷害ならOK、か。ここらへんの論理は、なんとなくわかる気もするし、許されない気もする。前科を隠して反省するなんていえるか、立ち直れるかは疑問だ。けれど、確かに友人や同僚が逮捕されたとしたら、覚醒剤よりは傷害のほうがまだマシかも知れない。

 とはいえ、部下に覚醒剤の前科がついたことを知らずにまた雇うコンビニ店主を考えると、それは許されないとも思う。だけど、隠しているからこそ死ぬ気で更正するはずだ、という論理も成り立つんじゃないか。もし、自分の部下にそういう奴がいたら、ぼくは許せるだろうか。

 検察官質問を経て、裁判官が直接質問。

 裁判官「私もね、こういう事件を扱ってると、みんなこの場では反省してる、もう絶対やらないって言うんですよ。けれど、ご存知だとは思いますが、そう言った人たちのうちの相当数が、また同じことをやってここに戻ってくるんです。…あなた、本当に誓えますね?」

 被告人「はい、誓えます」

 裁判官の念押しにも、動じなかった。証拠調べはこれでおしまい。証人も物的証拠も一切ナシ。事実関係を争わないと審理が早い。弁護人は意見陳述で、事実関係を争っていないこと、親や祖母との関係が維持されていること、職場も維持されていること、同居人が生活の監督を約束していることなどから、被告人の反省と生活環境の改善を見込めるため、執行猶予つきの寛大な判決を求めた。

 判決は懲役1年6ヶ月、執行猶予3年。猶予付き判決の場合は、基本的に言い渡された瞬間に解放される。おそらく控訴はしないだろう。今日から社会復帰だ。

 これで彼は、コンビニ・老母・老祖母・男の同居人の生活に戻る。覚醒剤の前科を隠す後ろめたさから必死に更正するか、執行猶予を得られた安心感でまた堕落するか。覚醒剤事件の再犯率は50%以上である。

ご意見板

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[35637] こんなものは記事ではない
名前:佐藤折耶
日時:2008/07/09 02:24
あまりにひどい記事なので、強く抗議します。


>職業はコンビニ店員。要するに、この歳でフリーターだ。<


>これにはさすがにビックリ。40歳、フリーター、ロン毛、そこまでは許そう。男と同居してるって…。「?」が浮遊する。どういう関係なんだ、いったい。やっぱあっち方面だろか。<


ここまであからさまな差別的侮蔑的な非正規労働者蔑視的記事が、堂々と掲載されていることに強く抗議します。


これだけ非正規雇用が一般化して社会問題化している時に、信じられない時代感覚です。


言うまでもなく、真っ昼間からぼけーっと空調の効いた安全な場所で裁判の傍聴をし、人の不幸をおもしろ半分に飯の種にしている者より、労働として決して楽ではない、深夜であれば強盗に襲われるリスクすら高まるコンビニで、日々働く非若年非正規労働者の方が、少なくとも遙かに尊敬に値することは、言うまでもないことでしょう。


また、他人の性的志向を勝手に決めつけ、侮蔑的に言うことが論外なのも言うまでもありません。


しかも、覚醒剤事件の記事なのに、「依存症」という言葉すら出てきません。このあまりにお粗末な低レベルぶりには、言葉もありません。


本記事は、どうやったらここまでひどい記事が書けるのかという見本というしかないものだと思います。


あるいは、法律の勉強をしたといいながらこんな記事しか書けない記者こそ、哀れむべき存在なのかも知れません。


が、この記事の腐り具合は弁護のしようがありません。


数日前の高村べったりの記事といい、最近のJANJANは、特にひどい記事がめだってきているように私も感じます。


こういうどうしようもない記事は他のメディアに任せ、志の高い記事をよく選び、世に訴えていくことこそ市民ジャーナリズムのありようなのではありませんか?


*



なお、未だに依存症という言葉がよく理解できていない方は、以下のリンク先などを参照されたし。


薬物事件と弁護活動


福祉ネットワーク「この人と福祉を語ろう?漫画家・西原理恵子」
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[35602] この後が肝心でしょう
名前:田中秀郎
日時:2008/07/07 20:27
ネットのニュースで出ている覚せい剤に関わる事件を見ると、
確かに再度手を出す事例が多いみたいです。
でもこれは確かにその人間次第の面があるから、
更生できる環境でかつそれをサポートする環境が
整っているのならこれもいいとは思います。
このあとはどうなるのでしょうか。
[返信する]
[35587] 興味深い記事ですね。
名前:大沼裕人
日時:2008/07/06 22:30
大変面白い記事だと思います。

ただし覚せい剤事犯が「微罪」だとはいえない気がします。
隣国の中国では、アヘン戦争の教訓から死刑判決が多いということもさりながら、精神がやられて通り魔事件に変身してしまうこともあるので『微罪』は無いだろうと思料します。
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