2007年08月31日

けがネコ・ニコルと転落教師

平成15年の6月のこと
S台M高校に進学した石原マチと飛鳥エイジは、S台駅で待ち合わせていた。そこに現れたマチが抱えていた段ボール箱の中にぐったりと横たわっていたのが、この「ニコル」だった。



いずれ本編でも大きな存在としてストーリーに関わってくるニコル。
ぼろぼろだったこの子が、この後どうなっていったのか?
そして、二人力を併せてニコルを救おうとした俺とマチに何が起こったのか?

全ては、M県で起こった事実。
それを、飛鳥エイジは語り尽くす。
今もきっと元気でいるはずのニコルもまた、ある悪意と都合でとんでもないところに送られることになる。

そして、今もR町S台に住む俺を知る者達よ。あの時、一体何があったのか今こそ全てを知れ。
その先に、俺の運命がある。名誉と幸せを取り戻した平穏な日々か、血まみれの最期か、だ。

  

Posted by 飛鳥エイジ at 21:23Comments(0)

2007年08月31日

本編 1-6 友香(ともか)~ポケモン総出演?

俺は、H小学校に7年間勤務した。これは新任としては長期なほうである。その7年間に俺がH小学校からもらった思い出は数え切れないものだった。俺にとってH小学校は、まさに第二の故郷となっていた。
 そんなH小学校とも、いよいよ別れの時が近づいていた。
 平成9年3月末。俺はH小学校離任式に臨もうとしていた。


 H小学校の離任式は盛大だ。子供も保護者も、転任する教師たちに最大級のエールを送る。毎年それを見てきたからか、俺は転任の寂しさと同時に、離任式でどんな思いができるかという期待も大きかった。率直に語るが、俺は多くの子供たちとすばらしい思い出を共有できた。保護者の多くも、それを理解してくれていた。そんな自分が、「早く消えろよ」なんて送られることはないだろうと考えていた。

 だが……俺にはたった一つ、気がかりなことがあった。
 それは、最後の1年間に担任した4年生の、石田友香という女の子のことだ。
 友香は、ずいぶん俺に懐いてくれていた。優秀な子で、ほぼ全教科で優れた力を発揮した。性格も明るくさっぱりしていて、男女問わず友人の多い、ちょっと神様に贔屓されてるんじゃないかというほどいい子だった。
 そんな友香が、数日前の修了式後に俺に言った。
「飛鳥先生、来年もH小学校にいるよね!?」
 ……教師の転任は、新聞発表までは外部に漏らしてはならないトップシークレットだ。もちろん友香にそう言われた時点で俺の転任は決定していたが、それをはっきりと話してあげられないことが悔しく、歯痒かった。
 俺は、なんとなくその場をごまかしてしまった。

 修了式から二日後、新聞に俺の転任が掲載された。
 その日から俺の元には、卒業生たちが続々と訪れ、転任する俺に餞別を贈ってくれた。
 また、H小学校の児童たちも毎日たくさんやってきて、暗くなるまで俺と話し込む子も多かった。
 だが、友香は来なかった。
「怒らせちまったかなぁ。」
 友香は強情っぱりな子でもあった。一度決めたらてこでも動かないというヤツだ。今頃、俺が転任を黙っていたことにムッとしていることだろう。済まないことをしてしまった……。

 離任式当日。俺は予想以上に賑やかに送られた。まあ、毎年H小学校の離任式はこんな感じなのだが、自分が送られる立場になってみるとまた一段とアツイ送別会だ。
 俺の7年間は、どんな教師よりも密度の濃いものだったと自負している。その結果が、この日に具現化されていると感じた。
 校庭に子供たちの花道ができる。転任する教師はその花道を歩くのだが、俺は半分も行かないうちに両手が花束や餞別でいっぱいになってしまった。何人かの子供たちが、すかさず荷物持ちを手伝ってくれる。おかげで、俺は安心して花道の子供たちと最後の別れを済ますことができた。本当に、最後の最後までこの子たちは温かい。

 だが!
 花道の終わりに、友香がいた!
 あーあ……怒ってる怒ってる。目にいっぱい涙ためて、俺を睨んでるよ。
 俺の教師生活最大のピンチが迫っていた。どう謝ればいいんだろう?もう俺はH小学校に来ることはないだろう。普通なら、友香と会うこともまず無い。これが最後になるかもしれないのだ。
 授業の万倍もキツイ……。指導案書いてる時間もあるはずない。そして、いよいよ俺は友香の前に立った。
「とも……。」
 俺がバツ悪そうに声をかけようとすると、友香が先に動いた。
「んっ!」
 ムッとした表情のまま、友香は俺に何かを差し出した。その手には、紙筒が握られていた。
 俺は、一瞬で気圧されてしまい、反射的にその筒を受け取った。俺の魔闘気を貫いて背骨にびりびりくるほどの友香のオーラ。もはやこれは小学生のものではない。
 友香は、もう何も話さなかった。赤い目でぐっと俺を睨んだ後、ぷいと背を向けて立ち去ってしまった。これはヤバすぎる……。

 夜、俺は離任式で贈られた手紙や記念の品を眺めながら、7年間の記憶をたどっていた。そして、H小学校最後のメモリー……友香の泣き顔を思い出しながら、あの紙筒を開き始めた。



「絵……?」
 それは、4年生の児童が描いたとは思えないほど、緻密に描き込まれたポケモンの絵だった。当時のポケモンの殆どが描かれているようだった。紙は、白い部分が無いほどポケモンで埋め尽くされている。ところどころに、シミのようなものがあるのは、いったい何だろう?
 友香は、いったいどれほどの思いを込めてこれを描いてくれたのだろう。
 俺との別れを、本当に寂しく思ってくれる子が間違いなく存在する。
 俺は、その絵を見つめたまま、泣いた。
 そして気づいた。絵のあちこちについたシミは、友香の涙なのだ。
 後日、友香の母から聞いた話だ。
「飛鳥先生、あの子ね、先生の転勤が新聞に載ったとき、大泣きしたんですよ。そして、あの絵を描き始めたんです。毎日夜遅くまで。泣きながら描くから、涙が落ちてシミになってしまったんです。あんなに一生懸命になった友香は、私も初めて見たんですよ。」
 俺はやはり幸せ者だ。
 教師ドラマ?あんなご都合主義の作り物なんぞに感動してんじゃねえよ。
 俺は、俺の教師生活は、こんなエピソードに満ちている。
 H小学校よ、7年間、ありがとう。

 後日談になるが、俺が新しい学校に転任してまもなく、友香から手紙が届いた。
「ごめんなさい。」
と。
 さらに余談になるが……裁判で執行猶予が決まり、拘置所から自宅に戻った翌日、すぐに会いに来てくれたのも友香だった。ま、それだけで俺の事件の真実が見えてきそうなものだが。


 さて、俺のステージは、M県R町立S台小学校へと移る。いよいよ、俺は転落の入り口に立つことになるのだ。だが、はじめに言ったとおり俺の教師歴は基本、明るい。そう、できが悪いのは子供たちじゃない。本当に始末に負えないのは、できの悪い教師なのだ。
さて、俺の語りはますます踏み込んだものになる。「教師」「学校」の、知られざる内幕が次々と明かされる。正直、口にするのも鬱陶しいが、税金泥棒と指さされても仕方ないようなクズが今ものうのうと教壇に立ち、やる気もなくだらだらとこの国に寄生し続けるのは許せない。その中には、T田校長のように既にとんでねえ退職金を手にして悠々自適な余生を送る大悪党も存在するのだ。
許せるはずがない。  

Posted by 飛鳥エイジ at 18:09Comments(0)転落教師本編」

2007年08月31日

転落教師と水島くんの出会い(もちろん番外

5時起きの6時仕事全開だから、早寝早起きな毎日。その仕事ってのも、ありえねーくらい動く仕事で、以前万歩計つけて一日過ごしてみたら、27000歩……2万7千ですよ……なんとかしてくれよ、もう。それなのに、「女の子が将来なりたい職業」でランキングインしたりする、被勘違いトップなお仕事なんだよね……。「やめときな」と言ってあげたい。

って!水島君との出会いはどうしたんだよ!
いや、さっきあげた本編のヤンキー中学生・水島くんとは、彼が小学校6年生のときに一度あってるんだよね。その出会いってのが……



修学旅行の朝、我がH小学校の6年生たちも続々と校庭に集まってきた。これから福島県会津方面に、1泊2日の旅に出かけるのだ。N町の修学旅行は、平成5年当時はまだ学校連合型で、経費削減のために町内の4校が一緒に修学旅行を行うという、都市部では考えられない形態のものだった。
各校を出発したバスは、高速道路のあるサービスエリアで合流し、そこから全小学校が行動をともにするわけだ。H小学校の隣には、学区も隣接しているO小学校のバスが停まった。O小学校は、当時約束された大震災のようなもので、既に担任教師の手に負えない荒れっぷりだった。中学校では派手に開花すること間違いなしである。
そんなO小学校で、悪ガキどもの中心にいたのが水島くんだった。
で、何を思ったのか彼は、そのサービスエリアでの休憩中に俺のところにやってきて、「H小学校の飛鳥先生ですか?」と話しかけてきたのだ。当時俺は町内では有名人だったらしい。「H小学校に、鬼のような教師がいるらしい」とか、「H小学校には化け物がでるらしい」とか、いろいろ言われていたようだ。(実話)←いや、このブログの話自体全部実話だけど……。
で、自分の学校では教師にも怖いものなどない水島君は、「H小学校の鬼とはどんなもんか」と探りに来たわけだ。なんともかわいい坊やじゃないか。俺はそんな少年が大好きなのだ。
「うん、そうだよ。そういう君は、ええと、水島君か。」
俺は名札を確認して彼の名を呼んでやった。そして、そこから水島君は、自分の行動がどんなにうかつなものだったかを思い知る。
「O小学校の子か。すると、バスはあれだね?」
そういって俺は、彼の両肩に手をかけ、そのまま腕を鷲づかみにしてひょいと持ち上げた。「え?」
と、笑顔が凍り付く水島君。俺はそのまま、荷物を運ぶようにしてすたすたとO小学校のバスに向かい、ステップに彼をトンと優しく置いた。
「楽しい修学旅行になるといいね☆」
俺の言葉に、水島君は固まった笑顔のまま頷いた。
どうもO小学校の悪ガキどもは、修学旅行でもなにか一悶着起こそうと計画していたらしい。中でも、「鬼」とか言う教師がいるH小学校が一番のターゲットだったらしいが……。

旅行は滞りなく終わった。
そりゃあ、そうだ。彼が俺に挑んでくるなど、ボールがサザビーにケンカ売るようなもんである。そう考えると、彼はよく、中学校卒業後に俺に戦いを申し込むなどできたものだ。「あれから3年経ってるし……」なんてゾルディック家のキルアくんみたいなことも思ったのだろう。だが、彼は小学校時代に感じた恐怖を改めて体感したわけだ。
子供には、時に自分がどんなに暴れてもまったく通用しない「圧倒的な壁」を感じさせることが必要になる。そして、それに対して「ポジティブな方法で乗り越えられる道」をきちんと準備し、それとなく子供たちをそこへ導いていく。それが、悪ガキどもを指導する際の有効な手段の一つなのだ。ギャースカ怒鳴って竹刀振り回すだけの体力教師は、そこまで考えていないことが多い。だから、アホ金八ごときにやりこめられるのだ。俺は、「圧倒的な戦闘力」と、「理詰めで行けば必ず解けるパズル」を同時に悪ガキたちに示す。
乗り越えた先にある快感を予感させながら指導を続けることで、どんな暴れんぼうもその持て余していた力を「望ましい方向」へと向けていってくれるのだ。

水島君は、中学卒業後、北海道の学校へ進学し、農業や畜産の道へ進むと話していた。
彼が夢をつかみ、幸せな人生を送っていることを心底祈る。担任したわけではないが、彼も俺にとって、れっきとした「教え子」だから。
  

Posted by 飛鳥エイジ at 05:17Comments(0)

2007年08月30日

本編1-5 かかと落とし (ヤンキー先生とどっちがヤバい?

は?なんじゃこのサブタイトルは?
 いやいや、文字通り「かかと落とし」なのだ。当時人気者だった格闘家、アンディ・フグ(故人)の得意技だが、これが何故に俺の教師歴に関わることになるのか?
 ま、俺の教師歴は語り尽くせないほどの感動とバカに満ちているが、これは「バカ」のベスト10くらいに入る困ったエピソードだ。信じてもらえないかもしれないが、もちろん脚色ゼロの実話だ。平成9年3月。学区内のN第一中学校の卒業式の翌日に、H小学校の俺の教室で起こった出来事である。
 
 その日、俺は目前に迫った自分の転任準備や、クソな書類の整理に追われて夜遅くまで学校に残っていた。
 夜の校庭に、中学生風の男が二人、校舎に向かってやってくる。俺の元には毎日のように卒業生がやってきていたので、また誰か来てくれたものと俺は考えた。すると、教室に現れたのは予想通り、6年生時に俺が担任し、つい先日中学校を卒業したタカヤとサトルだった。タカヤは生徒会長、サトルは文化祭の実行委員を務めた、中学校では優等生である。ただし、こいつらがそんじょそこらの優等生とちょい違うのは、場合によっては教師とケンカもする強情っぱりであり、N第一中学校では「最強」の男たちだということだ。
 タカヤは身長こそ165そこそこだが、中身の詰まったがっちりした体格だ。浅黒い肌は相変わらず精悍な雰囲気を醸し出している。ちなみにこのタカヤは、あのリュウヤの兄だ。サトルはもう大人の体格で、彫りの深い顔はいつも自信に満ちている。
 俺は、この二人が生徒会の重職に就いたと聞いたとき、「バトルロイヤルでもやって決めたんじゃねえのか?」とマジで思ったほどだ。
 そんな二人が、そろって現れた。ま、卒業の挨拶程度だろうと思っていた俺は、
「おう二人とも、よく来たな。卒業おめでとう。」
なんて、らしくない言葉をかけた。二人は、
「ありがとうございます。」
と返事はしたものの、どうも様子がおかしい。ニヤニヤと怪しい笑いを浮かべ、俺を見ている。
「あ?何だお前ら。なんかあったのか?」
 俺が話しかけても、二人はなおも奇妙な笑みを続けている。いったい何をしにきたのだこいつらは?
「実は、今日は客を連れてきたんですよ。」
 タカヤが、やはり笑いながら口を開いた。
「客?俺の知ってる奴か?」
「ええ、一応。」
 サトルもニヤニヤと怪しさ爆発だ。俺の知っている人物を連れてくるのに、なぜこんなにもったいつける必要があるのか?
「おい。」
 タカヤが廊下に声をかけると、ドアの陰から男が現れた。ああ、確かに見覚えがある。N第一中学校のヤンキーどもの親分だった水島という男だ。何度か会ったことはあるが、そんなによく知っているというほどではない。それよりも、中学校の不良君が俺に何の用があるというのか?
 水島君は、俺の前に立つといきなりこう言い放った。
「飛鳥先生、俺と闘ってください!」
「あ、いいよ、どうぞ。」
 おいおい即答かよ俺。というか、授業よりケンカの方が得意だった俺は、「闘ってほしい」というお願いが大好きだった。それでも、殆ど面識もないヤンキー君に挑まれたのはさすが初めてだが。
 あっさりと彼の挑戦に応じる俺に、水島君は面食らったようだった。
 立ち上がった俺は、
「どうぞ、どこからでも」
と彼に声をかけた。水島君の後ろでは、二人がなおもニヤニヤしている。なるほどてめえら、怪しさの理由はこれか。
「い、行きます!」
 多少堅くなりながらだったが、水島君が俺に殴りかかる。パンチを2,3発捌く。かわいいローキックは特にガードの必要もない。俺は笑顔で彼の挑戦に応じていた。
 そのときだ、水島君が突然かかと落としを放ってきたのだ!いやいや、いくら流行りだといっても、実戦でいきなりかかと落としかよ?彼はなかなか体が柔らかいらしく、高々と上がった足は俺の頭の高さを越えていた。が、これは特にガードの必要もない。僧坊筋でがっしと受け止める。水島君の顔色が変わった。満身の力を込めて繰り出したかかと落としが、クリーンヒットしたにもかかわらずダメージを与えられない。
 信じられないという様子の彼は、続けてかかと落としを撃ってきた。再び、肩口で受ける。
 2,3歩後ずさりした彼は、何が起こったのかも理解できていないようだ。
 すまん水島君。俺は、君たちとは肉体が違うのだ。素人では、例え攻撃がモロに入っても、俺にダメージなど与えることはできない。
 さて、受けてあげるのはここまでだ。
「じゃあ、そろそろイクよ。」
 俺の構えが受けから攻めに変わる。表情も攻撃モードに入る。手は拳となり、ブロックを砕く凶器となる。
 一歩、前へ出ようとしたその時だった。
「いえ!もういいです。すいませんでした。」
 水島君がそう言ってファイティングポーズを解いた。俺はあまりに拍子抜けし、つんのめってしまった。
「あ?もういいの?」
「はい、もう解りましたから。」
 解ったとはいったい何のことか?俺は展開が読めずに困惑した。すると、タカヤとサトルが歩み寄り、
「な、わかったべ?」
と水島君に声をかけた。貴様ら、いったい何を……?
「事情を説明しろ。」
 俺の声に、二人は楽しそうに話し始めた。

 実は、この二人は単に生徒会長&実行委員長だったわけではない。荒れまくるN第一中学校にあって、「治安維持軍」のような役割も担っていた。
 確かにN第一中学校は荒れていたが、校内は比較的平穏だった。学校外では、バイクを盗んでパトカーとチェイスやらかしたり、隣の中学校と乱闘やらかしたりしていたN第一中学校のヤンキー君たちだが、学校内では殆ど授業妨害などもせず、おとなしいモノだったという。
 理由は至極単純。
 学校内で迷惑行為なんぞやらかそうもんなら、タカヤ&サトルという、最強の二人がすっ飛んでくる。N第一中学校では、生徒会長が「最強」だったのだ。
 水島君にしてみれば、生徒会長まで務める、まあ表向きはマジメな男や、文化祭なんて平和な企画に真剣になれる男が何故こうまで強いのか、ずっと疑問であり、納得できなかったというのだ。そして、中学校卒業を機に、水島君は二人にその理由を尋ねたのだった。
 で、このバカども!そんな水島君に、
「理由を見せてやるからついてこい。」
と、俺の教室まで彼を連れてきたというのだ!
 実は、二人を鍛え上げたのは俺だった。
 タカヤとサトルが小学校6年生の時、俺は二人にこう告げた。
「いいか、二人とも。N第一中学校は必ず荒れる。そんなとき、お前たちがマジメにやろうとする連中を守ってやれ。別に教師の味方しろってんじゃない。気に入らない教師のいうことなんざ聞くことねえさ。ただ、頑張ろうって気持ちを持ってる奴が思う存分頑張れねえ学校なんて最悪だからな。二人とも、頼んだぜ。」
 そして、毎日のように二人は俺に挑みかかってきたし、俺はそんな二人を鍛え上げた。
 ぶっちゃけ、そこいらでドングリケンカしてる不良どもなど敵うはずがない。
 そして、このアホどもは、まるで「百聞は一見に如かず」とでも言うかのように、水島君に『俺』を体験させようとここに連れてきたわけだ。
「話は解ったが……。あのなあお前ら。こんなヤツ俺にけしかけて、俺がやられたらどうするつもりだったんだ?」
「あはは!ありえねーじゃん、そんなの!」
「だよな!全員連れ来ても、全員やられてるよな!」
 爆笑する二人。つか、爆笑するポイントじゃねえぞそこ。
 聞けば、水島君は2学期の終わりには不良グループから抜けていたらしい。その時に他のメンバーから集団でリンチを受けて怪我も負ったという。
「どうしたら、集団にも負けないくらい強くなれるんですか?」
 水島君は真顔で俺に尋ねてきた。
「つかよ、集団でかかってきてる時点でキミは勝ってるじゃないか。」
「え?」
「集団でやってくるということは、タイマンじゃ勝てないって言ってるようなもんだろが。そんな腰抜けども相手にすんじゃねえよ。」
 俺の言葉に、水島君の表情は何か光が差したようだった。
「そうですね。俺は、あいつらから抜けるって言った時に勝ってたんですよね。」
「その通りだ。」
 タカヤとサトルは、ずっとあの笑いを浮かべたままだった。
 夜の校庭に消えていく3人の若者の背に、「日本も捨てたもんじゃねえよな」と奇妙な感動を覚える俺だった。
 俺の教え子たちは、本当にアツい。
 こんな子供たちに次々と出会える俺は、日本一幸福な教師じゃないだろうか。
 当時は、本気でそう感じていた。
 そう、子供はいつでも真剣に、まっすぐに応えてくれた。
 だが、そんな俺に立ちふさがったのは、同業者だった。

 その話は、もう少し後で語ろう。

1-6 友香(ともか) に続く
  

Posted by 飛鳥エイジ at 20:46Comments(0)転落教師本編」

2007年08月30日

四国八十八ヵ所お遍路旅

四国八十八ヵ所お遍路旅

東北の皆さんには、あんまり馴染みがないかもしれませんが、関西地方の皆さんは大分お遍路を身近に感じているようです。マジな話ですが、向こうでは会社の初任研修で「徳島の二十三ヵ所歩いてこい!」とかあるんです。実際に歩いた人からの話ですから信憑性は高いかと。

で、飛鳥エイジも、四国を一周歩いてきました。八十八ヵ寺、1400㎞の歩き旅。

もう一度行きたいか?と尋ねられたら、一瞬の迷いなく即答します。

もちろん!と

四国を歩かなければ味わえない感動や出会いが山盛りなんですよ、あの旅には。

あらゆるものに裏切られた飛鳥エイジが、今こうしてなんとか生きているのも、あの時の体験が支えになっているからだと思っています。

オススメです。
  

Posted by 飛鳥エイジ at 16:44Comments(2)