2007年09月10日
本編 2-9 ゴリラ教師の人気ランキング
「私はね、あなたの指導を見ていると吐き気がします。」
「同感だね。俺もそう思うよ。」
教頭、校長が揃ってこの調子だ。俺が校庭で子供達を大声で叱責したことがよほどお気に召さなかったらしい。
それにしても、「吐き気」まで言うかね?50歳を過ぎた管理職が言葉を選べない。これが、教師という職種が世間知らずだと揶揄される所以ではなかろうか。
お二人はとにかく大きな声がお嫌いで、指導の結果などどうでもよいことらしい。俺は言葉も返さず、半ば呆れて聞いていた。さらにT田が続けた。
「あんたはね、大声と暴力で子供達を意のままにコントロールするゴリラ教師だね。」
いやいや、そこまで言うかT田。確かに俺は若い頃ゴリラとか言われたことはあったが、お前に言われる筋合いはないねぇ。
「あんたは子供にも同僚にも嫌われてるよ。そんなんじゃ誰も着いてこないよ。」
あーホントにもう言いたい放題ですねえ。もしこれを現役教師の皆さんが読んでいたら、ここまで平気で口にする校長がどのくらいいるモノか報告していただきたいですねえ。
しかしまあ、同僚に嫌われてるってとこはある程度認めよう。職員室でも、一部の派閥からは俺が悪霊の様に忌み嫌われているのは承知しているし。もっとも、人の足引っ張るだけでなんの能力もない教師もどきに嫌われても、屁でもねぇが。
ただ、子供に嫌われているってのは納得できない発言だ。好かれているかというと自信は無いが、T田が言うほどに毛嫌いされているとも思えなかった。
そもそも、子供に媚びを売るのは得意だが、まともな交流などしたこともないT田に言われるのが気に入らない。野球をしたこともないヤツに、ちょっと調子を落としたプロ選手が「お前野球下手ね」と言われるようなもんだ。失礼にもほどがあるぞT田君。キミに子供の心をどうこう言う資格など無いということを、はやく理解してくれ。
さて、ゴリラかどうかは知らんが、俺が校内一、いや、町内一「怖い」教師であったことは間違いない。しかし、俺は感情で子供を怒るのではなく、目指すものを見据えた「指導」として子供達に厳しく臨むのだ。T田の様に、相手を中傷するだけの悪口雑言は使わない。だからこそ、子供達は確実な成長を見せてくれるのだ。感情むき出しで子供を叱りっぱなしにする教師も多いが、そんなクラスは決まって手がつけられないほど乱れていく。俺は、そんな能なしと一緒くたにされたのが腹立たしかった。
本当のところ、俺はどのくらい子供達から嫌われているのだろうか?
それから2週間ほど後。
当時俺が担当していた放送委員会の男子二人が、企画のことで相談があるといってやってきた。
大仁田、奈多というこの二人は、6年2組の児童だ。大柄で聡明な顔つきの大仁田は、学年でもリーダー格の力をもつ子で、有言実行型の力強い男だ。相方の奈多は、ひょろっとした風貌にメガネという、一見優等生タイプの子だが、実は学年トップクラスのお笑い芸人という正体不明のヤツだ。
大仁田が、はっきりした口調で切り出した。
「飛鳥先生、今度昼の放送で、『先生人気ランキング』をやりたいんです。」
うお!なんというタイミングか!先日、T田のあんな話があったばかりなので、「これは使えるかもしれん」と俺は楽しくなった。奈多が続いて言った。
「広報委員会が学校新聞でよくやってますよね。あれを俺たちもやりたいんです。どうですか?」
二人ともきちんと考えた上でもってきた企画らしい。6年2組は様々な活動で学校をリードするクラスになってくれていたが、この二人はその2組にあってもかなり行動力ある男子なのだ。
「いいんじゃないか。やってみよう。あさってまでに具体的な計画書を作って、もう一度来てくれ。やるからにはバッチリ成功させようや。」
「はい!」
二人ともいい返事だ。こんな子がそろっている2組は、瓦解していく1,3組を単騎で支えてくれていた。
二日後、二人が企画書をもってやってきた。
「全校児童にアンケート用紙を配り、好きな順に3人まで先生の名前を書いてもらう。一番の先生に3ポイント。二番に2ポイント、三番に1ポイントというふうにポイントでランキングを決めていく。集計は放送委員会の6年生が行い、発表は上位5人の先生だけとする。」
大まかな内容はこんな感じだ。かくして、「S台小学校先生人気ランキング」は始まった。
おおむね順調だったアンケートだが、低学年からの回収にやや手間取った。入学間もない1年生は、必ずしも3人書かなくてもよいことになった。しかし、問題だったのは子供より教師の方だった。
2年2組は、担任がこのアンケートを途中でボイコットするという行動に出た。定年近いおば様先生で、普段から何かと俺のやり方に反発する人だった。T田をのぞけば、反飛鳥派の筆頭である。
「子供が先生に対して好き嫌いで順番つけるようなアンケートには協力できません。」
このおば様、F澤先生のこの言葉にも一理ある。しかし、それならばなぜ、俺がこのアンケートについて打ち合わせで実施報告した際に突っ込まなかったのか?さらに、他の委員会では度々行われている同様の企画にこれまで反対してこなかったことも説明がつかない。それと、はっきり言ってしまえば、この人はとてもランキングで上位に入れるような人ではなかった。信念はあったようだが、それが子供達のためではなく、自己満足の域を出ないものだったため、クラスは常に冷えた空気が漂っていた。また、「私のクラスに口を出すな」という、化石タイプの教師によく見られる悪癖をそのまま抱えた人で、気の毒なくらい頑なな人でもあった。
ついでなので、このF澤先生についてもう一つ語っておこう。
職員室で、前任校の子供達を褒め称えて、S台小学校の子達をこき下ろすのはやめた方がよい。聞いていて非常に不快であった。
「S王小学校の子供達は何でもよく頑張った。S台小学校の子はダメだね。口ばっかり達者で、いざとなるとなんにも出来ない。やっぱり団地の子より田舎の子の方が扱いやすくていいねえ。」
とまあ、こんな感じの発言だ。S台小学校の子がダメってのは、あなたのクラス限定の現象でしょ?それにだ、
同じ事を学級懇談の場でも言えますかね、F澤さん?
さあて、話を戻そう。
全校から400枚ほどの用紙が回収された。山と積まれたアンケートの集計が、放送委員会の子供達の手によって進められた。この結果が出れば、俺がどの程度子供達から嫌われているかがはっきりする。
もしも俺がワースト3位以内にでもいたなら、俺はT田に頭を下げるつもりでいた。「校長の言うとおりでした。以後指導を改めます。」とね。
しかし……もし俺が上位にいたなら。T田はどんな顔をするだろうか。どちらにせよ、俺自身ちょっとどきどきしながら集計結果が出るのを待った。
ただ、作業している子供達がときどき俺の方を見て笑うのが気になった。
「何がおかしいんだ?」
「いえ、別に。」
別に、とは言うが、そのニヤニヤは怪しいこと極まりない。一体、何が起こっているのか。お笑い奈多は、時たま「グウレイト!」とかわけ分からんこと言っている。この企画、一体どんな結末を迎えるのか……。
三日後、一枚の表が完成した。もちろん、子供達の手作りだ。各クラスからどんな結果が出たかが一目でわかるものになっている。大したものだ……。こんな小学生ばかりだったなら、日本は間違いなく世界最強の国家となれるであろうに。まあそれは、こんな子供達を育てることが出来るT麻先生級の力量を全ての教師が身につければ、という条件がつくわけだが。
俺は表に目を落としながらみんなに声をかけた。
「ごくろうさん。よくやったな。いい表にまとまってるぞ。」
大仁田と奈多は、「へへへっ」と顔を見合わせている。
「でも、結果がすごいことになってるんですよ、先生!」
「だよな!でも、やっぱりって感じだよな!」
すごいこと?集計中からなんか様子は変だったが、一体何が起こったというのか。
表をつぶさに見ていく。当時俺はTTだったので、名前は表の下の方にある。校長から順に各クラスからのポイントと合計ポイントをチェックしていったのだが……。
「……なあお前たち、これは間違いないのか?」
「はいっ!2回数えましたから。」
大仁田が自信たっぷりに胸を張る。しかし、だとすると、これは本当に正確な結果ということになる。
「飛鳥先生、一番ッスよ!」
奈多が嬉しそうに言った。
ぶっちゃけた話、俺は上位に入る自信はあった。しかし、さすがにトップはまずい……。表を詳しく分析していくと、さらにいろいろなことが見えてきた。

俺のポイントは188。2位の123ポイントと大差の1位だ。これはますますまずいかもしれん。
上位には、俺の予想通りの名前が並ぶ。5年生担任のK桐先生は5位だった。さすがである。2位のS木先生は、なんと教務主任。教務主任とは、中規模以上の学校の場合、クラスを担任せずに、雑務調整に専念する「職員室組」である。教頭の隣にデスクがあると言えばわかりやすかろう。子供と直接ふれあうのは、担任が欠勤したときの補欠くらいなものである。それでいて2位は驚愕の結果だ。
むう、さすがはS木さん。彼が学級担任であったなら、間違いなく1位は彼のものであったろう。
例のF澤先生は、前年担任した学年から全く支持されていなかった。なるほど、これではアンケートに反対するのも無理からぬことだ。予想通りだが。
6年生の結果は、悲惨なものだった。1・3組の担任支持率が異常に低い。3組に至っては、転任したS井先生が担任以上のポイントとなっている。T子さんも、この結果に落ち込むのではなく、自分が至らないことを直視し、奮起してもらいたいものだ。
2組は、担任支持率が全校一だった。まさに圧倒的である。
T麻先生は全体でも3位だった。
1組の結果は、俺にとっては辛いものだった。Y田さんの12ポイントに対して俺は43ポイント。
T田よ、お前はこの結果をどう受け止めるのだ?1組、3組のこの異様な結果は、校長たるT田が生んだものである。人事責任者として、何か恥じるものはないのだろうか?
こうして、ランキングは完成した。
ゴリラ教師・飛鳥エイジ、人気ランキング一位。
T田やF澤さんが、配られた結果表を見て、ゴーヤを丸かじりでもしたかのような顔を見せた。だが、別に俺は情報操作をしたわけではない。これが、子供達自らが出した正直な結果なのだ。T田よ、いい加減バカ親にゴマを擦るのを一時停止して、子供達の心にきちんと向き合ってみてはどうだ?
しかし、T田にそんな期待をかけるのは無意味なことだった。サンタに現金をねだる方がまだ実現しそうなほどである。
それどころか、T田は恐るべき行動に出る。「そんなバカな」と思われる方が大勢いることだろう……。しかし、これは「ほんとうにあった怖い話」なのだ。あ、いやいや、こんなふうに言うとフィクションみたいだね。けど、これが本当にフィクションであったなら、どんなによかったか……。
放送前日、俺は突然校長室に呼び出された。まあ、予想はしていたがランキングの件についてだった。
「飛鳥さん、これはまずいねえ。こんなの発表したらたいへんじゃないか?」
どうせF澤あたりから突っつかれたのだろう。実にわかりやすい男だT田。
「あ、発表は上位5名だけです。下は公表しませんよ。」
「しかしねえ……。」
「学校新聞ではやってますよね。長期間児童の目に触れ続ける壁新聞で許される企画が、その場限りの学校放送ではなぜまずいんですか?」
俺の言葉は理路整然。T田に反論できようはずもなかった。こういうときのT田は、決まって最後にこう口にするのだ。
「これは校長命令です。発表しないでください。」
「ハイワカリマシタ」
子供達が懸命に作り上げた企画を、校長命令で差し止め、踏みにじる。これがT田なのだ。
こいつには義も理もない。ただ、自分の感情と都合あるのみだ。その口が、つい数週間前に「あんた嫌われてるよ!」と断言した相手が、人気NO.1だった現実など、見ないで通り過ぎることが出来るのがT田なのだ。
普段、へらへらと子供の前では笑うばかりで「君たちが一番大切なんだよ」と口にする男が、「校長命令」で子供が必死で作り上げた企画をぶち壊す。「吐き気がする」のはこちらのほうだ!これほどまで自分に忠実で、裏表のある男を俺は見たことがない。
しかし、俺が本当に辛いのはこれからだった。T田のことなんぞどうでもいい。いくらでも駄々こねさせておけばいい。
俺は、大仁田と奈多に、放送差し止めの事実を伝えなければならなかった。
「なんでですか!納得できないですよ!」
大仁田が怒る。当然だ。T田よ、貴様はこの子供達の悔しさが見えないのか?都合が悪くなると校長室に籠もる貴様には、言っても無駄なのか?
「先生も同じ気持ちさ。けどな、お前たちがこの企画をやり遂げたって事実は消えるわけじゃない。次の企画でそれは必ず生かされるから、よ。それとな二人とも。ごめんな。」
悔し涙を流してうつむく二人に、これ以上何を語れようか。
2-10 修学旅行の夜に に続く
「同感だね。俺もそう思うよ。」
教頭、校長が揃ってこの調子だ。俺が校庭で子供達を大声で叱責したことがよほどお気に召さなかったらしい。
それにしても、「吐き気」まで言うかね?50歳を過ぎた管理職が言葉を選べない。これが、教師という職種が世間知らずだと揶揄される所以ではなかろうか。
お二人はとにかく大きな声がお嫌いで、指導の結果などどうでもよいことらしい。俺は言葉も返さず、半ば呆れて聞いていた。さらにT田が続けた。
「あんたはね、大声と暴力で子供達を意のままにコントロールするゴリラ教師だね。」
いやいや、そこまで言うかT田。確かに俺は若い頃ゴリラとか言われたことはあったが、お前に言われる筋合いはないねぇ。
「あんたは子供にも同僚にも嫌われてるよ。そんなんじゃ誰も着いてこないよ。」
あーホントにもう言いたい放題ですねえ。もしこれを現役教師の皆さんが読んでいたら、ここまで平気で口にする校長がどのくらいいるモノか報告していただきたいですねえ。
しかしまあ、同僚に嫌われてるってとこはある程度認めよう。職員室でも、一部の派閥からは俺が悪霊の様に忌み嫌われているのは承知しているし。もっとも、人の足引っ張るだけでなんの能力もない教師もどきに嫌われても、屁でもねぇが。
ただ、子供に嫌われているってのは納得できない発言だ。好かれているかというと自信は無いが、T田が言うほどに毛嫌いされているとも思えなかった。
そもそも、子供に媚びを売るのは得意だが、まともな交流などしたこともないT田に言われるのが気に入らない。野球をしたこともないヤツに、ちょっと調子を落としたプロ選手が「お前野球下手ね」と言われるようなもんだ。失礼にもほどがあるぞT田君。キミに子供の心をどうこう言う資格など無いということを、はやく理解してくれ。
さて、ゴリラかどうかは知らんが、俺が校内一、いや、町内一「怖い」教師であったことは間違いない。しかし、俺は感情で子供を怒るのではなく、目指すものを見据えた「指導」として子供達に厳しく臨むのだ。T田の様に、相手を中傷するだけの悪口雑言は使わない。だからこそ、子供達は確実な成長を見せてくれるのだ。感情むき出しで子供を叱りっぱなしにする教師も多いが、そんなクラスは決まって手がつけられないほど乱れていく。俺は、そんな能なしと一緒くたにされたのが腹立たしかった。
本当のところ、俺はどのくらい子供達から嫌われているのだろうか?
それから2週間ほど後。
当時俺が担当していた放送委員会の男子二人が、企画のことで相談があるといってやってきた。
大仁田、奈多というこの二人は、6年2組の児童だ。大柄で聡明な顔つきの大仁田は、学年でもリーダー格の力をもつ子で、有言実行型の力強い男だ。相方の奈多は、ひょろっとした風貌にメガネという、一見優等生タイプの子だが、実は学年トップクラスのお笑い芸人という正体不明のヤツだ。
大仁田が、はっきりした口調で切り出した。
「飛鳥先生、今度昼の放送で、『先生人気ランキング』をやりたいんです。」
うお!なんというタイミングか!先日、T田のあんな話があったばかりなので、「これは使えるかもしれん」と俺は楽しくなった。奈多が続いて言った。
「広報委員会が学校新聞でよくやってますよね。あれを俺たちもやりたいんです。どうですか?」
二人ともきちんと考えた上でもってきた企画らしい。6年2組は様々な活動で学校をリードするクラスになってくれていたが、この二人はその2組にあってもかなり行動力ある男子なのだ。
「いいんじゃないか。やってみよう。あさってまでに具体的な計画書を作って、もう一度来てくれ。やるからにはバッチリ成功させようや。」
「はい!」
二人ともいい返事だ。こんな子がそろっている2組は、瓦解していく1,3組を単騎で支えてくれていた。
二日後、二人が企画書をもってやってきた。
「全校児童にアンケート用紙を配り、好きな順に3人まで先生の名前を書いてもらう。一番の先生に3ポイント。二番に2ポイント、三番に1ポイントというふうにポイントでランキングを決めていく。集計は放送委員会の6年生が行い、発表は上位5人の先生だけとする。」
大まかな内容はこんな感じだ。かくして、「S台小学校先生人気ランキング」は始まった。
おおむね順調だったアンケートだが、低学年からの回収にやや手間取った。入学間もない1年生は、必ずしも3人書かなくてもよいことになった。しかし、問題だったのは子供より教師の方だった。
2年2組は、担任がこのアンケートを途中でボイコットするという行動に出た。定年近いおば様先生で、普段から何かと俺のやり方に反発する人だった。T田をのぞけば、反飛鳥派の筆頭である。
「子供が先生に対して好き嫌いで順番つけるようなアンケートには協力できません。」
このおば様、F澤先生のこの言葉にも一理ある。しかし、それならばなぜ、俺がこのアンケートについて打ち合わせで実施報告した際に突っ込まなかったのか?さらに、他の委員会では度々行われている同様の企画にこれまで反対してこなかったことも説明がつかない。それと、はっきり言ってしまえば、この人はとてもランキングで上位に入れるような人ではなかった。信念はあったようだが、それが子供達のためではなく、自己満足の域を出ないものだったため、クラスは常に冷えた空気が漂っていた。また、「私のクラスに口を出すな」という、化石タイプの教師によく見られる悪癖をそのまま抱えた人で、気の毒なくらい頑なな人でもあった。
ついでなので、このF澤先生についてもう一つ語っておこう。
職員室で、前任校の子供達を褒め称えて、S台小学校の子達をこき下ろすのはやめた方がよい。聞いていて非常に不快であった。
「S王小学校の子供達は何でもよく頑張った。S台小学校の子はダメだね。口ばっかり達者で、いざとなるとなんにも出来ない。やっぱり団地の子より田舎の子の方が扱いやすくていいねえ。」
とまあ、こんな感じの発言だ。S台小学校の子がダメってのは、あなたのクラス限定の現象でしょ?それにだ、
同じ事を学級懇談の場でも言えますかね、F澤さん?
さあて、話を戻そう。
全校から400枚ほどの用紙が回収された。山と積まれたアンケートの集計が、放送委員会の子供達の手によって進められた。この結果が出れば、俺がどの程度子供達から嫌われているかがはっきりする。
もしも俺がワースト3位以内にでもいたなら、俺はT田に頭を下げるつもりでいた。「校長の言うとおりでした。以後指導を改めます。」とね。
しかし……もし俺が上位にいたなら。T田はどんな顔をするだろうか。どちらにせよ、俺自身ちょっとどきどきしながら集計結果が出るのを待った。
ただ、作業している子供達がときどき俺の方を見て笑うのが気になった。
「何がおかしいんだ?」
「いえ、別に。」
別に、とは言うが、そのニヤニヤは怪しいこと極まりない。一体、何が起こっているのか。お笑い奈多は、時たま「グウレイト!」とかわけ分からんこと言っている。この企画、一体どんな結末を迎えるのか……。
三日後、一枚の表が完成した。もちろん、子供達の手作りだ。各クラスからどんな結果が出たかが一目でわかるものになっている。大したものだ……。こんな小学生ばかりだったなら、日本は間違いなく世界最強の国家となれるであろうに。まあそれは、こんな子供達を育てることが出来るT麻先生級の力量を全ての教師が身につければ、という条件がつくわけだが。
俺は表に目を落としながらみんなに声をかけた。
「ごくろうさん。よくやったな。いい表にまとまってるぞ。」
大仁田と奈多は、「へへへっ」と顔を見合わせている。
「でも、結果がすごいことになってるんですよ、先生!」
「だよな!でも、やっぱりって感じだよな!」
すごいこと?集計中からなんか様子は変だったが、一体何が起こったというのか。
表をつぶさに見ていく。当時俺はTTだったので、名前は表の下の方にある。校長から順に各クラスからのポイントと合計ポイントをチェックしていったのだが……。
「……なあお前たち、これは間違いないのか?」
「はいっ!2回数えましたから。」
大仁田が自信たっぷりに胸を張る。しかし、だとすると、これは本当に正確な結果ということになる。
「飛鳥先生、一番ッスよ!」
奈多が嬉しそうに言った。
ぶっちゃけた話、俺は上位に入る自信はあった。しかし、さすがにトップはまずい……。表を詳しく分析していくと、さらにいろいろなことが見えてきた。
俺のポイントは188。2位の123ポイントと大差の1位だ。これはますますまずいかもしれん。
上位には、俺の予想通りの名前が並ぶ。5年生担任のK桐先生は5位だった。さすがである。2位のS木先生は、なんと教務主任。教務主任とは、中規模以上の学校の場合、クラスを担任せずに、雑務調整に専念する「職員室組」である。教頭の隣にデスクがあると言えばわかりやすかろう。子供と直接ふれあうのは、担任が欠勤したときの補欠くらいなものである。それでいて2位は驚愕の結果だ。
むう、さすがはS木さん。彼が学級担任であったなら、間違いなく1位は彼のものであったろう。
例のF澤先生は、前年担任した学年から全く支持されていなかった。なるほど、これではアンケートに反対するのも無理からぬことだ。予想通りだが。
6年生の結果は、悲惨なものだった。1・3組の担任支持率が異常に低い。3組に至っては、転任したS井先生が担任以上のポイントとなっている。T子さんも、この結果に落ち込むのではなく、自分が至らないことを直視し、奮起してもらいたいものだ。
2組は、担任支持率が全校一だった。まさに圧倒的である。
T麻先生は全体でも3位だった。
1組の結果は、俺にとっては辛いものだった。Y田さんの12ポイントに対して俺は43ポイント。
T田よ、お前はこの結果をどう受け止めるのだ?1組、3組のこの異様な結果は、校長たるT田が生んだものである。人事責任者として、何か恥じるものはないのだろうか?
こうして、ランキングは完成した。
ゴリラ教師・飛鳥エイジ、人気ランキング一位。
T田やF澤さんが、配られた結果表を見て、ゴーヤを丸かじりでもしたかのような顔を見せた。だが、別に俺は情報操作をしたわけではない。これが、子供達自らが出した正直な結果なのだ。T田よ、いい加減バカ親にゴマを擦るのを一時停止して、子供達の心にきちんと向き合ってみてはどうだ?
しかし、T田にそんな期待をかけるのは無意味なことだった。サンタに現金をねだる方がまだ実現しそうなほどである。
それどころか、T田は恐るべき行動に出る。「そんなバカな」と思われる方が大勢いることだろう……。しかし、これは「ほんとうにあった怖い話」なのだ。あ、いやいや、こんなふうに言うとフィクションみたいだね。けど、これが本当にフィクションであったなら、どんなによかったか……。
放送前日、俺は突然校長室に呼び出された。まあ、予想はしていたがランキングの件についてだった。
「飛鳥さん、これはまずいねえ。こんなの発表したらたいへんじゃないか?」
どうせF澤あたりから突っつかれたのだろう。実にわかりやすい男だT田。
「あ、発表は上位5名だけです。下は公表しませんよ。」
「しかしねえ……。」
「学校新聞ではやってますよね。長期間児童の目に触れ続ける壁新聞で許される企画が、その場限りの学校放送ではなぜまずいんですか?」
俺の言葉は理路整然。T田に反論できようはずもなかった。こういうときのT田は、決まって最後にこう口にするのだ。
「これは校長命令です。発表しないでください。」
「ハイワカリマシタ」
子供達が懸命に作り上げた企画を、校長命令で差し止め、踏みにじる。これがT田なのだ。
こいつには義も理もない。ただ、自分の感情と都合あるのみだ。その口が、つい数週間前に「あんた嫌われてるよ!」と断言した相手が、人気NO.1だった現実など、見ないで通り過ぎることが出来るのがT田なのだ。
普段、へらへらと子供の前では笑うばかりで「君たちが一番大切なんだよ」と口にする男が、「校長命令」で子供が必死で作り上げた企画をぶち壊す。「吐き気がする」のはこちらのほうだ!これほどまで自分に忠実で、裏表のある男を俺は見たことがない。
しかし、俺が本当に辛いのはこれからだった。T田のことなんぞどうでもいい。いくらでも駄々こねさせておけばいい。
俺は、大仁田と奈多に、放送差し止めの事実を伝えなければならなかった。
「なんでですか!納得できないですよ!」
大仁田が怒る。当然だ。T田よ、貴様はこの子供達の悔しさが見えないのか?都合が悪くなると校長室に籠もる貴様には、言っても無駄なのか?
「先生も同じ気持ちさ。けどな、お前たちがこの企画をやり遂げたって事実は消えるわけじゃない。次の企画でそれは必ず生かされるから、よ。それとな二人とも。ごめんな。」
悔し涙を流してうつむく二人に、これ以上何を語れようか。
2-10 修学旅行の夜に に続く
Posted by 飛鳥エイジ at
05:30
│Comments(0)
2007年09月09日
大ボケ!小ボケ!??
え~
飛鳥エイジの語りは真実ですと何度かお断り致しておりますが
今夜のこの記事も全てありのままの真実です。
というか、地元の方々にとっては一つも笑えない日常であるのですが。
いや……なんにも知らない「よそ者」にとっては、インパクトでかすぎでしょ、アレは。

高知駅から香川高松駅に向かう列車の中。
飛鳥は殆ど死体となった体を座席に投げ出し、うつろな意識の中でこれまでの四国遍路を振り返っていた。
俺は、やり抜くことが出来た……。
マチへの想いは、俺の中で不可能を可能にしてくれる力なのだ。俺の胸に抱かれた、竹林寺文殊菩薩のお守り。マチへの、贈り物。これを手にするために、そして文殊に祈るために、俺は四国に来た。
そして、今日。
俺は竹林寺に立った。もう動けないはずの体で……。
充実感に包まれながら、未だ道が開けたわけではない己の人生を一時忘れ、俺は失いかけた意識の中でふと笑っていた。
だが、それは、なんの前触れもなくやってきた。
列車は山間地に入ったらしく、四国だというのに雪が目立ってきた。
「まるで東北の眺めだな……。」
細めた目の端で車窓を過ぎゆく白い景色を追っていた俺の耳に、車掌のアナウンスが飛び込んできた。
「え、次は、大ボケ、次は、大ボケに停まります。」
あ!?
なんだって!?今、なんて言った!?
失いかけた意識が一気に覚醒する。車掌がふざけているのか?俺をはめようとしているのか?
今、確かに、「次は、大ボケ」と聞こえたが……。
大ボケ!?いや、停まってどうする!!
ヤバイ、笑いを堪えきれない。
「ぶっ……」と吹き出しながら、まわりの乗客を見回すと……
ノーリアクション!!
なんで、あんたら!「大ボケ」だよ!何でそんなに冷静なの!?
しかし、車掌の攻撃はそれで終わりではなかった!
「大ボケを出ますと、次は小ボケに停まります。」
ぐはっ!!ダメだ、もう我慢できん!小ボケなんて日本語知らんがな!!
これはもしかして、歩き遍路を引っかけるどっきりか何かか!?
乗客は……いやこれもリアクション無しかよ!!
必死で笑いを堪える飛鳥。そんな東北人を乗せた列車が、駅に滑り込む。俺はもう夢中になって駅名表示を探した。すると、おお!あった!なんと
「大歩危」!!
マジかよ……。
で、次は車掌の言ったとおり「小歩危」でした。ワープロ変換してみて下さい。たぶん、出ますよこれ。
いやいや……アナザーワールドお四国。最後まで気を許してはいけない。
ちなみに、下の写真は飛鳥二度目の遍路で、徒歩で「大歩危」に差し掛かったときの道路標示です。
四国恐るべし。
他にも、「夜は小学校でなくなるのか!?」「忍者養成所?」「ヒイロ『戦闘レベル、ターゲット確認』」など、わけわからん記事がまだまだ書けるぜワンダー四国。
いつか、紹介します。
飛鳥エイジの語りは真実ですと何度かお断り致しておりますが
今夜のこの記事も全てありのままの真実です。
というか、地元の方々にとっては一つも笑えない日常であるのですが。
いや……なんにも知らない「よそ者」にとっては、インパクトでかすぎでしょ、アレは。
高知駅から香川高松駅に向かう列車の中。
飛鳥は殆ど死体となった体を座席に投げ出し、うつろな意識の中でこれまでの四国遍路を振り返っていた。
俺は、やり抜くことが出来た……。
マチへの想いは、俺の中で不可能を可能にしてくれる力なのだ。俺の胸に抱かれた、竹林寺文殊菩薩のお守り。マチへの、贈り物。これを手にするために、そして文殊に祈るために、俺は四国に来た。
そして、今日。
俺は竹林寺に立った。もう動けないはずの体で……。
充実感に包まれながら、未だ道が開けたわけではない己の人生を一時忘れ、俺は失いかけた意識の中でふと笑っていた。
だが、それは、なんの前触れもなくやってきた。
列車は山間地に入ったらしく、四国だというのに雪が目立ってきた。
「まるで東北の眺めだな……。」
細めた目の端で車窓を過ぎゆく白い景色を追っていた俺の耳に、車掌のアナウンスが飛び込んできた。
「え、次は、大ボケ、次は、大ボケに停まります。」
あ!?
なんだって!?今、なんて言った!?
失いかけた意識が一気に覚醒する。車掌がふざけているのか?俺をはめようとしているのか?
今、確かに、「次は、大ボケ」と聞こえたが……。
大ボケ!?いや、停まってどうする!!
ヤバイ、笑いを堪えきれない。
「ぶっ……」と吹き出しながら、まわりの乗客を見回すと……
ノーリアクション!!
なんで、あんたら!「大ボケ」だよ!何でそんなに冷静なの!?
しかし、車掌の攻撃はそれで終わりではなかった!
「大ボケを出ますと、次は小ボケに停まります。」
ぐはっ!!ダメだ、もう我慢できん!小ボケなんて日本語知らんがな!!
これはもしかして、歩き遍路を引っかけるどっきりか何かか!?
乗客は……いやこれもリアクション無しかよ!!
必死で笑いを堪える飛鳥。そんな東北人を乗せた列車が、駅に滑り込む。俺はもう夢中になって駅名表示を探した。すると、おお!あった!なんと
「大歩危」!!
マジかよ……。
で、次は車掌の言ったとおり「小歩危」でした。ワープロ変換してみて下さい。たぶん、出ますよこれ。
いやいや……アナザーワールドお四国。最後まで気を許してはいけない。
ちなみに、下の写真は飛鳥二度目の遍路で、徒歩で「大歩危」に差し掛かったときの道路標示です。
四国恐るべし。
他にも、「夜は小学校でなくなるのか!?」「忍者養成所?」「ヒイロ『戦闘レベル、ターゲット確認』」など、わけわからん記事がまだまだ書けるぜワンダー四国。
いつか、紹介します。
Posted by 飛鳥エイジ at
19:50
│Comments(0)
2007年09月09日
本編 2-8 運動会練習での事件~教師などクソだ
ついにこの話になってしまったか……。
これから語る事実は、この年のS台小学校で起こった数々の胸くそ悪くなる物語の中でも、最悪と呼べるモノだ。学校では、しばしば信じられないようなことが起こる。それがゆえにドラマのネタにされやすいのだろう。しかし、俺がこの目で見たこの出来事は、テレビの中で起こったことではない。
これからこのレポートを読む人々にお願いしたい。
感じてほしい。こんなあり得ない出来事が普通に起こる学校は、異常か正常か?
そして、こんなとんでもないことがM県R町立S台小学校で起こるということは、あなたが通っている学校で、あるいはあなたの子供が通っている学校で、既に起こっているかも知れないし、これから起こるかも知れないということを受け止めてほしい。

平成13年5月。
S台小学校大運動会の日が近づいていた。どこが「大」なのかは謎であるが、とにかくこの運動会最大の出し物は、5・6年生全員による「組体操」だ。
和太鼓の合図とともに次々と技が決まる様は、毎年観客の拍手喝采を浴びる。
今年も、その練習が始まった。
練習は、5・6年生別々に始まる。一人技、二人技までは学年ごとに練習すすめるのだ。その後、3人以上の技と全体技を二学年合同で行う。
その学年合同練習で、俺がおそれていたものが現実となってしまった。
5年生の方が、上手いのだ。
5年生の組体操責任者は、K桐先生といった。俺より2年年下の、いわゆるイケメン先生だったが、見かけ以上に教師としての力量は申し分ない方だった。常に見通しをもって子供たちを動かし、時には厳しく、時には冗談を交えた指導で子供たちの集中力を切らせない。当時、S台小学校で俺と同程度に子供たちを動かすことが出来たのは、このK桐先生くらいのものだったろう。
5年生は、割り当ての技はほぼ完成していた。それどころか、三人、四人の技まで既に組み上げている。6年生との合同練習をスムーズに開始するためとK桐先生は語ったが、なかなか出来ることではない。時数削減の折、運動会の練習時間も減少する一方だ。その中で子供たちに必要最小限のスキルを身につけさせるだけで多くの教師がいっぱいいっぱいだというのに、やはりK桐先生はただ者ではない。しかも驚いたことに、5年生達の演技には笑顔さえ見られる。それでいて、決してたるんだ様子は見せない。子供達はのびのびと、かつ望ましい成長を見せていた。
対して、1年前に全ての技を一度経験しているはずの6年生がもたついているとは一体どういう事か。予想していたこととはいえ、残念でならない。6年生にも笑顔は見られるが、笑顔で失敗しているのだ。「次は成功させてみせる!」という気概は皆無。へらへらと薄笑いを浮かべる6年1組、3組の練習風景は、片っ端から秘孔でも突いて回ってやろうかと思うほど不快なものだった。真剣さを感じるのは、T麻先生率いる2組と、普段から俺の元を訪れている子供達くらいなものだった。わずか1ヶ月足らずで、あのすばらしかった子ども達がこのザマか……。本来なら(俺やS井先生が指導に当たっていたなら、だ)今頃、K桐先生がそだてた5年生を6年生がどんどん引っ張って、例年にない組体操が期待できていたであろうに。
そして……
その練習中に、俺にとってあまりにも悲しいことが起こった。
6年生が担当する、組体操ラストの大技「Sタワー」。土台に4人、二段目に2人、そして一番上に1人が立つという三段タワーだ。クラスで一本ずつ立てるこの人間の塔が完成するとき、会場の拍手は頂点に達する。
もう何度も練習しているはずなのだが、これが2組以外はまるで立つことが出来ない。特に1組は、これまで一度も成功したことがないというのだ。
TTの俺には、フリーな時間もある。その日、俺は空き時間に6年生の練習を見に行っていた。援助ということではあったが、下手に俺が援助すれば、俺が指導の主役になってしまう。俺は、担任から助言を求められれば答えるというレベルで練習に参加したが、出番は無かった。
そんな俺は、この日も一向完成する気配のない1組のタワー練習を、黙って見つめていた。もちろん、心中は穏やかなはずはない。噛みしめた歯が時たま「キリッ」と音を立ててずれる。顎が断層地震でも起こしているかのようだ。それほど、1組の練習は正視に耐えないものだった。
崩れては組み、また崩れては組み……。同じ失敗を繰り返して全く進歩がない。
「子供達の自主性と発想を大切にするんだ」という、能なし教師の逃げ口上を思い出す。
これはもう、単なるほったらかしだ。Y田さんは、いつまで助言一つせずにあの子達を危険にさらすのか。7人のメンバーはもうぼろぼろだ。メンバーの一人であるマリカは、「みんな!がんばろうよ!次こそはできるよ!」と気丈に声をかける。だが、その目には悔し涙が浮かんでいた。
学級担任教師でさえない俺は、勝手に指導を行うわけにはいかない。何度も崩れ落ちるタワーとマリカの涙を見ながら、俺は激しいジレンマを感じていた。
その時だった、もう回数もわからないほど崩れたタワーの残骸の中から、マリカが駆けだした。そして、俺の前にやってきて叫んだ。
「先生!アドバイス下さい!」
どうする?担任のY田さんはすぐそこにいる。
だが、マリカの赤く腫れた目は、追いつめられた者の懇願の目だった。俺は……この目に応えなければならない!
「わかった、行こう。」
俺の目の端に、明らかに不快そうなY田さんの顔が映った。だが、今はそれどころではない。
俺は、一度目の前でタワーを組ませた。当然、崩落する。二段目の子が背中から床に落ちる。この子達は何度こんな思いをしたのだろう。
「お前たち、なぜこんなに崩れるか分かるか?」
俺の問いに、7人は一斉に困惑する。
「わかんない……。」
マリカが力なく答えた。しかし、このとき既に、俺の中には指導終了までのレシピができあがっていた。間近で一度見れば、十分。
「じゃあ、いつも誰のところで崩れるかは分かるか?」
「……俺です。」
二段目の男子がちょこんと手を挙げる。確かに、1組のタワーはいつもこの子から崩れていた。しかし、この子が悪くてタワーが立たないわけではない。俺はさらに子供達に問いかけた。
「じゃ、お前の下の土台は誰だ?」
「俺です。」
いかにも土台役にされそうな、体の大きな男子が答えた。やはり申し訳なさそうな顔色がうかがえる。
「うん。土台のお前が一人だけ低くなっているんだな。腰を曲げすぎているからなんだよ。その方が平らになって上の仲間が安定すると思ったんだろうけど、遠慮しないで腰をまっすぐにして立ってみろ。」
「はい。」
彼は、自分の心が言い当てられたことに驚いたようだった。だが、その目から迷いが消え始める。
「それから、4人の土台の立ち上がりがばらばらだ。『せーの』で、一斉に立ち上がってみろ。声を掛け合うんだよ。それと二段目の二人、足がずり落ちないか?」
「はい、滑ります。」
「足の位置はここだ。背中じゃなくて、しっかりと肩に足をくっつけるイメージでな。土台!ちょっと痛いかもしれんが、大した時間じゃない。我慢だ!」
「はい!」
子供達の返事に勢いが出てきた。子供達への指導は、出来る限り短く的確に、だ。そうすることによって、子供は自分のやるべき事を絞り込み、集中することが出来る。ごく当たり前のことだが。
「一番上は、立ち上がるとき以外は一切動くな。足の位置も、はじめに決めたら1ミリも動かすんじゃない。」
「はい!」
「大丈夫、必ず立てる!やってみろ!」
7人の表情が先ほどまでとは別人だ。俺は、ちょうど1年前、この子達と組体操を作り上げていた頃を思い出していた。あのとき、クラスの全員がこんな顔で練習していた。そうだ、去年お前たちは、今の5年生に負けないくらい出来ていたじゃないか!
俺は、7人の傍で太鼓の変わりに手を打ってやった。
パン!最初の合図で、土台が立ち上がる。
「せーの!」
かけ声にあわせて4人が立つ。これまでにない安定感だ。一呼吸おいて、俺は次の合図を打った。
二段目が、足の位置を変えずにゆっくりと立ち上がる。一番上が微動だにしないので、安心して立ち上がれる。これまでは、ここでふらふらと安定をなくして崩れ落ちていた。7人は、今一つの壁を越えた。
俺は、まるで自分がタワーの一員になったかのような錯覚の中、最後の合図を送った。
3段目の子がゆっくりと足を伸ばし、くいと顔を上げ、両手をまっすぐ水平に伸ばしきった。
完成だ。
ついに、1組のタワーがその姿を現した。周りの子からも拍手がわき上がる。
しかし、その瞬間俺の声が飛んだ。
「まだ喜ぶんじゃない!全員の足が地に着くまでが演技だ!」
その声に、緩みかけた7人の表情が再び引き締まる。高さのある演技は、危険と隣り合わせだ。俺は、いつ誰が崩れてもいいようにすぐ傍で演技を見守ったが、「崩れないこと」がベストなのは当然だ。タワーは、立ち上げるときより縮める時の方が崩落の危険が大きい。全員が無事地上に帰還するまで、気は抜けない。
手拍子ごとに、タワーが縮んでいく。最後の合図で、7人全員が体育館の床にそろって立った。
「Sタワー」完了だ。
「よくやった。今の呼吸、忘れるなよ。」
俺の言葉に、子供達は喜びを爆発させた。飛び跳ねたり、ガッツポーズを決めたりする。子供ってのは本当に素直なものだ。そうだ……俺は、子供達のこんな姿が見たくて「教師」をしているのだ。
「やった!立ったよ!立った!ありがと、先生。」
マリカは泣いている。クラスメートたちの拍手がBGMだ。
これがドラマだろ。教師ドラマってのは、なんであんなに深刻で薄汚いモノばかり扱うのだ?現実の学校には、教師の努力次第でこんな感動が星の数ほど散らばっているのに。このマリカの涙より感動的なモノが、作り物の中に存在してたまるかよ。
さて、俺の役目はここまでだ。でしゃばった指導者がいつまでもここにいてはいけない。後は、子供達と担任が技を完成させればいい。
俺は、こっそりと体育館を後にした。「がんばれよ」と、心の中で一言呟いて。
しかし
この物語には感動のラストなど望めなかった。
次の日の放課後。
職員室で雑務をすませた俺は、3階のクラブ教室に上がってきた。この時間、俺の教室に立ち寄ってくれる子も多かった。その日も、マリカが俺を待ってくれていたのだ。
しかし、どうも様子がおかしい。
近寄ってみると、黒板に寄り掛かったまま泣いている。俺は、イヤな胸騒ぎがした。同じ教師仲間でも、T田のようなヤツも確実に存在する。Y田さんがそこまでの冷血漢ではないと俺は信じたかった。
しかし。
「どうした……?マリカ。」
「……飛鳥先生、タワーのメンバー、変更だって。」
マリカの目から涙がこぼれた。
教師など、クソだ。
2-9 ゴリラ教師の人気ランキング(まるでブログタイトルみたい) に続く
これから語る事実は、この年のS台小学校で起こった数々の胸くそ悪くなる物語の中でも、最悪と呼べるモノだ。学校では、しばしば信じられないようなことが起こる。それがゆえにドラマのネタにされやすいのだろう。しかし、俺がこの目で見たこの出来事は、テレビの中で起こったことではない。
これからこのレポートを読む人々にお願いしたい。
感じてほしい。こんなあり得ない出来事が普通に起こる学校は、異常か正常か?
そして、こんなとんでもないことがM県R町立S台小学校で起こるということは、あなたが通っている学校で、あるいはあなたの子供が通っている学校で、既に起こっているかも知れないし、これから起こるかも知れないということを受け止めてほしい。
平成13年5月。
S台小学校大運動会の日が近づいていた。どこが「大」なのかは謎であるが、とにかくこの運動会最大の出し物は、5・6年生全員による「組体操」だ。
和太鼓の合図とともに次々と技が決まる様は、毎年観客の拍手喝采を浴びる。
今年も、その練習が始まった。
練習は、5・6年生別々に始まる。一人技、二人技までは学年ごとに練習すすめるのだ。その後、3人以上の技と全体技を二学年合同で行う。
その学年合同練習で、俺がおそれていたものが現実となってしまった。
5年生の方が、上手いのだ。
5年生の組体操責任者は、K桐先生といった。俺より2年年下の、いわゆるイケメン先生だったが、見かけ以上に教師としての力量は申し分ない方だった。常に見通しをもって子供たちを動かし、時には厳しく、時には冗談を交えた指導で子供たちの集中力を切らせない。当時、S台小学校で俺と同程度に子供たちを動かすことが出来たのは、このK桐先生くらいのものだったろう。
5年生は、割り当ての技はほぼ完成していた。それどころか、三人、四人の技まで既に組み上げている。6年生との合同練習をスムーズに開始するためとK桐先生は語ったが、なかなか出来ることではない。時数削減の折、運動会の練習時間も減少する一方だ。その中で子供たちに必要最小限のスキルを身につけさせるだけで多くの教師がいっぱいいっぱいだというのに、やはりK桐先生はただ者ではない。しかも驚いたことに、5年生達の演技には笑顔さえ見られる。それでいて、決してたるんだ様子は見せない。子供達はのびのびと、かつ望ましい成長を見せていた。
対して、1年前に全ての技を一度経験しているはずの6年生がもたついているとは一体どういう事か。予想していたこととはいえ、残念でならない。6年生にも笑顔は見られるが、笑顔で失敗しているのだ。「次は成功させてみせる!」という気概は皆無。へらへらと薄笑いを浮かべる6年1組、3組の練習風景は、片っ端から秘孔でも突いて回ってやろうかと思うほど不快なものだった。真剣さを感じるのは、T麻先生率いる2組と、普段から俺の元を訪れている子供達くらいなものだった。わずか1ヶ月足らずで、あのすばらしかった子ども達がこのザマか……。本来なら(俺やS井先生が指導に当たっていたなら、だ)今頃、K桐先生がそだてた5年生を6年生がどんどん引っ張って、例年にない組体操が期待できていたであろうに。
そして……
その練習中に、俺にとってあまりにも悲しいことが起こった。
6年生が担当する、組体操ラストの大技「Sタワー」。土台に4人、二段目に2人、そして一番上に1人が立つという三段タワーだ。クラスで一本ずつ立てるこの人間の塔が完成するとき、会場の拍手は頂点に達する。
もう何度も練習しているはずなのだが、これが2組以外はまるで立つことが出来ない。特に1組は、これまで一度も成功したことがないというのだ。
TTの俺には、フリーな時間もある。その日、俺は空き時間に6年生の練習を見に行っていた。援助ということではあったが、下手に俺が援助すれば、俺が指導の主役になってしまう。俺は、担任から助言を求められれば答えるというレベルで練習に参加したが、出番は無かった。
そんな俺は、この日も一向完成する気配のない1組のタワー練習を、黙って見つめていた。もちろん、心中は穏やかなはずはない。噛みしめた歯が時たま「キリッ」と音を立ててずれる。顎が断層地震でも起こしているかのようだ。それほど、1組の練習は正視に耐えないものだった。
崩れては組み、また崩れては組み……。同じ失敗を繰り返して全く進歩がない。
「子供達の自主性と発想を大切にするんだ」という、能なし教師の逃げ口上を思い出す。
これはもう、単なるほったらかしだ。Y田さんは、いつまで助言一つせずにあの子達を危険にさらすのか。7人のメンバーはもうぼろぼろだ。メンバーの一人であるマリカは、「みんな!がんばろうよ!次こそはできるよ!」と気丈に声をかける。だが、その目には悔し涙が浮かんでいた。
学級担任教師でさえない俺は、勝手に指導を行うわけにはいかない。何度も崩れ落ちるタワーとマリカの涙を見ながら、俺は激しいジレンマを感じていた。
その時だった、もう回数もわからないほど崩れたタワーの残骸の中から、マリカが駆けだした。そして、俺の前にやってきて叫んだ。
「先生!アドバイス下さい!」
どうする?担任のY田さんはすぐそこにいる。
だが、マリカの赤く腫れた目は、追いつめられた者の懇願の目だった。俺は……この目に応えなければならない!
「わかった、行こう。」
俺の目の端に、明らかに不快そうなY田さんの顔が映った。だが、今はそれどころではない。
俺は、一度目の前でタワーを組ませた。当然、崩落する。二段目の子が背中から床に落ちる。この子達は何度こんな思いをしたのだろう。
「お前たち、なぜこんなに崩れるか分かるか?」
俺の問いに、7人は一斉に困惑する。
「わかんない……。」
マリカが力なく答えた。しかし、このとき既に、俺の中には指導終了までのレシピができあがっていた。間近で一度見れば、十分。
「じゃあ、いつも誰のところで崩れるかは分かるか?」
「……俺です。」
二段目の男子がちょこんと手を挙げる。確かに、1組のタワーはいつもこの子から崩れていた。しかし、この子が悪くてタワーが立たないわけではない。俺はさらに子供達に問いかけた。
「じゃ、お前の下の土台は誰だ?」
「俺です。」
いかにも土台役にされそうな、体の大きな男子が答えた。やはり申し訳なさそうな顔色がうかがえる。
「うん。土台のお前が一人だけ低くなっているんだな。腰を曲げすぎているからなんだよ。その方が平らになって上の仲間が安定すると思ったんだろうけど、遠慮しないで腰をまっすぐにして立ってみろ。」
「はい。」
彼は、自分の心が言い当てられたことに驚いたようだった。だが、その目から迷いが消え始める。
「それから、4人の土台の立ち上がりがばらばらだ。『せーの』で、一斉に立ち上がってみろ。声を掛け合うんだよ。それと二段目の二人、足がずり落ちないか?」
「はい、滑ります。」
「足の位置はここだ。背中じゃなくて、しっかりと肩に足をくっつけるイメージでな。土台!ちょっと痛いかもしれんが、大した時間じゃない。我慢だ!」
「はい!」
子供達の返事に勢いが出てきた。子供達への指導は、出来る限り短く的確に、だ。そうすることによって、子供は自分のやるべき事を絞り込み、集中することが出来る。ごく当たり前のことだが。
「一番上は、立ち上がるとき以外は一切動くな。足の位置も、はじめに決めたら1ミリも動かすんじゃない。」
「はい!」
「大丈夫、必ず立てる!やってみろ!」
7人の表情が先ほどまでとは別人だ。俺は、ちょうど1年前、この子達と組体操を作り上げていた頃を思い出していた。あのとき、クラスの全員がこんな顔で練習していた。そうだ、去年お前たちは、今の5年生に負けないくらい出来ていたじゃないか!
俺は、7人の傍で太鼓の変わりに手を打ってやった。
パン!最初の合図で、土台が立ち上がる。
「せーの!」
かけ声にあわせて4人が立つ。これまでにない安定感だ。一呼吸おいて、俺は次の合図を打った。
二段目が、足の位置を変えずにゆっくりと立ち上がる。一番上が微動だにしないので、安心して立ち上がれる。これまでは、ここでふらふらと安定をなくして崩れ落ちていた。7人は、今一つの壁を越えた。
俺は、まるで自分がタワーの一員になったかのような錯覚の中、最後の合図を送った。
3段目の子がゆっくりと足を伸ばし、くいと顔を上げ、両手をまっすぐ水平に伸ばしきった。
完成だ。
ついに、1組のタワーがその姿を現した。周りの子からも拍手がわき上がる。
しかし、その瞬間俺の声が飛んだ。
「まだ喜ぶんじゃない!全員の足が地に着くまでが演技だ!」
その声に、緩みかけた7人の表情が再び引き締まる。高さのある演技は、危険と隣り合わせだ。俺は、いつ誰が崩れてもいいようにすぐ傍で演技を見守ったが、「崩れないこと」がベストなのは当然だ。タワーは、立ち上げるときより縮める時の方が崩落の危険が大きい。全員が無事地上に帰還するまで、気は抜けない。
手拍子ごとに、タワーが縮んでいく。最後の合図で、7人全員が体育館の床にそろって立った。
「Sタワー」完了だ。
「よくやった。今の呼吸、忘れるなよ。」
俺の言葉に、子供達は喜びを爆発させた。飛び跳ねたり、ガッツポーズを決めたりする。子供ってのは本当に素直なものだ。そうだ……俺は、子供達のこんな姿が見たくて「教師」をしているのだ。
「やった!立ったよ!立った!ありがと、先生。」
マリカは泣いている。クラスメートたちの拍手がBGMだ。
これがドラマだろ。教師ドラマってのは、なんであんなに深刻で薄汚いモノばかり扱うのだ?現実の学校には、教師の努力次第でこんな感動が星の数ほど散らばっているのに。このマリカの涙より感動的なモノが、作り物の中に存在してたまるかよ。
さて、俺の役目はここまでだ。でしゃばった指導者がいつまでもここにいてはいけない。後は、子供達と担任が技を完成させればいい。
俺は、こっそりと体育館を後にした。「がんばれよ」と、心の中で一言呟いて。
しかし
この物語には感動のラストなど望めなかった。
次の日の放課後。
職員室で雑務をすませた俺は、3階のクラブ教室に上がってきた。この時間、俺の教室に立ち寄ってくれる子も多かった。その日も、マリカが俺を待ってくれていたのだ。
しかし、どうも様子がおかしい。
近寄ってみると、黒板に寄り掛かったまま泣いている。俺は、イヤな胸騒ぎがした。同じ教師仲間でも、T田のようなヤツも確実に存在する。Y田さんがそこまでの冷血漢ではないと俺は信じたかった。
しかし。
「どうした……?マリカ。」
「……飛鳥先生、タワーのメンバー、変更だって。」
マリカの目から涙がこぼれた。
教師など、クソだ。
2-9 ゴリラ教師の人気ランキング(まるでブログタイトルみたい) に続く
Posted by 飛鳥エイジ at
13:56
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2007年09月08日
本編 2-7 最後の1年間~3人の少女達
TTの俺に持ち教室はない。だが、イラストクラブを担当する俺は、3階の一部屋を活動場所として確保した。俺の普段の居場所はその教室となっていた。
そんなはぐれ者の俺のもとには、日々たくさんの子供たちがやってきてくれていた。そして、その中に6年1組の3人の女子がいた。
若本アイナ、茂木マリカ、相田ユナの3人だ。
この子たちは、5年1組時代から何事にも意欲的に取り組み、クラスの牽引車として活躍していた。その3人は、6年生になった今も俺のところに何かとアドバイスを求めてやってくるのだった。
アイナは3人の中で一番背が小さいが、声の大きな元気印の子だ。以前、俺のびっくり誕生パーティーの話で登場した若本マイは、アイナの姉である。マリカは背の高い子で、3人の中でもリーダー格の子だ。少林寺拳法では全国入賞するほどの腕前で、新聞にも載ったことがある。ユナはおとなしめの子で、絵の上手な芸術家肌の少女だ。
この3人は、早くから俺が担任を外れることを知っていた。もちろん、その詳しい事情もだ。自閉症が疑われる2組の女子Cは、校内では知らない者はいないほどの有名人だ。日々Cの様子を目の当たりにしている3人は、俺の話が真実であることを信じてくれたし、T田という校長の汚さも知っていた。
この3人が俺の元に来てくれることはある程度予想してはいたが、もう一つの予想も的中しつつあることが俺にとっては何より辛いことだった。
「クラスが大変なんです。飛鳥先生、どうしたらいいかな?」
4月中旬、早くもマリカの口からこんな言葉が飛び出した。思っていたより早い。だが、この段階で俺が直接的に関わるのはまずい。というのは、4月は担任がクラスを作っていく土台作りの時期だからだ。その時期に俺があれこれ口を挟めば、担任が目指す学級経営に支障を来す可能性もある。俺が逆の立場だったら、やはりこの時期は「任せてほしい」と思うだろう。それゆえ、俺は3人にこう答えていた。
「それは、担任に相談するべき事だろう?」
しかし、同じやりとりが何度かあったあと、マリカがもうたまらないという表情で声を荒げた。
「YTに言ってもしかたないんだもん!!」
YTとは、Y田Teacherの略だ。ユナやアイナもそれに続く。
「そうだよ!だって、うるさい男子と一緒になって騒いでるしさ!」
「あたしたちがちょっと何かに遅れると、『おせーぞー』ってうるさいし!」
「自分は時間通りに教室に来た事なんてないくせにさぁ。」
それは、確かにそうだろう。Y田さんはチャイムがなってからタバコを消し、デスクでコーヒーを飲み干してから6年1組に向かう。時間通りに授業が始まるはずはない。
ちょいと話がそれる。
俺は、チャイムで始まり、チャイムで終わる授業を信条として貫いていた。年度の初めに、俺は子供たちにこう語りかける。
「先生はチャイムと同時に授業を始めるので、必ず準備をして待つように。そして、チャイムで授業は終わる。だからみんなは45分間、きちんと勉強に集中してくれ。先生の責任で開始が遅れたりしても、休み時間は授業に使ったりしない。ただし、君たちが寝ぼけ半分で授業を受けているようなときには、休み時間などないものと覚悟しろ。君たちが真剣に授業に参加したなら、休み時間も100%君たちのものだ。」
これだけで、不思議と子供たちの集中力は高まる。さらに、俺は実際には1,2分ほど早めに授業を終える。これを繰り返していくと、授業終盤に時計をチラ見する子はまずいなくなる。「これをクリアすれば授業が終わる!」という山場を作るわけだ。
もちろん、それを実行するには教師として相当の能力が必要なのは言うまでもない。つーか、時間通りに開始&終了すること自体どれほど困難なことか、教師ならより深く理解できるはずだ。だが、それを毎時間貫いたとき、授業終盤の子供たちの集中力は飛躍的に高まる。
だらだらと休み時間を削って時間ばかりかけても、子供たちは不満を募らすだけで授業なんて聞いちゃいない。
Y田さん、T子さんの授業は、子供の不満を引き出す典型授業だった。実際、時間を守れる教師は圧倒的に少数派だ。学力低下の原因がいろいろ言われているが、俺はこの
「時間」に対する真剣味の無さ
が公立学校最悪のたるみであると考えている。
Y田さんは、特上級に時間にルーズだった。
自然、子供たちもどんどん時間を守らなくなっていく。そして、これは子供も大人も同じであろうが、人間というモノはより楽で緊張感のない状態ほど容易に受け入れ、あっというまに適応していく。6年1組が、新年度開始わずか2週間ほどで、マリカたちが大きな不安を感じるほどにたるんでしまったのもそのためだ。緊張感を失った子供たちは、当然授業への集中力も維持できなくなってしまった。そうなれば、なおさら授業の密度は薄くなり、余計な時間を必要とすることになる。すると授業はまた休み時間に食い込む。子供たちはさらに集中力を失う。
最悪循環である。
このド壺にはまって崩壊していった学級を俺は数多く目にしてきた。今年の6年1組は、このまま崩壊に向かってダッシュしていくのか?
マリカたちは、その状況がどれほど深刻か、敏感に感じ取ったのだろう。そして、もう黙っていられないと俺の元に訴えに来たのだ。
しかし、今の俺は算数TTだ。十分な力になってやることはできない。それどころか、その後まもなくして6年1組で、とんでもないことが起こる。
アイナ、ユナ、マリカの3人が、クラスの現状について学級会で話し合いたいと担任のY田さんに申し入れたときのことだった。Y田さんは、その細い目で3人をにらみながら、信じられない言葉を発した。
「お前たちは余計なことは考えなくていいんだ!そういうことは教師が考えることだろうが!だいたい、お前たちは誰に言われてそんなことやってんだ?」
3人は、Y田さんに叱責された。クラスのたるみが気になると担任に相談するなど、よほど勇気が必要であったろうに。どう考えてみても、マリカたちに叱責されるような落ち度は無い。賞賛されることはあっても、だ。
『誰に』とは、俺を指しているのだろう。俺が3人に入れ知恵して、クラスに不満をもたせていると疑っているのだ。
俺は、悲しかった。
3人の純な想いは、この先も担任に届くことはないだろう。
一方、3組は順調に崩壊していた。
3組も、女子の中心メンバーがやはり俺の助言を求めてきていて、なんとか授業は成立していたが、もう男子の一部は手がつけられない状態だという。クラス独自の行事や活動も、中学年ならともかく、6年生が充実感を得られるようなものではなくなっていた。
教師の力量とは、子供たちの心をいかにして真の充実感で満たすかによって測られる。
T子さんは、明らかに力不足だった。
2-8 運動会で~教師など、クソだ に続く
次回の本編は、最悪です。教師が特定の児童生徒をいじめることもしばしばあるようですが、コレはその中でも最低の部類に入るものに違いありません。今でも、私はこのとき起こったことが信じられないのです。
ですが、それは紛れもない事実。そして、これからS台小学校の一年間に起こる出来事も、残念ながら事実なのです。
いよいよ、飛鳥とS台小学校の崩壊の一年が始まります。
月でフルバーニアンに換装したガンダムGP01。そのガンダムと戦ったモビルアーマー、ヴァル・ヴァロのパイロット、ケリィ・レズナー。
彼の最後のやりとり
「コウ・ウラキ!聞こえるか!?俺は後悔してないぞ!」
「ケリィさん、脱出装置を!」
「へっ……そんなものぁ積み込んじゃいないぜ。」
俺のこの戦いも「後悔」なし、「脱出装置」なしです。
そんなはぐれ者の俺のもとには、日々たくさんの子供たちがやってきてくれていた。そして、その中に6年1組の3人の女子がいた。
若本アイナ、茂木マリカ、相田ユナの3人だ。
この子たちは、5年1組時代から何事にも意欲的に取り組み、クラスの牽引車として活躍していた。その3人は、6年生になった今も俺のところに何かとアドバイスを求めてやってくるのだった。
アイナは3人の中で一番背が小さいが、声の大きな元気印の子だ。以前、俺のびっくり誕生パーティーの話で登場した若本マイは、アイナの姉である。マリカは背の高い子で、3人の中でもリーダー格の子だ。少林寺拳法では全国入賞するほどの腕前で、新聞にも載ったことがある。ユナはおとなしめの子で、絵の上手な芸術家肌の少女だ。
この3人は、早くから俺が担任を外れることを知っていた。もちろん、その詳しい事情もだ。自閉症が疑われる2組の女子Cは、校内では知らない者はいないほどの有名人だ。日々Cの様子を目の当たりにしている3人は、俺の話が真実であることを信じてくれたし、T田という校長の汚さも知っていた。
この3人が俺の元に来てくれることはある程度予想してはいたが、もう一つの予想も的中しつつあることが俺にとっては何より辛いことだった。
「クラスが大変なんです。飛鳥先生、どうしたらいいかな?」
4月中旬、早くもマリカの口からこんな言葉が飛び出した。思っていたより早い。だが、この段階で俺が直接的に関わるのはまずい。というのは、4月は担任がクラスを作っていく土台作りの時期だからだ。その時期に俺があれこれ口を挟めば、担任が目指す学級経営に支障を来す可能性もある。俺が逆の立場だったら、やはりこの時期は「任せてほしい」と思うだろう。それゆえ、俺は3人にこう答えていた。
「それは、担任に相談するべき事だろう?」
しかし、同じやりとりが何度かあったあと、マリカがもうたまらないという表情で声を荒げた。
「YTに言ってもしかたないんだもん!!」
YTとは、Y田Teacherの略だ。ユナやアイナもそれに続く。
「そうだよ!だって、うるさい男子と一緒になって騒いでるしさ!」
「あたしたちがちょっと何かに遅れると、『おせーぞー』ってうるさいし!」
「自分は時間通りに教室に来た事なんてないくせにさぁ。」
それは、確かにそうだろう。Y田さんはチャイムがなってからタバコを消し、デスクでコーヒーを飲み干してから6年1組に向かう。時間通りに授業が始まるはずはない。
ちょいと話がそれる。
俺は、チャイムで始まり、チャイムで終わる授業を信条として貫いていた。年度の初めに、俺は子供たちにこう語りかける。
「先生はチャイムと同時に授業を始めるので、必ず準備をして待つように。そして、チャイムで授業は終わる。だからみんなは45分間、きちんと勉強に集中してくれ。先生の責任で開始が遅れたりしても、休み時間は授業に使ったりしない。ただし、君たちが寝ぼけ半分で授業を受けているようなときには、休み時間などないものと覚悟しろ。君たちが真剣に授業に参加したなら、休み時間も100%君たちのものだ。」
これだけで、不思議と子供たちの集中力は高まる。さらに、俺は実際には1,2分ほど早めに授業を終える。これを繰り返していくと、授業終盤に時計をチラ見する子はまずいなくなる。「これをクリアすれば授業が終わる!」という山場を作るわけだ。
もちろん、それを実行するには教師として相当の能力が必要なのは言うまでもない。つーか、時間通りに開始&終了すること自体どれほど困難なことか、教師ならより深く理解できるはずだ。だが、それを毎時間貫いたとき、授業終盤の子供たちの集中力は飛躍的に高まる。
だらだらと休み時間を削って時間ばかりかけても、子供たちは不満を募らすだけで授業なんて聞いちゃいない。
Y田さん、T子さんの授業は、子供の不満を引き出す典型授業だった。実際、時間を守れる教師は圧倒的に少数派だ。学力低下の原因がいろいろ言われているが、俺はこの
「時間」に対する真剣味の無さ
が公立学校最悪のたるみであると考えている。
Y田さんは、特上級に時間にルーズだった。
自然、子供たちもどんどん時間を守らなくなっていく。そして、これは子供も大人も同じであろうが、人間というモノはより楽で緊張感のない状態ほど容易に受け入れ、あっというまに適応していく。6年1組が、新年度開始わずか2週間ほどで、マリカたちが大きな不安を感じるほどにたるんでしまったのもそのためだ。緊張感を失った子供たちは、当然授業への集中力も維持できなくなってしまった。そうなれば、なおさら授業の密度は薄くなり、余計な時間を必要とすることになる。すると授業はまた休み時間に食い込む。子供たちはさらに集中力を失う。
最悪循環である。
このド壺にはまって崩壊していった学級を俺は数多く目にしてきた。今年の6年1組は、このまま崩壊に向かってダッシュしていくのか?
マリカたちは、その状況がどれほど深刻か、敏感に感じ取ったのだろう。そして、もう黙っていられないと俺の元に訴えに来たのだ。
しかし、今の俺は算数TTだ。十分な力になってやることはできない。それどころか、その後まもなくして6年1組で、とんでもないことが起こる。
アイナ、ユナ、マリカの3人が、クラスの現状について学級会で話し合いたいと担任のY田さんに申し入れたときのことだった。Y田さんは、その細い目で3人をにらみながら、信じられない言葉を発した。
「お前たちは余計なことは考えなくていいんだ!そういうことは教師が考えることだろうが!だいたい、お前たちは誰に言われてそんなことやってんだ?」
3人は、Y田さんに叱責された。クラスのたるみが気になると担任に相談するなど、よほど勇気が必要であったろうに。どう考えてみても、マリカたちに叱責されるような落ち度は無い。賞賛されることはあっても、だ。
『誰に』とは、俺を指しているのだろう。俺が3人に入れ知恵して、クラスに不満をもたせていると疑っているのだ。
俺は、悲しかった。
3人の純な想いは、この先も担任に届くことはないだろう。
一方、3組は順調に崩壊していた。
3組も、女子の中心メンバーがやはり俺の助言を求めてきていて、なんとか授業は成立していたが、もう男子の一部は手がつけられない状態だという。クラス独自の行事や活動も、中学年ならともかく、6年生が充実感を得られるようなものではなくなっていた。
教師の力量とは、子供たちの心をいかにして真の充実感で満たすかによって測られる。
T子さんは、明らかに力不足だった。
2-8 運動会で~教師など、クソだ に続く
次回の本編は、最悪です。教師が特定の児童生徒をいじめることもしばしばあるようですが、コレはその中でも最低の部類に入るものに違いありません。今でも、私はこのとき起こったことが信じられないのです。
ですが、それは紛れもない事実。そして、これからS台小学校の一年間に起こる出来事も、残念ながら事実なのです。
いよいよ、飛鳥とS台小学校の崩壊の一年が始まります。
月でフルバーニアンに換装したガンダムGP01。そのガンダムと戦ったモビルアーマー、ヴァル・ヴァロのパイロット、ケリィ・レズナー。
彼の最後のやりとり
「コウ・ウラキ!聞こえるか!?俺は後悔してないぞ!」
「ケリィさん、脱出装置を!」
「へっ……そんなものぁ積み込んじゃいないぜ。」
俺のこの戦いも「後悔」なし、「脱出装置」なしです。
2007年09月08日
###の女性無料!!
四国遍路の最中、室戸岬から高知へ海沿いの道を歩きながらふと顔を上げると、なんやとんでもねー看板が!!
「食べ放題1000円」も衝撃的に安いけど、その下!
「猪豚汁つき」
イノシシ付きかっ!?いやさすがイノシシ牧場がフツーに番寺門前に存在する所だけはある……。
と思ったら、オイ!!さらにその下ぁ!!
「100㎏以上の女性無料」
って、これ失礼でしょ!!いや、これ……自己申告する女性とかいるんでしょうか?
お四国は異世界と聞いてはいたが…………
へんろしてると、こんな変なものがたくさんみつかります。いえ、他にもあるんでいずれ紹介しますね。
しかし、100㎏以上……バウものだコレ。
Posted by 飛鳥エイジ at
13:34
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