中高年に多い糖尿病だが、食生活などとは関係なく発症する1型糖尿病に苦しむ子どもや若者がいる。数が少ないため社会の理解が十分でなく、差別を感じることもあるという。現状と課題を広く伝えようと日本糖尿病協会は製薬会社と共同で、1型糖尿病の実態調査を実施。五月の結果報告会には三人の患者も出席し、不安や要望を話した。 (栃尾敏)
生活習慣が引き金となる2型糖尿病は「メタボリック症候群」の言葉とともに関心が高いが、1型糖尿病はあまり知られない。
清野裕・日本糖尿病協会理事長は「小児思春期糖尿病は数が少なくあまり注目されない」と指摘。「国の支援策充実に向けて実態をつかむことにした」と調査目的を話す。
調査は十八歳未満の患者の保護者二百六十八人と、十八−二十五歳の患者二百四十七人が対象。昨年六−九月に実施した。
保護者のうち、スポーツや遠足など学校活動への参加ができなかったり拒まれたりした経験がある人が二割強いた。「学校の成績や生活に影響を与えている」は五割を超える。
学校で糖尿病の手助けが必要になるのは低血糖で震えや目まいが出たり昏睡(こんすい)に陥ったりするときだが、八割の親が担任や養護教諭に頼ることができると回答。経済的負担は八割が感じている。
日本糖尿病協会が毎年開く小児糖尿病サマーキャンプに四回以上参加した家庭は七割を超した。インスリン注射しながら学校生活を送る子ども同士が交流し、正しい知識を身に付けるのが目的で、八割の親が「効果があった」と評価する。
患者のアンケートでは、学校活動に参加できなかった経験や糖尿病で差別感や友人関係に制限を感じたことがある人は四割。就職時に採用拒否されたことがある人は四割で、うち六割強は糖尿病が理由と答えている。
学校での差別について、地方公務員の男性(35)=病歴二十八年=は、低血糖を解消するため、あめや砂糖などをいつも持ち、授業中に食べることもあるため「差別対象になった」。男子大学生(20)=病歴二十年=も「小学校で給食前のインスリン注射を教室で打つのがいやで保健室でやっていたら『あいつはいつも給食前に消える』とうわさされた」と苦い思い出を話す。
今春高校を卒業、音楽活動をする女性(18)=病歴八年=は「中学で陸上部に入ろうとして顧問の先生に『倒れられたら困る』と言われた」。それでも三年間陸上を続けた。「病気だからできないと最初から決めつけないでほしい」と訴える。
将来への不安については三人から「保険に入るのが難しい」「就職での病気の扱い」「月一回の通院で一万五千円以上かかる」といった切実な声が聞かれた。
調査を担当した武田倬・鳥取県立中央病院院長は「先生や友達が正しい知識を持ってほしい、との願いがアンケートから読み取れる。経済的負担は大きく、就職までは何とか医療費で支援できないか国に考えてもらいたい」と話す。
内潟安子・東京女子医科大糖尿病センター教授も「1型を、肥満やメタボの2型と混同せず、インスリン注射の必要があることを社会が受け止めてほしい」と要望する。
<1型糖尿病> 細菌やウイルスから体を守る免疫機能が自分の正常な細胞や組織に働いてしまう自己免疫疾患。膵臓(すいぞう)の中のインスリンを分泌するβ細胞が自分自身の免疫で破壊されて発症するとされるが、はっきりした原因は不明。小児思春期(0−20歳)の発症が多い。肥満などが引き金となる2型糖尿病とは原因が異なる。治療にインスリン注射が欠かせない。厚生労働省の推計では、2型糖尿病患者と予備軍の総数は約1870万人(2006年)だが、1型の患者は約5000人。
<記者のつぶやき> いざ就職しようとすると門前払い−のケースもあるそうだ。就職時に健康診断結果を企業が入手するので、聞かれなくても相手は知っている。そういうとき、小さいころから自己管理してきたことをアピールするよう内潟教授はアドバイスする。
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