
誰もがもつ不安や孤独
何者でもない自分の時間、を撮る | |  |
個性派女優として確固たる存在感を放ち、妻・母としてもパワフルで魅力的な松田美由紀さん。最近では、「松田優作全集」のアートディレクションや、映画『世界はときどき美しい』に製作段階から関わるなど、クリエーターとしての一面も見せてくれる。そんな松田さんが、今度は、写真家として初の写真集『私の好きな孤独』を上梓。注目の新人女優・片山瞳さんを2年間かけて撮りおろしたという作品だ。
「まず、片山瞳ちゃんという女の子が私のタイプだったの(笑)。すごく身体が美しくて、穏やかな人。なのに、薄いベールで包み込まれているような独特の空気を持っていて、自分の内面を外に表さないような人だったんです。それが私の“シャヨク(写欲)”を掻きたてた。彼女の、普段は見せない一面を覗きたいって思ったの」
女性が女性を撮る。女性と女性の間に生まれる濃密な時間。時おりゾクッとするほどの表情に、見てはいけないものを“覗いて”しまったような気にさせられる。これが、彼女の孤独なのか。見ているうちに自分の内に潜む不安や孤独に気付かされるような気もしてくる。
「写真集の中で彼女が笑ってる写真は一枚もない。だって、ひとりでいるときって笑わないでしょう。人間には、そういう“何者でもない時間”がある。すごく辛くもないし、すごく幸せでもない。なんにも劇的なことが起こらない時間。そういうのを撮ろうと思ったんです」
もともと「こう撮って」と言われて撮るのは好きじゃない、と松田さんは言う。自分にしか見つけられない表情や瞬間を探す。被写体の人からは、自分はこんな顔をすることがあるんだ、と驚かれることが多いと言う。
「そういう勘って、私がずっと女優で、撮られる側にいたから働くのかもね。撮る側と撮られる側、両面が分かるから。女優のときは自分の肉体を使って表現していたけど、写真を撮るとなると、今度はカメラという技術を使う。手段は違うけど、最終的に目指すところは同じなんです。ずっと私は、なにか精神的なものを伝えたいって思っていたの。それは言葉にするとしたら、おそらく“愛”。愛って人間にとっていちばん大事なことだと思うから」
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周りの意見に左右されちゃダメ
なりたい自分は自分で決めるもの |
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松田さんはご存知の通り、3人の子育てを経験している。そのうち2人は俳優として活躍、1人は海外留学中と、それぞれの道を歩んでいる。「みんな自由でクリエイティブ。お互いを尊重しあう家族」と言うが、もちろん松田さんの生き方そのものが、子どもたちにいい影響を与えてきたのだろうと察する。
「自分のモラルは自分で決めなさい、ってことは言ってきましたね。社会がどう言うとか学校や友だちがどう言ってるかとか、そんなことはどうでもいいんですよ。要は自分がどうしたいかってこと。それと、どんなことも楽しむってことが大事だと私は思ってるから、子どもたちが遊びに行くときも『とにかく楽しんでおいで』としか言わなかった。何時に帰っておいでとか、あれはダメとかこうしちゃいけないとかは言わないの。そうすると自分で考えるようになる。自分にとって何が楽しいのかって。楽しいことをとことん全うすると、自分の中で基準とかモラルができて、自分のレベルがひとつ上がると思うんです」
自分を作る。なりたい自分は、自分が決める。それが松田さんの生き方を表すキーワードのようだ。最後に、20〜30代の女性に松田さんはエールを送ってくれた。
「若い頃は、社会とか周囲のモラルに縛られちゃうのよね、どうしても。私もそうだった。女優しかやれないって思ってたし。でも年を重ねてくると、そういう束縛からだんだん解放されて、新たな自分の可能性に気付いたりするものなの。それで世界がまたぐんと広がったり。そのためにも、20代30代のうちに、自分がどうありたいかってことをよく考えて、自分に自信が持てるようになることが大事。若いうちは、人から、特に異性からどう見られてるかとか、モテたいとかそんなことが気になるものだけど、まずは自分。自分をしっかり持っていれば、おカネと異性はあとから付いてくるんだから! 」
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text / Shibata Mari
photos / Hirano Tetsuro
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写真集『私の好きな孤独』
恵まれた肢体と独特な存在感で注目を集める新人女優・片山瞳を、松田美由紀が2年間密着し撮影。不安や寂しさと向き合って生きてゆく、女性の強さと美しさに迫った、松田美由紀の写真家としてのデビュー作。
3,200円、発売元 リトルモア
●詳しくはコチラ |
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