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2008年7月8日

 白壁が美しい姫路城を訪れたとき、地元の年配者が教えてくれた。「子どものころは、カラス城と悪口を言ったものだ」

薄汚れたカラスが美しい白サギに生まれ変わったのは、8年がかりの昭和の大修理があったから。国宝、世界遺産の姫路城にして、地元の人たちが深い愛着を寄せるようになったのは、つい先ごろのことだった。腹の足しにはならない文化財に、関心を寄せるのはなかなか難しい

事前の厳しい予想が的中し、岩手「平泉の文化遺産」の世界遺産登録が見送りになった。日本人が大好きな源義経や松尾芭蕉ゆかりの土地も、外国人の食指を動かすにはいたらなかった。いや、「浄土思想を基調とする文化的景観」と言われると、われわれも何のことやら首をかしげる

岩手に住む作家・高橋克彦さんの感想が興味深い。「自分たちが価値を理解できないままで、世界に伝わるとは思えない」。敗因は、登録を巡る下工作や準備などのまずさ以上に、住む人々の「ふるさと不足」と断じて明快である

同じ志を持つわれわれに、肝心要のことは何かを教えてくれる平泉の例である。


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