シリーズ追跡 風力発電 四国の現状
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 風車のある風景が増えている。風の力を利用し、電気を生む風力発電。地球温暖化が国際問題となる中、二酸化炭素を出さず、枯渇することもない自然エネルギーを活用したシステムとして、世界で普及が進んでいる。現在、世界の風力発電の総設備容量は一億キロワット。これは百万キロワット級の原子力発電所百基分に相当するというから驚きだ。香川ではお目にかかることはないが、実は四国内でもここ数年で風車が急増。私たちは、知らない間に風力が生み出した電気を使っているという。風力発電の現状と課題を探るため、四国の最西端、愛媛県の佐田岬半島に向かった。

風車5年で約12倍の87基

発電量は全体の1%弱 補完電源の域出ず

ミレーの「落ち穂拾い」のように、畑で麦の穂を拾う猿たち。近くを車が通ってもお構いなしだ=さぬき市大川町南川と同市寒川町の境界付近
巨大なモニュメント 山間に10基を超える風車が等間隔で次々と立ち並ぶ。その光景はまるで巨大なモニュメントのようで、写真に収める観光客らも少なくない。雨模様のこの日、風車たちは時折、靄に包まれながら吹き渡る風を切り続けていた=愛媛県佐田岬半島【図表】四国の風力発電所

 白く、巨大な風車が尾根伝いに並ぶ。瀬戸内海に突き出た愛媛県伊方町。四国で唯一の原子力発電所があるこの地は、屈指の風力発電スポットでもある。展望台もあり、間近で風車の大きさが体感できる。高さ約六十メートル。三枚の羽根はかなりシャープだが、その長さは三十メートルもある。遠目にはゆっくりに見えた羽根の回転速度は意外と速い。「キュイーン、キュイーン」。独特な風切り音を奏でながら、風車は風を電気に変える。

四国の風力発電所
四国の風力発電所
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■建設ラッシュ
  四国の風力発電は伊方町のほか、高知県の海沿いなどに集中。香川にはない。理由は「適した場所がない」から。風力発電は風車が回ってこそ。設置場所は、年間平均風速が毎秒六メートル以上ある岬や高地などに限られる。
  四国経済産業局によると、一九九四年に高知県室戸岬に発電出力三百キロワットの風車ができたのが四国の風力発電第一号。〇二年には七基だったが、〇七年三月には八十七基と約十二倍に増えた。一基当たりの出力も千―二千キロワット級が主力となり、総出力は八万六千キロワットに拡大。建設中のものをいれると百十四基、約十二万キロワットに達する。各風車は現在、自治体を含む十一の事業者が運営し、できた電気は四国電力が購入するなどしている。
  二酸化炭素を出さず、石油などの燃料を必要としない風力発電。風さえあれば無限にエネルギーを生み出せるため、世界的に増加傾向だ。日本もRPS法に基づき、太陽光やバイオマスなどとともに風力開発を推進。導入量も右肩上がりで〇七年現在、全国で約千四百基が稼働中だ。

主要国の風力発電導入量
主要国の風力発電導入量
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■供給が不安定
  とはいえ、国内の風力発電はエネルギーとしては「新参者」。ドイツやスペインに比べて導入量は劣るし、課題もつきまとう。騒音や景観、野鳥が風車に衝突する「バードストライク」などがそうだ。
  これらの課題について、風力発電研究の第一人者で「風車博士」として知られる足利工業大の牛山泉学長は、「周囲の地形や風向き、住民の暮らしを事前によく調査し、環境影響評価(アセスメント)に基づいて開発すれば、ほぼ解消できる」と指摘する。
  例えば騒音。国際基準は二百メートル離れた地点での最大騒音が四十五デシベル以下と規定。家庭で食事しながらする会話が五十デシベルなので、一定の距離をきちんととれば民家への影響は低いそうだ。野鳥被害も、風車が原因の例は極めて少なく、渡り鳥のコースをリサーチすることで回避できるという。
  では、これらが解消すれば即、風力が次代の有望な電源になるかというと、そう甘くないようだ。四国電力に尋ねたところ、返ってきた答えは「天候任せの面があり、現状は補完電源の域を出ない」。

国内の風力発電導入量の推移
国内の風力発電導入量の推移
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  同社によると、四国内の総発受電電力量に占める新エネルギーの割合は、〇七年度末で1%程度。当然、風力の占める割合はさらに低い。風任せの風力は電力供給が不安定なため、設備の利用率も原子力発電所が八割なのに対し、二割程度にとどまるという。
  国のまとめでは、全エネルギー供給に占める新エネルギーの導入実績は、〇五年度で2%。一〇年度に3%程度に引き上げるとしているが、牛山学長は「同じ国土面積で同じ工業レベルのドイツが日本の二十倍以上の風力を導入していることを考えると、もう一桁[けた]大きな目標値が必要」と強調。補完的なエネルギーとしてはもとより、将来的にはビル風を使ったり、太陽光と組み合わせながら分散型電源としての利用も提案する。大空を吹き渡る風を有効に使うための一層の工夫が必要だ。

メモ
  ▼RPS法(Renewables Portfolio Standard法・電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法) 石油や石炭など化石燃料の利用を抑え、地球温暖化を防ぐとともに、エネルギーの安定供給を図ることなどを目的に、電気事業者に一定割合以上の新エネルギーの利用を義務付けている法律。対象となる新エネルギーは▽風力▽太陽光▽地熱▽中小水力(1000キロワット以下の水路式)▽バイオマス(廃棄物発電のうちバイオマス由来分は対象として含む)の5種類。2002年6月成立、03年4月全面施行。06年度の新エネルギー等電気供給総量は65・1億キロワット時。主な内訳は▽風力21・4億キロワット時▽太陽光5・4億キロワット時▽中小水力9・4億キロワット時▽バイオマス28・6億キロワット時―など。国は14年度の利用目標量を160億キロワット時に設定している。事業者が正当な理由なく義務を履行しない場合、経済産業相は勧告、命令できる。違反すれば罰金が科せられる。

【取材】金藤彰彦、山田明広

(2008年7月6日四国新聞掲載)

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